第66話 真の実力
私たちは再び地下8階へと潜り、オークの詰所へ向かった。例の玉、赤の宝玉という名前らしいが、結局メヴィが装備することになった。
素早さ増加が付いてるからね。メヴィかプラノじゃないとまともに動けないんだよね。私も使いこなせるけど、回復職だからちょっと優先度が低いかな。
オークの詰所に着くと、やはり大量のオークが固まっていた。
「どれ、わらわの真の実力を見せてやるかのぅ。クックック、ふはははは!」
メヴィが不気味な笑いとともに、オークの固まりに突撃する。道中のオークとの戦いからずっとあのテンションである。
「……我も早く欲しい。」
メヴィの素早さが上がったせいで、プラノは追随できなくなった。それでも十分速いけどね。
詰所に固まっていたオークはまたたく間に蹴散らされ、わずか数分で全滅した。
「すごいわー…。私たち要らないわー…。」
「メヴィ一人でも十分ね…。」
シャムとマローネがそんなこと言っている。こう見せつけられると、私も早く宝玉が欲しい。
メヴィは倒し終わるとすぐさま隠し通路へと向かった。そんなに真っ赤なオークとの戦いが待ちきれないのだろうか。
「む。入り口が元に戻っておるのぅ。」
「あ、本当だ。誰かが来たのかな?」
「…オークが元に戻したのかしら。」
「オークは結構器用なんだにゃ?」
シャム、ルアノちゃん、アーニャと原因を推測している。確かにその可能性もなくはないだろうけど…。
「ボス部屋の入り口みたいに勝手に閉まるのかもよ?」
私は自分の推測を口にした。その手もあったかと皆してわいわい言い合っている。
「ま、何でもいいじゃろ。さっさと中へ入るのじゃ。」
メヴィが話を終わらせ、隠し通路の階段を降りていく。皆もそれに続き、降りていく。
「よし、きたのじゃ!」
昨日と同じく、広間の前の道を進み、真っ赤なオークと遭遇した。
「ふはははっ!その程度かっ!赤い雑魚どもめ!」
随分ご機嫌なご様子で…。ここ戦いにくいし、もうメヴィだけでいいんじゃないかな。
一応プラノも突っ込んでいたようだが、すぐに戻ってきた。
「……メヴィが完全回避してたから任せてきた。」
おー。ちゃんと回避できるようになったようだ。マローネとルアノちゃんの後衛組も含めて、皆で静観することにした。
メヴィが一人で戦い続けること約5分。うっすら黒い靄らしきものが見えた。
「おおおおお?!きたのじゃーーー!!」
メヴィのやかましい歓喜の声が聞こえる。あんなにはしゃいでいても、ちゃんと戦闘は続けているようだ。
その後、他のオークもバタバタと倒れていったようだ。戦闘が終わり、メヴィがこちらへ戻ってきた。
「って、宝玉じゃん?!」
「嘘でしょ?!あのオーク全部からドロップしたの?!」
まじで?!メヴィが両手に抱えるように幾つもの赤い宝玉を抱えている。それを見たシャムとマローネが声を上げて驚いている。他の皆も驚いているようだ。
「これだけあれば全員分どころか、予備まで確保できるじゃろ。この隠し部屋は宝玉がドロップする場所なのかもしれんの。」
なるほど。中ボスだけだと数が確保できないから、この隠し部屋があると…別に隠される必要なくない?
「とりあえず各自宝玉を強化して装備するのじゃ。」
メヴィは使う素材アイテムによって強化されるステータスが違うことを説明し、間違えて素早さを上げないように注意する。私たちは素早さが上がる素材アイテムはプラノに渡した。アーニャは自身の宝玉に使ったようである。なかなか向上心があるね、アーニャ。他の皆も各自の特徴に合わせて、素材アイテムを融通しあっていた。
各自宝玉の強化が終わり、装備をする。
「……これで我も真の強さに近付いた。」
「ふっ、その程度の素材アイテムではわらわの宝玉には追いつけんわ。」
メヴィとプラノが不敵に笑いあっている。
「うーん、これでも耐えられない気がするなぁ…。」
「実は私も同じこと思ってたよ…。」
シャムとミリーナさんは宝玉ありでも駄目そうだと落ち込んでいる。あの一撃やばいもんね…。下手したら地下8階のボス並みなんじゃない…?
「私たちは単純に火力が増加したわね。」
「近接型のオークしかいないものね。」
マローネとルアノちゃんは特に不安がるところもなく、単純に火力が増えたことを喜んでいる。
「変な感じにゃ…。」
アーニャが動き回って、素早さの変化を確認しているが、やはり違和感があるらしい。仕方ないよね。
「アーニャはしばらく後ろで待機しておきなよ。死んだら宝玉消えちゃうからね。」
「そうするにゃ。」
予備はあるが、一々強化し直していると素早さがまちまちになってそれこそ大変になるだろう。私がアーニャにそう言うと、アーニャは特に気にすることなく、静観を決めた。うん。深く考えてないな、こいつ。
「さて、探索を再開するかの。」
「どんどん行くにゃ!」
メヴィの言葉に、戦わない予定のアーニャが元気よく応じる。まぁとりあえず進みますか。
途中お昼休憩を挟みながらも一通り回った結果、ここには真っ赤なオークが居るだけだった。最初の階段を降りた先の広間から左右前と3つに伸びた通路は、それぞれ別の広間に繋がっており、その広間の先にまた通路があった。通路は一本道で3部屋ずつあり、合計9つの広間に繋がっていた。奥に進むにつれ、広間に居る真っ赤なオークの数が増えていき、各方向、一番奥の3番目の部屋が最も数が多くなっていた。
「うっはうはじゃな!」
「山のように宝玉が貯まったにゃ!」
メヴィたちがメニュー画面から宝玉の数を確認し、盛り上がっている。
すべての部屋を回って、すべてのオークを倒したため、物凄い数の宝玉が集まったのだ。中には特殊な宝玉もあり、炎ダメージ軽減や氷ダメージ軽減といった属性抵抗が付いているものがあった。この階に属性攻撃してくるモンスターは居ないけどね…。恐らく今後も宝玉はドロップするのだろう。階によっては属性抵抗は役に立ちそうである。
「レベルも物凄く上がったよねぇ。」
「まさに桁違いだね…。」
シャムやミリーナさんがレベルを見て呆気に取られている。言葉通り、今までとレベルの桁が違う。
「全部持っていても仕方がないし、市場に流すことになりそうね。」
「そうじゃな。これで他のプレイヤーもだいぶ攻略がしやすくなるじゃろ。」
こんなに持っていても仕方ないもんね。マローネたちの言うように、早々に売り払った方が今後の資金稼ぎにもなっていいと思う。
「とりあえず、今日はここで荒稼ぎして終わりにするのじゃ!」
メヴィが良い笑顔で大剣を天に掲げて言う。まだ帰るには早い時間だ。もう一稼ぎ出来そうである。
私たちはメヴィに続いて最奥の間に向かった。
翌日、私たちは遂に地下8階のボス部屋の前へやってきた。昨日大量に入手した宝玉は、10個だけ、ダンジョンギルドでオークションにかけている。残りをその平均価格付近で売りに出す予定だ。既に中ボスを倒した辺りからモニターで見ていた人は見ていたらしく、私たちが大量に宝玉を持っていることは知れ渡っている。なのでオークションでの価格が異常に跳ね上がることはないだろう。
「いよいよだよ…。」
「これで再びトップランカーに返り咲くのじゃ。」
シャムが緊張した面持ちで、ボスの部屋を見つめている。メヴィは既に勝利が確定したかのように、怪しい笑みをこぼしている。
「あっという間だったわね。」
「こんなに早く到達できるなんて思わなかったね。」
マローネとミリーナさんはしみじみとボスの部屋を見つめている。ルアノちゃんはシャムと同様、緊張しているようで顔がこわばっている。アーニャは早く早くと皆を急かしている。今回アーニャは上昇した素早さにまだ慣れていないため、後方で待機である。
「よし!ゆくのじゃ!」
私が皆に支援魔法を掛けると、私たちはボスの部屋へと足を踏み入れた。
ボスの部屋へ入ると、いつものように入り口が閉まり、部屋の中央と奥に黒い靄が集まる。黒い靄が形を成す前に、重く低い唸り声が響き渡る。それに合わせて、メヴィとプラノが突撃し、マローネとルアノちゃんが魔法で攻撃を仕掛ける。メヴィとプラノがたどり着く前に姿を現した大きな2体の赤みを帯びたオークが、暴れ狂うように物凄い勢いでメヴィとプラノに襲い掛かる。メヴィとプラノはそのボスを各自1体ずつ担当し、戦闘を開始する。
「瞬殺じゃ!」
メヴィが叫ぶと覚醒スキルを発動させる。ボスの暴れ狂う激しい動きと、メヴィの宝玉で上がった素早さで、部屋全体に広がりそうなエフェクトが撒き散らされている。
「うわぁ…綺麗だねぇ。」
「め、目が回るにゃ〜。」
「目がチカチカするわ…。」
シャムがエフェクトを綺麗だと言い、アーニャが2人の動きを目で追おうとして目を回し、ルアノちゃんがエフェクトの光の明滅に耐えかねて目を手で覆っている。
メヴィの瞬殺の宣言通り、ほんの数秒でボスを倒し終えると、奥に居た大量の赤みを帯びたオークを一撃で葬り去っていく。プラノもそれに少し遅れる形でボスを倒し終え、メヴィに続いて奥へと突撃する。
「お、終わったにゃ…。」
「…もう終わったの?」
アーニャがぽろりと呟き、それを聞いたルアノちゃんが目の覆っていた手をどかして部屋を見渡す。
「地下1階を思い出すペースだよ…。」
「本当ね…。私の魔法、大して役に立たなかったわね…。」
シャムとマローネも呆気に取られてみている。ミリーナさんもぽかんとしている。
少ししてメヴィとプラノの覚醒スキルが切れると、メヴィがこちらへ振り返り大声を上げた。
「やったのじゃ!瞬殺じゃ!」
プラノは既にガッツポーズを取っている。覚醒スキル発動中に取ったので、凄まじい速度だったのを私は知っている。多分、他の人はその動きを見れてないだろう。
「おめでとうー!メヴィー!」
シャムが部屋の奥の方に居るメヴィに聞こえるように大声で叫び、お祝いの言葉を贈る。
しかし本当に凄かった…。まさかここまで来て瞬殺が成り立つとは思わなかった。これで私たちは再びトップランカーになる。
皆で勝利に盛り上がりながら、私たちはそのまま酒場へと移動する。酒場に到着すると既に大盛り上がりとなっていて、メヴィ、シャム、アーニャとその盛り上がりの中に入っていく。
その割には道中声を掛けられることが少なかったのだが、モニターに釘付けになっている人が多かったせいだろう。酒場でもメヴィとプラノの戦闘が流れる度にモニターに釘付けになっている人が居る。かくいう私たちも端っこで祝杯を上げながら、その映像が流れる度に目を奪われ、感嘆していた。
私もまた素早さ特化に戻りたいなぁ…。