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自力で転生した少女  作者: 10bit
第10章(最終章) やりたいこと
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第75話 帰省

「死んで生き返ったら、覚醒スキルのクールタイムがリセットされていたのじゃ。」

 あの時どうして覚醒スキルを使えたのか聞いたら、そう答えていた。




 私たちは今、街から私が居た国まで続く街道を、空飛ぶバスに乗って移動している。いつの間にか乗合バスが運行していた。


「シルの故郷か。どんな辺鄙なところなのかのぅ。」

「魔物と間違って殺さないように気を付けるにゃ。」

 人の故郷を何だと思っているのか。まぁどういうところか伝えたのは私だけど…。


 今、私と行動してるのはメヴィとアーニャである。地下10階を攻略して一段落が付いたので、一度故郷に帰ってみることにしたのだ。

 その話を聞いたシャムとマローネも帰省することにしたらしい。2人は先に出発していて、今頃親元へ到着しているだろう。

 私たちがしばらく不在にするということで、プラノはルアノちゃんの家にお泊りするらしい。ルアノちゃんではなく、ヴィアナ様にまず許可を取ることで、ルアノちゃんを丸め込んだそうだ。だんだんプラノのやり口が巧みになってきたな…。

 ミリーナさんは街で昔の職場の同僚に会ったらしく、街に残って同僚としばらく行動を共にするらしい。積もる話もあるのだとか。


 で、メヴィとアーニャなのだが。

 メヴィはほとぼりが冷めるまで街を離れたいらしい。地下10階の攻略に成功し、街中が歓迎ムードの中、メヴィはMVPとしていまだに持て囃されている。メヴィが街を歩くだけで、『メ・ヴ・ィ!メ・ヴ・ィ!』とコールが起こるくらいに。メヴィは再び街に戻ったら、地下10階に篭もるつもりらしい。あのふざけたドラゴンを倒すんだとか。

 アーニャは皆が休んでる間、行くところもないので付いてきた感じだ。



 例の王国に到着したようで、私たちは乗合バスから降りる。いつの間にか、門の外側に障壁魔法が張られた空間が作られたようだ。門で検問が行われている。

 私たちは検問をしている門番のところまで行き、デミアルト様からもらった紹介状を提示する。それを見た門番が慌てて上司らしき人を連れてくる。そして、その上司らしき人が、私たちの魔力が登録されているか、登録されていなければ登録するために、魔力を調べる。気持ちは分かるが、そんなに怯えないで欲しい。

 この国では魔人のイメージとして、メヴィの姿が定着している。なので、絶対に何か問題が起こると思ったのだ。そこで、事前にデミアルト様に手を回しておいてもらった。いわば、国王直々に許可をもらっている状況である。決して、脅してはいない。


「この国が障壁で囲まれてからは初めて来たのじゃ。」

「そんな昔を知ってるなんて、メヴィは意外とババアにゃ。」

 私たちが門の中に入ると、メヴィとアーニャが口を開き、アーニャのほっぺをメヴィが横に引っ張っている。引っ張る力は程々にね…。


 ランク3の魔法を使える位置まで移動して、私とメヴィが空を飛ぶ。

「ま、待ってにゃ!?なんで飛べるにゃ!?」

「アーニャが魔法で動きを速くするのと仕組み的には近いんだけど…やってみたら?」

「無理にゃ!?」

「面倒なやつじゃな。」

 仕方がないので、私がアーニャを背負って空を飛ぶ。周りに居た人は私たちが空を飛んでいることに驚いて騒いでいる。早く空馬の文化は捨てたほうがいいと思うよ…。


「ランク3の魔力じゃと速度があまり出ないのぅ。」

「いや、これ以上の速度で飛んだら衝撃波でちゃうじゃん。」

 音速超えちゃうからね。こんなところどころに町があるようなところをそんな速度で飛ぶわけにはいかない。




 私が先導して飛ぶこと数時間。私が村を出て最初に滞在していたドラリアの町に到着した。人目につかないところでそっと降りてから、町へ向かう。

「そろそろお昼だから、ここで何か食べていこっか。」

「シルの村じゃダメなのにゃ?」

「私のいた村は貧しいからね。お世辞にも美味しいとは言えるものはないなぁ。」

 まぁあのダンジョンの街に比べたら、この町の食堂の味も微妙だとは思うが。


 私は、監視人料込み銀貨1枚+銅貨30枚を3人分支払う。冒険者カードはまだ持ってるが、他2人の分はどっちにしろ払わないといけないので、一つにまとめて払うことにした。ちなみにお金はシャムたちから冒険者だった時の分を貰った。まぁアオから貰っても良かったのだが。


「…どうしたんですか?じろじろ見て。」

 監視人の男が私の顔を見てくる。

「いや、昔ここに来た冒険者にそっくりだと思ってな。あの時は俺じゃなくて、女の門兵が監視人をやってたんだが、随分仲良くやっていたんだ。今でも顔をよく覚えてるんだよ。名前も同じだしなぁ。」

 ああ、なるほど。私がここに初めて来た時にもここで門兵をしていたのか。まだ20代に見えるが、出世出来てないんだなぁ。



 とりあえず、私は冒険者ギルドにやってきた。

「なんで冒険者ギルドにゃ?」

「いつも家で食べてたから、あまり食堂に詳しくないんだよね。」

 シャムとマローネの3人と一緒に入った食堂が唯一である。


「こんにちわ、おじさん。ここら辺で一番美味しい食堂ってどこですか?」

「んなっ?!…あんたシル…か?」

 あ、やっぱり顔を覚えてたんだ。後ろで監視人の男がやっぱりそうだよなぁと呟いている。


「あはは…。別人じゃないですかねー。それより食堂を教えてもらえませんか?」

「それよりって…。まぁいい。ってか、ここは冒険者ギルドだぞ?案内所じゃねえ。」

 と言いつつも、おすすめの食堂をいくつか教えてくれた。いくつも食堂あったんだ、この町。後ろに居る監視人の男が何で俺には聞かないんだと嘆いている。いやだって、冒険者ギルドのおじさんの方が信用できるし。


 私はギルドのおじさんにお礼を言うと、私が行きたいと思った食堂に2人を連れて行く。


「別に構わんのじゃが…何でここにしたんじゃ?」

「アーニャは魚が食べたかったにゃ。」

「相談すると面倒かなーって思って。お金出すの私だしさ。それくらい決めてもいいじゃん?」

 だって、私は野菜が食べたい気分だったのだ。


「…微妙にゃ。」

「…まぁ、うん。」

 ダンジョンの街でいつも食べる食堂はやはり別格なのが分かる。そもそも、アオの操るふわふわ玉が提供する食事のレベルが高すぎるのだ。必然的に、それに匹敵するレベルの料理人の居る食堂しかやっていけない。

「やっぱり酒はいいのぅ。」

 そしてメヴィは昼間から酒を飲んでいる。…まぁいいけどさ。監視人の男も昼食はまだだったようなので、奢ってあげた。メヴィと酒盛りをしている。仕事中に酒とか、上司に通報するよ?



「ありがとうございました。」

「おぅ。また来てくれよな。」

 私たちは監視人だった男に別れを告げ、私の故郷の村へと向かう。




「今でもこんな村があるんじゃのぅ。」

「思ってたより酷くないにゃ。」

 久しぶりに故郷に帰ってきた。私が居た頃と変わっていない。私は今、肌の色を薄緑色に変えている。やっぱり元の姿で会わないとね。瞳と髪は戻さないけど。


 私たちは村に入る。


 村の畑では農作物が緑色に大きく茂っており、村人たちが雑草を引き抜いている。

「誰も気付かないにゃ。」

「まぁ人が来ることなんて滅多にないからね。」

 集まって建てられている民家の合間を、私たちは人とすれ違うことなく進んでいく。


 私の住んでいた家の前までやってきた。


 戸を叩く。けれど、反応がない。


「皆畑に出てるにゃ?」

「まぁそうだろうねぇ。」

「どうするんじゃ?」

 私は念のため、戸を開けて中を確認したが誰もいなかった。

「畑に行ってみるかー。」

 あんまり目立ちたくはないのだけれど。


 私たちが畑に向かうと、気付いた村人が騒ぎ出す。

「何者だ…?」

「主様…ではないわよね?」

 ここに来るのが、飼い主?雇い主?のみだからか荒々しい態度をいきなり取ってくることはなかった。というか、私の顔は忘れたの?


 そんな村人のどよめきが広がって、村長が私たちに気付いたようだ。うーん、私の家族はどこに居るのだろう。

 村長がこちらへ近付いてきた。


「お久しぶりです。村長。」

「おまえ…シルか?」

「そうです。後ろの2人は仲間のメヴィとアーニャです。」

「よろしくなのじゃ。」

「よろしくにゃ、村長!」

 私が2人を紹介する。村長は驚いた顔をしていたが、すぐに落ち着いたようだ。


「なにしに来たのだ。」

「ちょっと里帰りに、と思って。仕事が一段落ついたので、顔を見せにきただけですよ。」

「…そうか。」

「私の家族はどこにいますか?」

「あの辺りにいるだろう。今は仕事中だ。急ぐのでないなら家で待っていた方がゆっくり会話できるだろう。」

「そうですね。家で待たせてもらいます。家は変わってないですよね?」

「ああ。変わってないぞ。」

 私は村長が指差した方向を見るが、大きく育った農作物に隠れてよく見えなかった。


 私たちは回れ右をして、先程向かった家族の家にもう一度向かう。

「このボロ家で待つにゃ?」

「おぬしは本当に口が悪いのぅ。」

 メヴィがため息をついている。家の中でアーニャを懲らしめよう。



 私がアーニャの猫耳をもふもふしてると、家族が帰ってきた。

「シル…!」

「本当に帰ってきていたんだな。」

 母が目を涙で滲ませている。私はアーニャを脇にどかして、母のもとへ向かう。


「ただいま。お母さん。」

「シル…ぐすっ…おかえりなさい…!」


 私は母と抱き合い、ただいまの挨拶をする。母の後ろには父と、もう私より背が高くなった弟がいた。弟は少し戸惑うような、怯えるような様子をしている。



 しばらく母と抱きしめあった後、私は家族と積もり積もった話をした。といっても、家族は相変わらずだったみたいなので、家族の方は特段積もる話もなかったようだが。

 最初はメヴィとアーニャに人見知りしていたらしい弟も、私の旅話を聞くと目を輝かせていた。途中からメヴィがダンジョンの話を弟に語ってくれて、弟はそれを興味津々に聞いていた。


「実は最近、そのダンジョンの街の件でこの村が混乱しているのだ。」

 一通りざっくりと話し終えたところで、父がそんな話をし始めた。言っちゃなんだが、こんな辺鄙な村に何か影響があるんだろうか?


「その街が話題になり始めた当初、その街には食料がないということで主様が急遽、畑の拡張を決めたんだ。それで主様と同じ猿人の方々がそのための作業を行うために多く訪れたんだが、数ヶ月後に突然食料が必要なくなったと言われた。それも今までの分についても、だ。これからはおまえたちの自由にしていいと言われた。今、俺たちは畑で食料を育てているが、あれは主様に納める分ではないんだよ。」


 …なんとなく理由が分かってしまった。


 ダンジョンの街を作った当初は、荒れ果てた大地に食料がまったく無かったので、輸入するしかなかった。だが、まだ一年も経っていないが、既に相当数の農作物が収穫出来ている。魔法のおかげだ。この村では一年、正確には春夏秋の約9ヶ月だが、掛かって育てるところをダンジョンの街では3ヶ月とかで育ててしまっている。いまだ改良中で、さらに育成期間は短くなるだろう。つまり、輸入が必要なくなってきているのだ。

 輸入が必要になった時は、恐らく食料が値上がりしたのだろう。あの街が出来た当初は、今までの最高品質に近い魔石を大量に吐き出して、食料を購入していたのだ。それこそ何千倍、何万倍という値段で買っていたのではないだろうか。

 だが、その魔石も大量に供給されるようになり、一気に価値が下がったはずである。必然的に食料を買う値段も下がる。ここまではあっという間だったと思われるので、末端ではそれほど大きな影響はなかったかもしれない。それでも以前よりは高値で取引されるようになったのだろう。

 しかし、ここでダンジョンの街が自給出来るようになってきてしまったわけだ。あの街が買う食料がなくなったわけで、以前の状態に戻ってしまった。と、それだけならまだ良かったのだろう。実際にはこの王国から大量の人がダンジョンの街に移り住むようになった。今なお、それは増え続けている。そうすると、王国内の人口が急激に減ってしまったことになる。そこに、今までと同じ量の食料を売りに出したところで、価格崩壊が起きるのは目に見えているだろう。


 ようは主様は破産したのだ。


「そうすると、今育ててる食料は自分たちで食べる分、ってこと?」

「そうなるな。…とても食べ切れないと思うが。」

「余った分を安くても売ったりはしないの?」

「売り方を知らないんだ。だから、外の世界を見てきたシルならどうすればいいか分かるんじゃないかと思ってな。」

 どうすればいいか、ね。


 仮に安く売ったところで、今まで主様が揃えてくれていたものを同じように揃えるのは無理だろう。特に畑仕事に必要なものが揃えられないと、農作物を作ることすらままならなくなる。

 状況的に、今すぐどうこうなるとは思えないが、近い将来、この村は潰れるかもしれない。


 …ま、そんな難しいこと、考えなくていいんだけどね。


「簡単だよ、お父さん。」


 私は顔の表情を緩めて言う。




「ダンジョンの街に引っ越せばいいんだよ。」




 この章は短めで、明日2話分投稿して、この作品は終わりになります。




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