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自力で転生した少女  作者: 10bit
第9章 攻略
74/85

第67話 黒

 翌日、私たちは地下9階へと降り立った。


「ここが地下9階かぁ。」

「…素早さが元に戻ったのじゃ。」

 シャムは感慨深そうに地下9階の景色を見ているが、メヴィは宝玉が使えなくなって素早さが落ちたことを嘆いている。地下9階も、地下7階や地下8階と同じ森エリアだ。とりあえず今までの流れだと、長時間のオーク戦が待っているはずだ。


 私たちが足を進めていると、1体の黒いオークを見つけた。

「オークじゃ。ゆくぞ!」

 メヴィ、プラノ、アーニャの3人が突撃する。

「なっ?!」

「障壁にゃ?!」

 どうやら黒いオークは障壁持ちらしい。つまり、一定ダメージ以上でないとダメージを与えられないということだ。

「ちょっ、魔法も障壁で防がれてるわよ?!」

 えっ、ちょっとどうやって倒せって言うの?マローネが初期で使える魔法を一通り使ってみるが、すべて障壁に阻まれてしまった。

「ありえないわ…。」

「どうすんの、これ…。」

 ルアノちゃんとシャムが困惑して声を漏らす。ほんと、どうすんの、これ…。

「にょわっ?!」

 不意にアーニャの声が聞こえたかと思うと、メヴィが倒れて光になって消えていくところだった。

「えっ!?メヴィちゃん!?」

「な、何が起きたにゃ?!」

 ミリーナさんがメヴィに声を掛けるが、メヴィは既に消えてしまっている。近くで戦っていたはずのアーニャですら何が起きたか分からないらしい。

 私たちが突然の事態に混乱していると、続けざまにプラノ、アーニャと倒れて光になって消えていった。本当に、突然、である。アーニャの悲鳴も聞こえなかった。

「撤退しようっ!」

 私は皆に声を掛け、すぐさまログアウト処理をする。幸いオークがこちらへ向かってくる前に全員ログアウトできた。



「確かに躱したはずなのじゃ…。」

 地上へ戻ると、メヴィたち3人が待っていた。メヴィが先程の即死に対して考え込んでいる。即死もそうだが、あの障壁も厄介だ。あれではダメージが与えられず、いつまで経っても倒すことができない。

「何か対策を練らないといけないね…。とりあえず死に戻り覚悟で何人かはあのオークを分析して、他何名かでモンスターを避けながら森を探索して何かないか探して見るのはどうかな?」

 私が黒いオーク討伐に向けて、調査することを提案する。

「うむ、そうじゃな。悩むには情報が足りんしの。今日は調査に当てるとしよう。」


 私たちは2手に分かれて行動を開始した。死に戻りの調査にメヴィ、私、マローネ。残りは森の探索をする。

「何度も殺されるのは不本意じゃが仕方あるまい。」

 死に戻りの調査で実際に死に戻るのはメヴィだけの予定である。私は離れたところからメヴィが死ぬ瞬間を観察し、マローネは繰り返し魔法を使ってみて変化がないか様子を見る。

 何か見つかるといいけど…。



 お昼になり、私たちは近くの食堂で食事をしながら調査結果を報告しあう。

「それでは皆で報告…」

「あああっ!?」

 私が報告会を始めようとすると、シャムが大きな声を出してモニターを指差した。…久しぶりに見たな。

「どうしたんじゃいった…い……。」

 メヴィがモニターを見て、言葉を失っている。やっぱりアレかな。

 私がモニターを見ると、地下8階のボス攻略関係のランキングに私たち以外のパーティーが追加されていた。そして、その戦闘動画が流れる。


「え、なにあれ?」

 ルアノちゃんが想定外の戦闘にはてなマークを浮かべている。

「羽…?だよね?あんな装備あったかな?」

「いや、鳥人じゃないかな。ほら、腕が羽になってる人もいるよ。」

 ミリーナさんがモニターに映るプレイヤーの背中に生えている羽を見て言う。だが、その後に腕が羽になっているプレイヤーも出てきて、私が鳥人じゃないかと予想した。

「なるほど…。地下8階のボスは近接攻撃しかしてこないから空を飛んでいれば攻撃を受けないわけね。」

 マローネが戦い方を分析する。確かに空を飛んでいれば、ボスもその後ろに居るオークも攻撃出来ない。プレイヤー側が一方的に攻撃を仕掛けることが出来るというわけだ。というか、鳥人って空を飛べるのか…。

 宝玉は今日まとめて売りに出したのだが、それを使って挑んだのだろうか。30人ほどで挑んでいたが、それでも結構ボスを倒すのに時間が掛かっていた。やはりメヴィとプラノの強さが異常だったのだろうか。


 パンパン。


 私は手を叩いて皆の注目を集め、とりあえず報告会を再開しようとした。が、メヴィは固まったままだし、皆はちらっとこっちを見ただけでモニターに視線を戻した。


 おぉい!


 ルアノちゃんも、可愛く首を傾げて不思議そうな顔で視線を戻さないでっ!



 …結局お昼も食べ終わって、飲み物とつまみを片手にモニターで鳥人の戦闘を見続けた。鳥人たちは空中から、魔法で一方的にボスを攻撃し、勝利を上げた。

「空中戦かぁ。私も空飛んでみたいなぁ。」

「今度試してみれば良いのではないか?キャラ作成だけならそう大変じゃなかろう。」

 シャムが鳥人たちを見て、そんなことを言っている。試してみるのは構わないが、素早さ上昇に慣れるのとどっち付かずにならないようにして欲しい。メヴィは皆が戦闘を見続けている間に復活してた。まぁ今回の鳥人の作戦は目を見張るものがあったしね。


「それで、じゃ。わらわたちの調査ではあの黒いオークの攻撃の正体が分かったぞ。あれは相手の影を攻撃できるスキルのようじゃ。分かってしまえば余裕じゃ。」

「繰り返し魔法を使ってみたけれど、やっぱりあの障壁は突破出来なかったわ。」

 メヴィが話を切り出し、調査結果を伝える。マローネも魔法で試した結果を伝える。


「こっちは何もなかったにゃ。一番奥まで行っても詰所が無かったにゃ。」

「こっちも生えている草や落ちている石なんかを調べてみたけど、アイテム認定されなかったよ。特別なアイテムがあるわけでもなさそうかな。」

 アーニャとシャムが探索の結果を伝える。うーん、あまり芳しくない結果だなぁ…。


「打つ手がないわね…。」

「どうしたらいいんだろうね。」

 ルアノちゃんとミリーナさんは結果を聞いて、頭をひねっている。どうしたものかなぁ…。


 結局、その日は何も良いアイデアが思い浮かばず、午後に少しだけ地下9階に行って解散した。




 翌日、何か情報はないかとダンジョンギルドにやってきた。


「あ、あそこに映ってるのって昨日の鳥人たちかな?」

 シャムがモニターに昨日の鳥人たちが映っているのを見つける。どうやら地下9階に降りてきたようだ。空中から黒いオークに向かって魔法で攻撃しているが、次々と鳥人たちは光の粒子となりながら落ちていっている。


「やはり影の攻撃で苦戦してるようじゃのぅ。」

 メヴィがそんなことを言っていると、黒いオークから少し離れたところに居た鳥人が魔法で撃ち落とされた。

「なんじゃと…?魔法も使えたのか、あの黒いオークは…。」

「…昨日は後衛にターゲットが行かなかったから魔法を使わなかったのかしら。」

 うわぁ…。更に厄介になったよ…。


「あ、画面が切り替わったね。」

 ミリーナさんがそう言うと、モニターに地下8階のボスに挑戦しようとしているパーティーが映し出された。

「うわ、また凄い人数だねぇ…。」

 一番最初に地下8階のボスに挑戦した300人超のパーティーだ。今回はまた更に人が増えている気がする。

 ボス戦が始まると、一斉に魔法使いが片方のボスに魔法攻撃を仕掛ける。すると、ボスが倒れ黒い靄となって消えた。


「…え?まじ?」

 シャムがその光景に呆気に取られている。


 すぐさま次の魔法攻撃をもう片方のボスに浴びせると、そちらも一瞬にして倒れ黒い靄となって消えた。ここまでのほんの2、3秒で前衛が何人も倒れたものの、既にボスは倒し終えてしまった。その後、範囲魔法で奥のオークたちが一掃され、ボス戦はプレイヤー側の勝利で幕を閉じた。

 モニターにはボス戦攻略時間ランキング1位に今しがたボスを倒したパーティーの名前が映し出されていた。


「わらわたちより早いじゃと…?」


 あの覚醒スキルを上回る火力だと言うことか…。

 数の暴力って凄いな…。




 私たちが呆然と立ち尽くしていると、先程の地下8階のボスを瞬殺したパーティーのメンバーらしき男性が声を掛けてきた。…結構な時間立ち尽くしてしまったな。

「どうも、はじめまして。いきなりで悪いのだが、地下9階の情報を教えてもらえないかな?」

 む。私たちの調べた情報をタダで入手するつもりか?


「いきなり不躾じゃな。わらわたちに何のメリットがあるのじゃ。」

「あぁいや、気を悪くしたのならすまない。君たちが食堂で話していたのが聞こえていたから、ある程度の情報は知ってはいるんだ。随分と悩んでいたようだから、もし私たちに解決できるならと思ったんだ。人数だけは多いからね。」

 なるほどね。というか食堂で普通に話し合ってたら聞こえてるよね…。なんか恥ずかしくなってきた。


「…そういうことなら話してもいいと思うけど。どうかな、メヴィ?」

「…もう知っておるなら隠す必要もなかろう。攻略方法が見つかるならわらわたちも助かるしのぅ。」

「助かるよ。」

 そういうわけで、私たちはその男性に昨日食堂で皆と話しあった調査結果を教える。


「なるほど、事前に知り得ていた情報と同じようだ。それならば、一つだけ対策は思い付いているんだ。」

「なんじゃと…?!」

 さすが、やはり数のメリットは素晴らしいな。


「君たちも知っていると思うが、このダンジョンは各階毎にレベル上げをし、装備を揃えなければならない。しかし、他の階のレベル上げで覚えたスキルや装備が全く使えないわけではないんだ。

 その中で、一部攻撃アイテムにその階で使うより威力は落ちるものの、他の階でも効果的なものがある。例えば地下4階のボスには、他の階で落ちる氷属性の攻撃魔石が有効だ。広範囲攻撃だから当てるのも容易い。

 それと似たようなもので障壁突破の攻撃魔石が地下6階でドロップするのだが、これも他の階で使えることが分かっている。実際に地下3階のボスに反射されずに攻撃できるから、よく使われているんだ。

 恐らく、地下9階の黒いオークにもこの地下6階の攻撃魔石でダメージを与えられるだろう。…相当数必要だとは思うけどね。」


 その手があったか。

 他の階では効果が急激に落ちてしまうから、序盤などで本当にわずかだけれど有利に進める程度に使うものだと思っていた。そもそも使えないものも多いしね。


「それは盲点だったね…。」

「うむ、そうじゃな。…教えてくれて感謝するぞ。」

「どういたしまして。…実際のところ、私たちでは実現が難しくてね。先日の宝玉の購入でだいぶ資金を使ってしまって、例の攻撃魔石の購入が難しかったんだ。もしうまく行って、地下9階で便利なアイテムがドロップしたら買わせてもらうよ。」

「ちゃっかりしとるのぅ。」

 メヴィが軽く微笑みながら、そんなことを言う。


 よし!これで先に進めそうだ。資金も宝玉を売り払ったおかげでだいぶ余裕があるし、そちらの心配もないだろう。



 私たちは教えてもらった情報をもとに地下6階で入手できる障壁貫通の攻撃魔石を2万個購入する。地下3階のボスをこの攻撃魔石だけで倒すのに使われる個数がこれくらいらしい。

「どれくらい必要になるか分からないから、とりあえず足りなくなったらまた購入する形にしよう。」

 私がそう言うと皆頷き、早速地下9階へと向かう。




「この数じゃと使うだけでも時間が掛かりそうじゃ。皆で使うぞ。」

 地下9階へ到着するとメヴィがそう言って、見つけた黒いオークへと向かい、プラノもそれに続く。私たちは離れた場所で障壁貫通の攻撃魔石を使う。


「お、効いてるみたいだね。」

 シャムが障壁のエフェクトが生じないところから、そう判断する。でも、全然痛そうじゃないし、どれだけ時間掛かるんだろう…。


 戦い始めて30分ほどで、障壁貫通の魔石を使い果たしてしまった。

「こっちも使い切ったのじゃ!わらわたちはこのオークの足止めをしておく!おぬしらは攻撃魔石を買いにゆくのじゃ!」

 メヴィが黒いオークの攻撃を躱しながら、離れたところにいる私たちにも聞こえるように大きな声で指示を出す。

「りょーかい!すぐに買って戻ってくるね!」

 シャムが返事をし、私たちは障壁貫通の攻撃魔石を買いに街へと向かった。



 …使い切っては買いに行ってを繰り返すこと、3時間弱。黒いオークはようやく倒れ、黒い靄となって消えていった。

「や、やったのにゃ。」

「結局10万個以上使っちゃったよ…。」

 アーニャとシャムが疲れたようにそう言うが、淡々と攻撃魔石を使い続けただけである。


「とりあえずレベルが上がったのじゃ。これで障壁を突破できるか確認するぞ。」

 ずっと回避し続けたメヴィは少しうんざりした感じだが、特に疲れた様子もなく次の黒いオークを探しに足を進める。さすがだねぇ。

 しかし黒いオークからは素材アイテムしかドロップしなかった。障壁貫通の攻撃魔石とかはドロップしないのだろうか?


 私たちは次の黒いオークを見つけ、上がったレベルで障壁を突破できるか試す。私も支援魔法を覚えたので、皆に掛ける。

「…ダメじゃな。」

「…魔法もダメね。」

 どうやら突破できなかったらしい。どんだけ硬いんだ…。

 仕方がないので、再び障壁貫通の攻撃魔石を購入して黒いオークを倒す。




 …この日は結局4体の黒いオークを倒したが、新しい攻撃手段は見つからなかった。

「お金が湯水のように流れ出ていくよー…。」

「仕方ないわ。他に方法がないのだから。」

 私たちが地上に戻ると、シャムとマローネが暗い表情で会話している。


「何かあっても良さそうなものなんじゃがのぅ。」

「まぁまだ4体しか倒してないからね。その内何かドロップするんじゃないかな。」

 メヴィも難しい顔をしている。私もこう言ってはみたが、大量に障壁貫通の攻撃魔石を続けるわけにはいかない。資金の問題ではなく、売りに出ている障壁貫通の攻撃魔石をすべて買い尽くしてしまいそうな勢いなのだ。



 翌日、再び障壁貫通の攻撃魔石で倒すこと2体目。この階で初めて武器がドロップした。

「お。杖じゃな。良品だといいんじゃが…おおっ!ついにきたのじゃ!!」

「おお!見せて見せて!」

「アーニャもみたいにゃ!」

 メヴィが武器の説明を見て、喜びの声を上げる。シャムとアーニャがそれを聞いて、メヴィに駆け寄る。


「うわっ!?障壁貫通だって!」

「これでダメージが与えられるにゃ!」

「マローネかルアノが装備して試してみるのじゃ。これで障壁貫通の攻撃魔石が要らなくなるかもしれんぞ!」

 障壁貫通付き装備ときたか。これなら消耗品じゃないから、後続のプレイヤーは楽できるだろう。…先駆者だけが苦労するっていうね。


 皆盛り上がりながら、マローネがその装備を付けて次の黒いオークとの戦闘を始める。

「よし!ダメージが通ってるみたいじゃな!」

「ええ、そうみたい。…良かったわ。」

 メヴィを始め、皆がようやくダメージを与えられたことに歓喜する。マローネも自身の魔法攻撃が通ったことで安心したようだ。

「このまま一気に倒していくのじゃ!」


 マローネの魔法攻撃が通るようになってから、黒いオークは30分ちょっとで倒せるようになった。

「今度は大剣が出たのじゃ!…よし!障壁貫通付きじゃ!」

 お、今度はメヴィの武器が出たらしい。しかも今回も障壁貫通付きだ。この階でドロップする武器はすべて障壁貫通付きなのだろうか。


 その後も次々と武器がドロップし、そのすべてが障壁貫通付きだった。戦闘要員が増えることで、どんどん黒いオークを倒す時間が短くなり、今では2,3分で倒すことが出来る。



 ふぅ。ようやく安定して倒せるようになったよ…。




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