第77話(最終話) 自由
「おかえり、シルちゃん、アーニャちゃん。」
ダンジョンの街にある私たちの家に戻ると、ミリーナさんが迎えてくれた。
「ただいま、ミリーナさん。他の皆は?」
「一応、皆この街にいるよ。私はメヴィの騒ぎを聞きつけてここに戻ってきた感じ、かな。」
ミリーナさんがメヴィの話を苦笑して話す。結構話題になっているのか。その内、皆戻ってくるかな。
その日の夜、シャムとマローネが帰ってきた。どうやら両親もこの街に移住してきたらしい。まぁ長く居たっぽい領都を出たばかりで、腰が軽かったのだろうね。
その後、メヴィが帰ってきた。随分テンションが高い。久々に盛り上がりの渦中に入って、楽しかったんだとか。そういうもんなのかねぇ。
翌日の朝、ルアノちゃんとプラノがやってきた。プラノがルアノちゃんと結婚するとか言い張っている。…ルアノちゃんもその内プラノの身長を超えると思うんだが。それでもいいのだろうか。
「皆揃ったようじゃな。」
「これからどうするにゃ?」
正直、微妙なところだ。一段落ついたこともあって、他のことにも手を付けたいと私は思っている。さすがに毎日朝から晩までダンジョンに篭もるっていうのもねぇ…。
「わらわはしばらく地下10階に篭もろうと思う。あのドラゴンを倒そうと思ってるのじゃ。」
「あのドラゴンかー…。」
「あのドラゴンが倒れる姿は想像出来ないわね…。」
シャムとマローネが難しい顔をしている。
「まぁ相当レベルを上げないと無理じゃろうな。今回はソロで倒してみようと思っておる。じゃから、おぬしたちには無理に付いてこいとは言わん。」
「……そういうことなら、ルアノとの甘い新婚生活を堪能しておく。」
「なんで結婚したことになってるのよ!?」
アーニャ以外、プラノとルアノちゃんのやり取りを微笑ましく見ている。アーニャは「プラノは本気にゃ…!」と衝撃を受けている。
「まぁそういうことなら、しばらくはメヴィのレベル上げに時々付き合いながら、他のこともやってみようかな。」
「私たちもそうしましょうか、シャム。」
「うーん…ちょっと後ろ髪を引かれる気分だけど、そうしよっかな。」
私の言葉に、マローネとシャムが追随する。
「私もそうさせてもらおうかな。元同僚の友達と、最近一緒にダンジョンへ行ってるんだよね。」
ミリーナさんも私の言葉に追随する。
「アーニャはメヴィに付いて行くにゃ!ここでパーティーを失うわけにはいかないにゃ!」
まだ悪名が強く残ってるのだろうか。むしろ、最前線に立った経歴であちこちのパーティーからひっぱりだこになりそうだけど。
「ふむ。レベル上げに協力してくれるのは助かるのじゃ。アーニャは足を引っ張るなよ。」
「大丈夫にゃ!」
しばらくはバラバラに活動、かな。ちょっと惜しい気もするけど、私もいろいろやってみたいしね。
メヴィたちがダンジョンへ向かう中、私は村の人たちの様子を見に一人別行動を取っていた。
さて、皆どうしてるかなぁ。
まずは家族の家に行ってみた。
「おはよ。ここの生活はどんな感じ?」
「あら、シル。おはよう。」
「おはよう、シル。」
「おはよう!」
母が私に気付き、挨拶を返してくれた。それに続いて、父と弟も挨拶を返してくれた。
「ここでの生活はとても便利よ。食事にも困らないし、分からないことがあればこのふわふわした子が教えてくれるものね。」
母がそう言って、ふわふわ玉を撫でる。実際に触れるわけではないので、光に沿って手を動かしているだけだが。
「そっか。何かやりたいこととかある?」
「そうね…。たくさんありすぎて困るわ。知らなかったことがたくさんあって、いろいろと試してみたいの。服を作ってみたり、お料理をしてみたり…今まで粗末なものしか作れなかったから。」
母が苦笑して、私や弟、そして父をちらりと見て言う。何だか、今まで私たちに粗末なものしか作れなくて申し訳なく感じているようにみえた。
でも…そっか。ちゃんとやりたいことあるんだね。
父はしばらく世の中のことを学んでみたいらしい。今までのように、やらなければならないことがないから。
弟は剣を作ってみたいと言っていた。そこはダンジョンに挑みたいって思うところではないのだろうか。メヴィの語りにあれほど食いついていたのに…。剣ってかっこいいよね、とキラキラした目で訴えてくる弟を見ていると、あぁ子供なんだなって思った。
何もしなくてよくなって、何をしていいか分からなくなっていたら、やりたいことを見つける手助けをしてあげようかと思っていた。だが、杞憂だったようだ。
その後、他の村人の様子も見て回ったが、まだここの生活に慣れきってないこともあって、今すぐに何もすることがなくて困っているという感じの人はいなかった。
食事をするにも、生活用品を揃えるにも、今はふわふわ玉にお店を紹介されているようで、外に出ていろんなものと触れ合っているみたいだ。その中で、気になることや試してみたいことが出てきているようにみえる。
外に出るって大事なんだなぁ。
とりあえず、村人たちのことは心配する必要もなさそうなので、私は久しぶりにアオのところへ行ってみた。といっても、アオがどこにいるのか分からないので、フレンドリストから呼び出した形なのだけどね。
私は人気のない住宅街の一室に入る。そこで、アオがティーセットを用意して迎えてくれた。何だかお貴族様になった気分…。
「お久しぶりです、マスター。」
「久しぶり、アオ。最近はどう?」
私はティーセットが用意された机の椅子に遠慮なく座る。アオは私に紅茶らしきものをいれてくれて、それから私の向かいに座った。
「だいぶ人が増えてきました。新しく生まれた子供も多いです。」
「ぶっ。」
私はちょうど紅茶を飲んでいて、むせてしまった。決して、誰かみたいに吹き出したりはしていない。
…子供、ね。まぁ生活に困らないし、この街にいると自動的に浄化の魔法が掛かるから清潔だろうし、小綺麗にはなるのかな?
「食料の方も順調に育っているので、近いうちに自給できるようになります。畜産物はもう少し先になりそうです。」
お肉まで自給するのか。
「ダンジョンの方は優先度を下げているため、バランス調整やアップデートはしばらく見送る予定です。」
お、おう。アップデートとか考えてたんだ…。
「そういった意味では現在処理が追い付いていないため、魔法の最適化を順次進めています。」
「メヴィから魔力を分けてもらえばいいんじゃないの?」
「使用する魔力量が増えると、暴発した時のリスクが高まります。なるべく少ない魔力量で回すのが良いと考えています。また、彼女の負担も考慮すべきです。」
「そ、そっか。」
どうせ底なしなんだしって気にせず使わせてもらってたよ…。うん、そういう思いやりは大事だよね。親しき中にも礼儀ありっていうし。
他にも街に掛けている魔法について、いろいろと教えてもらった。やっぱりこういう内部の仕組みとかって興味深いよね。そんなわけで、気付いたら夜になっていて、アオに背中を押されて家へ帰った。情けないマスターでごめんね…。
「そっかー。村の人たちもうまく馴染めてるようで良かったね、シルちゃん!」
家に帰ると既にルアノちゃんとプラノ以外の皆が戻ってきていて、私は今日あったことを話していた。
「うちの親もさー、ここで食堂開くつもりみたいなんだけど、全然味が敵わないみたいなんだよね。まずは料理の腕をあげる修行から始めるって意気込んでるよ。」
「私の親は鍛冶の体験講座みたいなのを始めているわ。ここだとわざわざ鍛冶仕事を手作業でする必要なんてないもの。趣味として皆に楽しんでもらおうと考えているみたいよ。」
皆それぞれ何かやることを見つけて、取り組んでいるようだ。素晴らしいね。
「アオにそんな心配をしてもらうとはのぅ。特に負担とは思ってなかったが、そう言う風に心配してもらうのもなかなか嬉しいものじゃな。」
ごめんなさい、メヴィ…。
「あ、そうだ。メヴィ、少し多目に魔力くれないかな?やろうと思ってたことが終わっちゃったし。」
「シルよ。今の話の流れを分かって言っておるのか?…まぁ構わぬが。そういうところはシルらしいのじゃ。」
あはは、言ってるそばからごめんね…。
「一体何するつもりなの、シルちゃん?」
ミリーナさんが尋ねてくる。
「うーん、成功したら教えてあげる。」
私ははぐらかす。
「気になるにゃ!」
アーニャが私の肩を揺らして問い詰めてくる。私は猫耳を撫で回す。
「ふにゃあ〜…。」
アーニャがふやけた。ふっ、伊達に猫耳を触り続けていないのだよ。
私はメヴィから魔力を吸い取り、とある魔法の陣を頭の中に思い浮かべる。もうだいぶ昔になるんだな…。
そして、魔法が発動される。目に見える魔法ではない。
『私はこちらの世界で、自由気ままに楽しくやっています。最初は緑色の肌に小さな2つの突起が頭に付いていて、どうなることかと思いました。でも、今では心強い仲間がついています。
これが届けば、きっと実験が成功したと期待を持てるでしょう。
by シル』
「何を使ったにゃ?」
「結果が出てからのお楽しみ、ってね。」
皆が首を傾げる中、私は笑って誤魔化す。
数日後。
『詳しく』
短っ!
返事が来たと思ったら、たった3文字だった。…まぁ膨大なエネルギーが必要だしね。向こうじゃこれだけの文字送るのに数億円とか掛かるんだろうなぁ。あはは…。
よし。これまでのこと、前世の私に教えてあげるかな!
以上で終わりです!
最終章、グダグダでした。もうなくてもいいかなって思ったのですが、まぁ一応…。
いくつか作品の候補は持っていて、2つほど既に投稿しています。そちらは少なくとも日刊は無理だと思います…。もし良ければ、私のユーザ情報のページから興味のある作品か覗いてみてもらえると幸いです。
1ヶ月ちょっとで書いた作品でしたが、ここまで読んで頂き、ありがとうございました。