第73話 不死身
「暴れだしたにゃ!?」
地下10階、城の中の正面ボスである悪魔。
私が麻痺で動けない間に、撃ち落とされた悪魔の身が赤みを帯びて、そのまま飛び上がらずに暴れだす。
「チャンスじゃ!」
私、動けないんだけど!
メヴィ、プラノ、アーニャが悪魔の暴れ狂った攻撃を避けつつ、攻撃を入れていく。シャムとミリーナさんは後ろへ下がっている。
ちょっ、私の方向に近付いてきてるよ!
と思ってると、ミリーナさんが動けない私を抱きかかえて離れてくれた。
ありがとう、ミリーナさん!麻痺で声出ないけど!
悪魔が暴れ狂い始めて1分程経過して、マローネの即死級魔法が発動した。悪魔がうめき声を上げて倒れる。そして、黒い靄となってその姿が消える。
「やったにゃ!?」
「ついにやったのじゃ!!」
『まだだ…。まだ死ねぬ!!』
悪魔の声が響くと、姿を黒い靄に変えていた悪魔が、空中で再び悪魔の姿を現す。
「んなっ?!生き返ったじゃと!?」
「ふ、不死身にゃ?!」
「赤いオーラまで帯びてるじゃん!?」
皆が驚く中、赤いオーラを纏った悪魔が空中で咆哮を上げると、物凄い数の攻撃魔法を発動させる。
「無理でしょこれ!?耐えられないわ!」
「撤退するのじゃ!」
マローネが驚き叫ぶと、メヴィが撤退の指示を出す。私たちは一斉にログアウトする。
「最後の覚醒して魔法はないっしょ…。」
「生き返るとか…。」
「私、最後まで体動かなかったんだけど。」
どうやらあの麻痺は時間経過で治らなさそうだ。シャムとルアノちゃんが信じられないといった顔をして呟いている。
「あれ?メヴィちゃんたちは?」
「まだ戻ってないにゃ?」
ミリーナさんがメヴィとプラノが居ないことに気付く。アーニャがメヴィとプラノが居る台座を見て戻ってないことを確認している。私がモニターを取り出して、メヴィたちの様子を伺うと、丁度マローネの即死級魔法が発動し、悪魔が床に叩きつけられて黒い靄になるところだった。
「って倒したの!?」
「…嘘でしょ?」
「あの魔法を避けきったにゃ…?」
私が驚き声を上げると、皆が私の出したモニターを覗き込む。
「嘘ぉ?!また復活してるじゃん!」
「どうやって倒すのよ、これ…。」
「何か他に倒す方法があるのかな?」
黒い靄となった悪魔が再び復活していた。本当に不死身かこいつは…。
「無理じゃ無理じゃ!わらわたちの攻撃ではビクともせんわ!」
悪魔が復活してすぐにメヴィとプラノが戻ってきた。
「どうやってあの魔法を避けたにゃ?」
「すべては避けきれんかったのじゃ。ただ、降り注ぐタイプの魔法が多かったから意外と避けやすかったぞ。プラノは最後、状態異常に掛かっておったがの。」
まだ状態異常使ってくるのか。
「それにしても、何度でも復活されたら倒せないわよ?」
「台詞的には何度かトドメを刺せばいけそうじゃったがな。『この魂、削られ切るまでは!』じゃったかの。」
「おー。いかにもだね!」
「じゃが、さすがにそう何度も倒すのは難しいとは思うのぅ。」
「私の魔法でないとダメージが通らないなら、確かに難しいわね。さすがに私にはあの魔法は避けられないし、耐えれないわ。」
今回はタイミングが良かったけど、私一人じゃ私が状態異常になるとどうしようもないんだけど…。
「追々考えるとして、とりあえずレベル上げじゃな。」
「確かに、即死級魔法のようなものをまだまだ覚えられるかもしれないわね。」
「うむ。今回は覚醒スキルの後もどんどんスキルを覚えてるからのぅ。何か使えるスキルを覚えるかもしれん。」
なるほどね。確かにこの階のスキルは今まで一番豊富だ。まだまだ便利なものを覚えるかもしれない。
私たちは再び城の前へやってきた。
「あれ?開かないよ?」
「なぜじゃ?」
城の前の悪魔の石像に、障壁貫通の攻撃魔石を使ったのだが、扉が開く気配がない。
私たちがしばし首をひねって突っ立っていると、声を掛けられた。
「今他のパーティーが入ってるよ。さっき入ったばかりだから、しばらく出てこないんじゃないかな?」
「なんじゃと?」
これって先に入ったパーティーが出てくるまで次のパーティーが入れないんだ…。
私たちが教えてくれた人にお礼を言って、今後のことを皆で相談する。
「うーむ、どうするかのぅ。」
「効率は悪くなるけど、外で狩るしかないんじゃないかな?」
「城の中みたいに隠し狩場みたいなのないかなぁ。」
「そんなものがあったら苦労しないと思うわ。」
まぁその通りである。あ、でも。
「この前、掲示板に花の匂いを出すモンスターに関する情報があったよ。あれって地中に居るモンスターが出してるんだって。あの匂いがするところに拳くらいの大きさの穴が空いていて、その地面を思いっきり叩くと地面が崩れてでっかい一角の兎が居るんだってさ。中に他にも大量のそれより小型の一角兎が居て、見つけた人は即死したみたい。」
「隠しの狩場にゃ!」
「経験値効率良さそうだね!」
「行ってみるかのぅ。」
そんなわけで花の匂いがする場所までやってきた。定期的に私が解毒魔法を掛ける。
「お、これかな?」
シャムが穴を見つけたらしく、スキルで地面を叩きつける。
「落ちるにゃ!?」
「もう少し慎重にやりなさいよ!シャム!」
「あはは、ごめん…。」
落ちながら会話している。結構な範囲が崩れたせいで、私たち全員穴に落ちてしまった。
「いた…くないにゃ?」
「……もふもふ。」
「癖になりそうだね。」
柔らかいものの上に落ちたみたいだ。プラノとミリーナさんがその触感の虜になりつつある。白い毛が生えているので、たぶん例の兎だと思うのだが…。
「行くぞ!」
いつの間にか柔らかいものから飛び降りていたメヴィが号令を出す。すると、私たちの足元に魔法陣が出現する。
「ええ!?」
「戦闘開始みたいね。」
シャムが驚き、マローネが早速このでかい兎に即死級魔法を使う。
私たちも柔らかいものから飛び降りると、穴の中には横穴が広がっており、大量の一角兎が居た。
「大量にゃ!」
「多すぎない!?」
メヴィとプラノは既に乱獲を始めている。私たちもそれに続いて、乱獲していく。
飛んでくる魔法の数が半端ないけどね!
数時間後、一角兎はいまだ途切れることなく湧き続けている。でかいやつはマローネとシャムが数分で倒した。
「これはうまいのぅ!」
「素材もざくざくにゃ!」
素材、めっちゃ偏ってるけどね。経験値も一匹一匹は大したことはないのだが、数が尋常ではない。まぁ城の中のスライム狩りとどっこいどっこいと言ったところだろうか。あっちは宝玉が手に入る分、ドロップがうまいと言えるかもしれない。
その後、途絶えることのない兎を時間まで狩り続けて、お開きとなった。私たちは地上へ戻る。
「今、ちょっといいか?」
私たちが帰ろうとすると、鳥人の男から声を掛けられた。その男の周りには、鳥人以外に猿人も相当数居る。
「おぬしらは今日、あの悪魔に挑んでいた鳥人パーティーかの?」
「ああ、そうだ。後ろの奴らも全員パーティーメンバーだぜ。ダンジョン内では全員鳥人をやっている。
今日のあんたらの悪魔との戦いはリアルタイムで見させてもらったぜ。前々から思ってたが、あんたら本当にすごいな。
そんなあんたらに頼みがあるんだ。」
「なんじゃ?」
「俺達と一緒に悪魔を倒さないか?」
「ふむ。確かにわらわたちは後少しじゃったしのぅ。おぬしらが加われば倒せるかもしれんな。」
「ああ…と言いたいところだが、俺達はまだレベルが低い。今のままじゃ足を引っ張りかねねぇ。だから俺達のレベルが上がってから一緒に挑んで欲しいんだ。」
「足を引っ張る…か。なかなか面白いやつじゃな。わらわは構わんぞ。皆はどうじゃ?」
え!あのメヴィが、他のパーティーと組むって?
「アーニャは別に構わないにゃ!」
「メヴィがそんなこと言うなんて珍しいね。まぁでも、私は構わないよっ!」
「私も構わないわ。むしろ今まで誰とも協力してこなかった方がどうかと思うわ。」
「期限までまだ日にちはあるけど、早く倒せるならそれに越したことはないと思うわ。」
「メヴィちゃんが良いなら私も構わないよ。」
アーニャ、シャム、マローネ、ルアノちゃん、ミリーナさんとOKを出す。
「私も構わないよ、メヴィ。ついでだし、あの大人数パーティーも混ぜたら?」
「逆に動きにくいと思うのじゃが、…まぁそっちのパーティー次第じゃな。」
「俺たちは組めるならその方がありがたいぜ。火力は多いに越したことはないからな。」
「ふむ。なら、交渉は任せても良いかの?」
「あー、伝手がないんだが…。」
「わらわたちと同じように声を掛ければ良いじゃろ?あやつらは国の代表みたいなもんじゃからな。第一の目的はダンジョン攻略のはずじゃ。きっと応じてくれると思うぞ。」
「国の代表だからこそ、話し掛けにくいんだがな…。分かった。交渉してみる。」
「まぁダメならダメで構わんしの。あまり気負うでないぞ。」
酷いなすりつけを見た気分だ。こっちは伝手も一応あるし、国の代表だからといって話し掛けにくいなんていうことはない。メヴィは交渉が面倒だったのだろう…。
鳥人パーティーと組むことが決まってから2週間が経った。大人数パーティーも快諾してくれたようで、3パーティーが集まった合同パーティーが出来上がった。ここ最近はよく一緒に城の中に入ってレベル上げをしていた。人が増えた分、私たちは経験値の効率が下がったが、他の人たちは上がったらしい。
私たちはお昼を食べるために、一旦合同パーティーから抜けて、食堂へやってきた。
「これから大人数パーティーがドラゴンの様子見するんだっけ?」
「そういえば、あのドラゴンもやばかったわね…。悪魔より強い気がするのだけれど、気のせいかしら?」
「わらわもそう思うのぅ。隠しボスかなんかなんじゃろ。」
シャムが話題に出すと、マローネ、メヴィとドラゴンのことを話し出す。あのドラゴンやばかったよね…。
私たちがドラゴンについて会話していると、モニターに大人数パーティーがドラゴンの居た部屋に入ったのが映し出された。
そして、ドラゴンが魔法陣から出てくると…大人数パーティーが突然光り輝き、爆発した。全員、光の粒子となって消える。
「…え?」
「何が起きたんじゃ…?」
「人が爆発したにゃ…?」
どういうことなの…?
「…後で聞いてみましょう。」
マローネの言うように、聞くのが一番早いか。
「『ウジャウジャト、不愉快ダ。』と言った後に、ドラゴンが自身の胸を叩くと空気が震えだし、私たちの体が光りだしたのだ。その後、体が爆発して即死だ。」
「…台詞を聞く限りでは、パーティー人数が多いと使ってくるようじゃな。人数制限でもあるのかもしれんのぅ。」
「厄介なものだ。…あれがダンジョン攻略に必須でなければ良いのだが。」
「まぁ、悪魔を倒してみれば分かるじゃろ。」
大人数パーティーの代表らしき男が説明してくれた。…これ、絶対に悪魔より強いでしょ。
数日後、こうして私たちは合同パーティーで地下10階のフロアボス、悪魔に挑むことになった。
…だって、ドラゴンは私の経験から隠しボスに違いないと思うもん。