第8話 強くなる方法
「角くらい気にしなくてもいいと思うよ。」
今日もまたミリーナさんと冒険者ギルドに向かっている。途中、露天で朝と昼用に固いパンを購入した。ここで量を減らすとミリーナさんに奢ってもらう晩ご飯でたくさん食べてしまうので、量はしっかり買っている。そのせいもあって2食分で銅貨10枚の出費となっている。
「でも、私たち猿人以外は冒険者くらいしか居ないから。その格好は悪くないと思うよ。シルちゃんみたいな可愛い子だと誘拐されちゃうかもしれないしね。」
「心配してくれて、ありがとうございます。」
とは言え、いつかは監視人も付かなくなるだろうから身を守る術を身に着けたほうがいいかもしれない。
最近の私の生活は、日が昇ってすぐに出発し、朝昼の食事を買って冒険者ギルドに行き、採取依頼を受け、仮身分証を受け取る。そして、袋いっぱいに採取して納品することを日が暮れるまで繰り返し、最後にまた冒険者ギルドに行って仮身分証を返す。
本当は仮身分証はずっと持っていても良いのだが、始まりと終わりの挨拶をすることで冒険者ギルドでの印象を強くするために、そうしている。おかげで何か1つ、実績を上げるだけで1ヶ月経過後には冒険者カードをくれるらしい。
しかし、今以上に難しい依頼は恐らくこなせないだろう。
討伐依頼はまず無理だ。倒せない。
採取依頼にしてもこれ以上奥地になると、魔物に襲われるリスクが高くなる。今くらいなら街道沿いまで出てしまえば、魔物から逃げられるが、奥地だとそうもいかないだろう。
護衛依頼についても同じだ。守れる自信がない。
結局、冒険者は腕に自信のある者がなる職業であって、他に仕事がないからとやるものではないのだ。
日々の繰り返す生活の中で、ミリーナさんや冒険者ギルドのおじさんから、いろいろな事を教えてもらった。その中で1つ気になる情報を聞いた。
「この町の人は皆、魔法が使えるんですか?」
「そうだよ。例えば生活魔法と呼ばれるものだと、火起こしの魔法や、そよ風を起こす魔法とかかな。
冒険者や私たち兵士なんかはもっと戦いに使える威力の魔法を使うよ。
特に貴族や王族なんかは桁違いの威力の魔法を使うの。」
「私も魔法が使えるようになるんでしょうか?」
「多分、使えるようになると思うよ。ただ、魔法を教えてもらうのに結構お金掛かるから厳しいかも。ランク1の生活魔法レベルだったら銅貨10枚くらいで済むと思うけど、冒険者が使うランク2やランク3の魔法はかなり高いからね。」
「…ちなみにランク2やランク3でお幾らなんでしょうか?」
「うーん、ランク2で金貨10枚くらいかな。ランク3だと白金貨10枚くらいすると思うよ。」
「金貨10枚…。皆さんどうやってそんなに稼いでるんでしょう…。」
「うーん、シルちゃんが今やってる依頼よりももう少し難しいのをひたすらやってお金を貯めるのが普通だと思うけど。
この町は比較的小さい町だからね。周りの魔物も弱いのばかりだから依頼も少なくて稼ぐのは難しいかも。」
「他の町に行けばもっと楽に稼げるんですか?」
「楽ではないと思うよ。魔物も強くなるし、命を落とす危険が高くなるから。」
「確かに…。」
「それにしても、シルちゃんって魔法使えなかったんだね…。あんなに魔石持ってたからバリバリの魔法使いだと思ってたよ。とりあえずランク1だけでも覚えてみたら?」
「そうですね。覚えるならどんな魔法がいいんでしょう?」
「うん?ランク1はランク1だよ?」
「いえ、ランク1のどの魔法を覚えたらいいのかなと。」
「あー、ええとね。ランク1の魔法を教えてもらうっていうのは、ランク1の魔力の流れを教えてもらうってことなの。実際に使う時には、その魔力を動かして特定の陣を構築することで発動出来てね。その陣については、一般的なものなら難しくないから私が教えてあげるよ。」
「ええと、そうするとランク2はランク2の魔力の流れを、ランク3はランク3の魔力の流れを教えてもらうんですか?」
「うんうん。」
「それって独学では無理なんですか?」
「…無理だと思うよ。1万年前に一人いたみたいだけど、その後は誰も独学で成功してないみたい。感覚的なものだから一度覚えてしまえば簡単だけど、そこに至るまでが難しいみたい。」
「それってどうやって教えてもらうんですか?」
「ランク1ならランク1の魔力を体に流してもらうの。かなり特殊な陣だから教えることが出来る人は少ないみたい。」
「なるほど…。」
魔法、か。銅貨10枚ならすぐに支払えるし、とりあえず覚えてみよう。