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自力で転生した少女  作者: 10bit
第9章 攻略
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第72話 追随

 地下10階の城の中、左の部屋の一番上にある通路から、マローネとルアノちゃんが魔法でちまちまと青いスライムたちを倒す。


「思ったより少ないわね。」

 下の床が見えてきた辺りでマローネがそう口にする。

「確かに、もっと居たと思うのぅ。」

「…もしかして、エレベーターの下の隙間に溜まってる?」

 エレベーターの下に道がある、みたいなパターンが昔あった気がする。

「なるほどのぅ。あの下に何かあるかもしれんの。」

「このエレベーターって、乗ったらまた下へ動くものなの?」

 シャムが素朴な質問を投げかけてくる。たぶん、動くはず。こういう時は、ね。


 マローネとルアノちゃんによって青いスライムの殲滅が終わる。やはり、エレベーターの下はぽっかりと穴が空いていた。

「さて、どうやってあの穴に入るかのぅ。」

 メヴィが壁を見ながら言う。いや、何をする気か知らないけど、無理だから。

「途中までエレベーターで降りて、飛び降りよう。それで行けるんじゃないかな?」

 私が無難な方法を提案し、それで試してみることにした。


 私たちが丸い台に乗ると、下へと動き出した。そして、適当な高さまで下がったところで、皆で飛び降りる。さすがに素早さ特化の2人以外は落下ダメージを受けてしまったが、すぐにエレベーターの下の穴へ飛び込んだ。


 エレベーターが止まる。


「きゃっ!?」

 ルアノちゃんの声が響く。エレベーターの丸い台が蓋になって、真っ暗になってしまったのだ。マローネが炎魔法を使って、周りを照らす。確か飛び降りた時に扉のようなものが見えた気がする。


「ふむ。隠しエリアかのぅ。」

 メヴィが扉を開けると、真っ暗な通路が続いていた。

「…地下8階の時みたいに暗くて戦いにくそうね。」

 マローネが難しい顔をしている。今回は薄明かりもないので、更にやりにくいだろう。

「マローネかルアノか、どっちかは明かり用の炎を頼むぞ。」

 マローネが明かりを担当するようで、一定時間毎に炎魔法を使いながら、メヴィを先頭に奥へと進んでいく。



「…ここにもスライムじゃな。」

「ひぃええええ!」

 メヴィがそう言って真っ先に突撃する。シャムはもう嫌だとミリーナさんにしがみついている。おかげでシャムだけでなく、ミリーナさんも戦闘に加われない。まぁスライムくらいなら問題ないけど。ミリーナさんは苦笑してシャムを見ていた。


 ちなみにルアノちゃんはプラノにしがみついている。炎魔法だけではうまく照らしきれず、また道が入り組んでいて、あちこちに良く分からない骨が落ちているのだ。奇妙な音が先程から響いていて、どこのお化け屋敷だって感じである。お化け役はスライムだ。


 メヴィが主にスライムを倒して進んでいくこと数時間。入り組んだ道を何度も行き止まりにぶつかりながら進むと、悪魔の居た部屋のようなところへ辿り着く。

「ボスかのぅ。」

 メヴィがそう呟くと、入り口が閉まる。マローネが広範囲炎魔法を使って部屋全体を照らす。私も皆に支援魔法を掛け直す。さすがにもう、2人は怖がっていない。どちらかというと怖がり疲れたという感じだ。


 突然、10m程の赤い魔法陣が地面と垂直に描かれていき、光りを放ちながら回り出す。


 皆がその魔法陣を注視する中、魔法陣からドラゴンがゆっくりと出てきた。…黒い毛が生えているが。顔や手足は黒い皺の寄った鱗の肌をしているが、それ以外は黒い真っ直ぐな短い毛に覆われている。体の割に小さな羽と、頭に2本の角が斜め後ろへ伸びている。


「なんじゃこいつは…。」

 ドラゴン…だと思うけど、何で毛が生えてるんだろう?



『グオォォオオオオオッッ!!』



 毛の生えたドラゴンが前のめりに大きく口を開けて、咆哮を上げる。



『クックック…ドウヤラ虫ガ入リコンダヨウダ。』



 低く重い声で言うと、部屋全体を照らす程に魔法陣が大量に出現し、いきなりドラゴンが口から黒い霧のようなものを吐き出してきた。私たちはすかさず避けるために横へ移動する。

「戦闘開始かの!」

 メヴィとプラノが突撃し、覚醒スキルを使って攻撃を仕掛ける。マローネとルアノちゃんも魔法で攻撃をする。



『小賢シイッ!!』



「ぐっ!?」

 ちょ!?メヴィが吹き飛ばされた!?覚醒してるのに?


 続けてプラノも吹き飛ばされる。マローネたちの魔法は当たっているようだが、ドラゴンの動きが止まる気配はない。それでも、メヴィとプラノが立ち上がり、何度も吹き飛ばされながらドラゴンに挑む。



『闇ノ炎ニ焼キ尽クサレルガイイ!』



 魔法陣のいくつかが光り輝き、紫色の炎が溢れ出す。

「やばくない!?」

 シャムがその様子を見て驚いたように叫ぶ。私は皆が炎に包まれた後、すぐさま範囲ヒールを掛ける。炎が消えずに纏わり付いて、持続ダメージになっている。回復アイテムも使わないと回復が間に合わない。



『聖ナル光ノ槍ニ穿カレヨ!』



 今度は別の魔法陣が光りだす。もう次!?まずい、回復が間に合わない!

「撤退!撤退するよっ!」

 私が叫ぶと、皆で一斉にログアウトする。




 地上へ戻ると、しばらくしてからメヴィたちが戻ってきた。

「皆戻ってきたにゃ!」

「あの後も次々と強力な魔法を使ってきおったわ。わらわたちへの攻撃の手を緩めることもなく、な。」

 そういえば魔法を使ってる時も普通にメヴィたちを吹き飛ばしていたような…。

「あれって、正面のボスより強くない…?」

「正面のボスはまだまともに戦っておらんじゃろ。」

 シャムがそんなことを言う。気持ちは分かる。


「とりあえず、あのドラゴンはしばらくお預けじゃな。じゃが、あそこに行く途中のスライムは結構うまかったのじゃ。」

「食べたのにゃ!?」

「経験値の話じゃ!まったく…。おぬしがおらん間に随分レベルに差が付いたんじゃないかの?」

「酷いにゃ!脱がせたのはそっちにゃ!?」

 うん、そうだったね…。

「分かっておる。また午後にレベル上げに城へ行くのじゃ。」

「今度は普通に巨大な青いスライムを倒したいわね。」

 様子見してなければ下に行って倒せるだろうしね。




 私たちがお昼を食べ終えて、地下10階へ降りると、降りてすぐの丘の上からたくさんの人が戦っているのが見えた。

「お。ようやく地下9階を攻略できたのかのぅ。」

「今回は随分時間掛かったねぇ。」

 下で戦っているのは、例の大人数でいつもゴリ押ししているパーティーのようだ。今回はゴリ押しは難しかったと思うが…どうにか倒したのだろう。


 私たちはそんな彼らを横目に、城の中へと入っていく。そのまま流れ作業で最初の部屋の赤い騎士像を倒し、左右のスライムを倒し、隠し通路のスライムを倒し、ログアウトして再び城の中へ入る…というのを繰り返した。

 巨大な青いスライムは少し水に変わったスライムが居たが、下に辿り着けば殲滅速度が上回っていたので、普通に倒せた。ドロップアイテムは青い宝玉である。新しく地下10階に降りてきた人が居るので、宝玉は良い値で売れるだろう。




 そんな形で、私たちはしばらくレベル上げを続けた。地下10階に降りてきた人も増え、今では1000人を超えているらしい。私が調べ上げた状態異常と治療魔法の組み合わせはわかりやすくまとめた上で、掲示板に上げてある。これで私たちの代わりにどんどん素材を集めてくれると助かる。ま、そう簡単に覚えられる量じゃないけどね…。


 今日も食堂でお昼を食べていると、地下10階の正面ボスである悪魔と戦っているパーティーが映っていた。

「おっ!鳥さんパーティーだよ!」

「ふむ。あやつらなら飛んでおるから悪魔に近づけるかもしれんのぅ。」

 どうだろう。あの悪魔、飛ぶって言うか、空中を移動するって感じだったからなぁ…。追い付けない気もする。


「あー…。空飛んでも追い付けないかぁ。」

「そろそろ操られるやつが来るわよ。」

 シャムが残念といった顔をしている。そしてマローネが言うように、悪魔が例の攻撃を使ってこようとしていた。


 闇が床から這い上がる。


「って、あれ?」

「…意外と低いところまでしか上がってこないのね。」

 シャムとマローネが拍子抜けといった感じの表情をしている。壁や部屋の中にある松明から、闇の上がる高さが判断出来た。およそ2mくらいだろう。


「あやつらも操られてはいないようじゃな。」

 鳥人たちを見ても、黒い靄が体の周りを渦巻いている様子はない。広範囲魔法以外当たってないが、攻撃も出来ているようだ。


「これはいけるかな?」

「どうかのぅ。」

 ミリーナさんが一応死なずに戦っているのを見て、そう言う。しばらく見ていると、悪魔が魔法を使いだした。数人を巻き込む程度の範囲魔法である。

「うわぁ…状態異常のオンパレードだねぇ。」

 見るからに毒、麻痺、石化などの状態異常に掛かり、さらに攻撃力ダウン、防御力ダウンといったデバフ系のエフェクトも見える。鳥人たちはすぐに治す術を持っていなかったようで、撤退していった。ダメージもそれなりに受けてたみたいだしね。


「まさか最初のあれがあんな風になっていたとはのぅ。わらわたちもこれから再戦してみるかの。」

 私たちの時は、モニターに私たちと同じ低い目線で映し出されていたので、あの闇があんなに低い位置までしか這い上がってこないことに気付けなかった。

「そのまま倒しちゃおう!」

「そう一筋縄ではいかないと思うわ…。」

 シャムが元気よく、マローネがやれやれと言葉にしつつ、私たちは悪魔に再戦することにした。




「うは…マローネの一撃もえぐいことになってるね…。」

「シャムの一撃とどっちが強いかしらね?」

 私たちは今、城の中に居る。そして、大きな赤い騎士像を倒し、灰色になった騎士像を破壊したところである。


 マローネの魔法で。


「まさか地下5階の即死級魔法を覚えるとは思わなかったわ。」

「なんで私は覚えないのよ…。」

 ルアノちゃんはマローネと同じ魔法は覚えられなかった。代わりに重力系の範囲魔法を覚えている。威力もそれなりに高く、一時的になら動きを止めることが出来る。

「おかげであの悪魔にも有効な攻撃手段が出来て良かったではないか。ほれ、さっさと行くのじゃ。」


 私たちが正面の扉から悪魔の居る部屋に入る。入り口が閉まり、私は支援魔法を掛け直す。


「先手を取るのじゃ!」



『我が主が為、汝らを葬り去ろう。』



 メヴィが悪魔の台詞より先に飛び出し、悪魔に一撃を入れる。プラノもそれに続き、一撃を入れる。


 …普通に当たった。


 その後、悪魔は何事もなかったように飛び上がって、空中を移動する。アーニャは出遅れて間に合わなかった。事前に言っておかないとね。

 悪魔の頭上には今、薄緑色の魔法陣が回りながらピタッと追随している。マローネの即死級魔法である。


「引きずり落とすわ!」

 ルアノちゃんがそう叫ぶと、重力系魔法で悪魔を攻撃する。悪魔は増した重力に耐えきれず、床へと叩きつけられ、そこへメヴィ、プラノ、アーニャ、シャム、ミリーナさんの前衛組が突撃する。

 メヴィ、プラノ、アーニャ、シャムは覚醒スキルを使って、一気に畳み掛ける。シャムはまだ慣れきっておらず、動きが緩慢だが、身動きがうまく取れない悪魔に強力な一撃を叩き込んでいる。


 覚醒スキルが切れるより先に、重力の束縛から解き放たれた悪魔が空中に戻ろうとするが、メヴィたち素早さ特化がそれを許さない。それでも素早く動く悪魔に、シャムとミリーナさんがうまく攻撃を入れられなくなっている。

 メヴィたちの覚醒スキルが切れると、悪魔を抑えきれなくなる。悪魔が再び宙に飛び上がっていく。


「歯がゆいのぅ。」

「でもだいぶ削れたんじゃない?」

「今回はいけそうにゃ!」

 メヴィ、シャム、アーニャの3人が次に悪魔が落ちてくるのを待つ間、会話している。マローネとルアノちゃんがそれぞれの最強魔法のクールタイムが終わるまで、広範囲魔法で少しずつだが削っている。



『我が力に蝕まれるがいい。』



「思ったより早いわね。」

 マローネの即死級魔法が来る前に、悪魔の攻撃が来るようである。

 私たちは足元から闇が這い上がってるのを確認して、勢い良くジャンプする。


 おお。


 ちょうどマローネの即死級魔法が発動し、悪魔の頭上から緑色の塊が降り注ぐ。そしてその勢いのまま、悪魔は床へ叩きつけられた。当然、自身が生み出した闇に飲み込まれる。


「…これ、どうなるのかしら。」

 這い上がる闇が消え、私たちが着地すると、マローネが次の即死級魔法を悪魔に発動させて呟く。抜かり無いね。


 床に叩きつけられた悪魔を攻撃しようとメヴィたち前衛組が駆け寄るが、数発入れただけで飛び上がられてしまう。

「次、いくわ!」

 そこへルアノちゃんが再び重力系魔法で悪魔を引きずり落とす。すぐさま、前衛組が群がって攻撃を入れる。しかし、それも数秒で飛び上がられてしまう。


 約1分置きにこれを使っていると、悪魔が魔法を使い出す。

「こっちにくるにゃ!?」

 アーニャが一発目を食らう。それに巻き込まれる形でシャムとミリーナさんも食らってしまう。

「各自距離を置くのじゃ!」

 すぐにアーニャから離れて回避したメヴィが指示を出す。私は状態異常に掛かった3人に片っ端から治療魔法を掛けていく。


 その間にもマローネとルアノちゃんが魔法で悪魔を撃ち落とし、メヴィとプラノが斬りかかる。

「それにしても、こうやって見てるとシルの魔法の使用速度、物凄いわね…。」

「一秒間に何回使ってるのかしら…。」

 マローネとルアノちゃんが私の速度に驚いている。魔法の使用速度はクールタイムや発動時間に引っ掛からなければ、素早さに依存する。といっても、普通に使う分には素早さを上げるほどではない。私のように毎秒数十回という超高速使用をすると、素早さのメリットが出てくるのだ。ショートカットに魔法をセットしていても、発動は現実世界で陣を組むようにして行うので、普通はそこまで頭が回らない。今回はショートカットではないので、なおさら頭を使う。


 何とかタイミング良くマローネとルアノちゃんが悪魔を撃ち落としてくれたおかげで、アーニャたちの治療が終わる。今回の状態異常と治療魔法の組み合わせは把握できたので、次からはすぐに治せるだろう。

 撃ち落とされていた悪魔が飛び上がると、再び状態異常の魔法を使ってくる。10秒置きくらいに使ってくるそれを受けた仲間を、私はひたすら治していく。


「シルちゃん!」

「ちっ!シルの麻痺が治るまで何とか持ちこたえるぞ!」


 …やっぱりこうなるよね。石化だけは耐性装備にしているのでなっていないが、他の状態異常までは防げなかった。この麻痺はどれくらいで治るかなぁ…。




 ようやく書き終えたので、今日からまた1日2回投稿に戻します。最近ついつい投稿し忘れそうになります…。




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