第63話 軍団
今日は地下7階へと降り立った。
「さて、今回も地下6階同様、シルの支援魔法で倒せそうじゃからさくっと進めるぞ。」
メヴィがそういうが、数名、アーニャのお尻の上をじっと見ている。そこには服からはみ出た尻尾がゆらゆらと動いている。
「そ、そんにゃに見りゃれるとはずかしいにゃ…。」
アーニャがもごもごとそんなことを言っている。さっきまで数名がアーニャの尻尾を握って移動してきたのだが、ここからは戦闘があるので手放した形だ。
「おぬしら、よそ見して死ぬなよ…。」
「……その時は本望。」
メヴィが呆れながらも注意すると、プラノがそんなことを言っている。昨日、アーニャの尻尾が発見されて猫耳同様の結末となった。そして、アーニャは尻尾を隠さないように強制された。単に邪魔だから服の中にしまっていたらしい。なんて勿体無いことをするんだ。
そうこうしながらも、地下7階を進んでいく。
「ここの森はふつーの背丈だねぇ。」
「オークがメインらしいわね。序盤が少しきついかもしれないわ。」
シャムとマローネがそんな会話をしている。ここのモンスターはオークがメインとなっており、そのオークはボス部屋でもボスの仲間として現れるレベルだ。つまり、序盤においてはモンスターを一匹倒すのに、ボス戦のような苦労をする必要がある。
「なに、わらわたち3人の時なぞ地下1階の最初のゴーレムに10分掛かったくらいじゃからな。オークも余裕じゃ。」
「メヴィやプラノちゃんは回避できるからいいけど、私たちは攻撃を食らうことも考えないといけないんだよ?下手したら即死なんだから…。」
メヴィが笑い飛ばすと、シャムが自分たちの場合を考えて身をすくめた。
「早速来たみたいだね。」
ミリーナさんが森の陰にオークを見つける。
「わらわたちが引き付けておくのじゃ。マローネとルアノは後方で援護を頼むぞ。」
メヴィがそう指示を出し、メヴィとプラノ、アーニャが突っ込んでいく。
「って他にもいるにゃ!?」
「えっ!どうするの!?」
「何匹居ようと関係ないのじゃ。弓を持っているオークも居るようじゃから木の陰にでも隠れておれ。」
アーニャが死角に居たらしいオークを見て叫び、それを聞いたシャムが慌てる。しかし、メヴィが問題ないとそのまま突っ込んでいった。
メヴィたちが攻撃を始めると、私たちの位置からは見えなかったオークが次々と現れた。メヴィたちがそんな中でも華麗に攻撃を躱しながら、オークの群れを引き付けている。そこへマローネとルアノちゃんが魔法を叩き込む。残りのメンバーは弓を持ったオークに警戒しながら、マローネたち後衛にその弓を持ったオークの動きを伝える。
戦い始めておよそ30分、ようやく1匹目を倒せた。
「やった!…うわっ、一気にレベル上がったよ!」
シャムが1匹目を倒せたのを見て声を上げる。確かに一気にレベルが上がった。おかげで攻撃力UPの支援魔法も覚えた。
「攻撃力UPの支援魔法を掛けるよ!」
私がメヴィたちに声で伝えてから支援魔法を掛ける。
「これで一気に倒せるのじゃ!」
「アーニャたちの出番にゃ!」
今まで通らなかった攻撃が通るようになったようで、メヴィたち3人は攻めに回る。それでも次の2匹目を倒すまで5分ほど掛かった。そこでまた一気にレベルが上がった私は、支援魔法を掛け直し、その次は2分ほどで倒せたようだ。そうして、段々と倒すまでの時間が短くなり、最後には10秒ほどで倒せるようになっていた。
「ふむ。なかなか経験値効率は良さそうじゃな。」
「今までのモンスターよりしぶとい気がするにゃ。」
オークが結構強いようで、経験値もそれに合わせて多いようだ。
「一匹ずつ釣りだして狩るのが定番みたいだけれど、さすがと言ったところね。」
マローネが今回の戦闘に感心しながら言う。確かにメヴィたちが回避できなければこの数は難しいだろうし、私の支援魔法がなければ物凄く時間が掛かっていただろう。
私たちはその後もオークを乱獲した。オークは常に群れで行動しており、多い時には100匹以上で群れていた。しかも奥に進むと更に強いオークが居て、それも群れで行動していた。
「なんていうかさ…今までと数が全然違うよね。」
「目が回りそうだわ…。」
シャムが一回の戦闘で戦うオークの数に唖然とし、ルアノちゃんが疲れたように呟いた。ここまで数が多いと乱戦になり、あちこちから攻撃が飛んできて大変である。メヴィたち3人はその攻撃も余裕なようだが、他のメンバはなかなか目が追い付かず苦労しているようだ。私は目は追い付いているが、体が付いてこない。
ひたすらオークを狩り続けた私たちは、その日の終わりには他の階での1週間分くらいのレベルになっていた。
「いやー、爽快じゃったな!」
「つ、疲れたにゃ。」
「……癒される。」
メヴィはやりきったという表情を、アーニャは疲れ切った表情をしている。そして、プラノは疲れてぺたんとしてしまっている猫耳を触って癒やされている。
「…今日はいつも以上に疲れたわ。早く帰って休みましょう。」
マローネがそんなプラノを羨ましそうに見ながら、早く帰ろうと提案する。皆もマローネの提案に同意し、早々と家路に着いた。
「昨日、手前の方に居たオークが大量に出てくるだけじゃ。そやつらは放って置いて、指揮官のオークを狙い、早々に攻略するのじゃ!」
地下7階に降りて2日目、私たちはボス部屋の前で戦闘の準備をしている。メヴィがいつものようにボス戦の内容を確認し、その間に私が支援魔法を掛ける。
準備が整い、私たちがボス部屋へと入ると入り口が閉まり、黒い靄が集まって大量のオークが出現する。が、その前にメヴィたち素早さ特化の3人が、出現を待たずに全速力で突っ込んでいった。
「ちっ!間に合わんか!」
メヴィたちは既にオークの群れの中央まで入り込んでいたが、指揮官の居る位置までは辿り着けなかった。
メヴィたちは出現したオークの合間を掻い潜って、引き続き指揮官のオークを目指す。残ったメンバーは手前からオークの群れを殲滅していく。
すると指揮官のオークが持っていた槍を天に掲げ何やら叫ぶと、手下のオークたちの動きが急に激しくなる。手下のオークたちの全ステータスが上昇する指揮官スキルだ。
「一旦下がろう!」
「了解!」
シャムがそれを見て指示を出し、ミリーナさんが返事をした。私たち5人は一旦オークへの攻撃をやめて後ろへ下がり、守りに専念する。
メヴィたち3人の様子を見ると、既に指揮官のところへ辿り着いているようで、指揮官へ攻撃を集中させていた。
30秒ほど経ち、オークたちの動きが戻ると私たち5人は再びオークの殲滅を始める。この30秒の間に50匹ほど新しく湧いてしまった。
その後、2分ほど経ったところで指揮官のオークが再び槍を天に掲げる。すると、手下のオークたちが赤いオーラに包まれる。
「ちょっ、ええええ!?」
「聞いてないわよ!?」
シャムとマローネが驚いて声を上げる。まだ大量に残っていた手下のオークたちが全員覚醒状態になっている。
「さすがに私でも耐えられないよ!?」
「どうすんのよ、これっ!?」
ミリーナさんとルアノちゃんもあまりの出来事に焦っている。ほんとどうしよう。
次の瞬間、重く響く叫び声が聞こえたかと思うと、奥の方に黒い靄が見えた。どうやら指揮官のオークを倒したらしい。
「でもやっぱり覚醒が消えない!?」
私もこの状況に焦っていると、手下のオークが使ってきた魔法の集中砲火を浴びて即死した。他の皆も前衛のオークが寄ってくる前に即死したようだ。
私たちが地上に戻ると、皆静かに集まり、モニターを出して様子を伺った。
「…おー、回避してるねぇ。」
「さすがメヴィたちね。」
シャムとマローネがその様子を見て感心している。
「ちょっとこれ、いつまで覚醒してるのよ…。」
しばらく経ってルアノちゃんがそう呟く。
「…もしかして覚醒が切れないのかな?」
ミリーナさんが不穏な発言をする。
「まさかぁ…でも全然切れないね…。」
私がありえないと、引き続き様子を見るが覚醒が切れる気配はない。
その後、10分近く経ったが、いまだにオークたちは覚醒し続けていた。
「あ、メヴィたちがログアウトしたっぽいね。」
シャムがそう言うと、メヴィたちが地上に戻ってきた。アーニャは最後ログアウト処理に気を取られて死んでいた気もするが。
「全然ダメージが通らなかったにゃ!」
「あれでは埒が明かんのじゃ。さっさとやり直して、今度は手下のオークから先に始末するぞ。」
「あ、その手があったか。」
メヴィがやり直しを提案し、シャムがなるほどと言う顔をしている。確かにそれが無難だろう。
私たちは準備を整え、再び地下7階のボス部屋へと入る。今度はメヴィたちが突っ込むことはなく、オークの出現を待って手前から殲滅を開始した。
「やっぱりメヴィたちがいるとだいぶ楽ね。」
「動きが早いから多くの敵を引き付けやすいんだよね。」
マローネがメヴィたちについて改めて感心している。私もメヴィたちのメリットを語る。
少しして指揮官のオークが指揮官スキルを発動する。手下のオークたちの動きが激しくなるが、覚醒時ほどではない。大体2倍程度の能力上昇だろうか?
今回はメヴィたちもいるので、守りへ切り替えることなく攻め続ける。
「むぅ、数が多すぎるのじゃ!」
「次から次へと湧くしね!」
メヴィとシャムがオークを斬りつけながら会話している。確かに倒した側から湧いてくる。それでも少しずつ数は減っている。
戦闘を続けること15分ほどで、大量に居たオークも残りわずかとなった。
「ここまでくれば余裕じゃな。ボスのくせして手下のオークより弱いからのぅ。」
ボスである指揮官のオークよりも、指揮官スキルでステータスの上がった手下のオークの方がHP以外すべて高そうな感じである。
「よし!いっちょ上がりぃ!」
シャムが最後の手下のオークにトドメを刺した。
「途中で湧くじゃろうが、湧いたやつを優先的に倒してゆくぞ。」
メヴィがそう言うと、皆で指揮官のオークを袋叩きにしていく。
「結構湧くわね…。」
「まぁでも最初に比べると全体数も減って痛くないし、余裕だね。」
ルアノちゃんは頻繁に湧くオークにうんざりしているが、最初に比べればだいぶマシである。
湧くオークを倒しながらも、指揮官のオークを攻撃し続けること約10分。ようやく指揮官のオークが倒れ、黒い靄となって消えた。途中、覚醒させる指揮官スキルっぽいのを使ったが、丁度手下のオークがいなかったので、不発に終わった。
「ふぅ。まぁ余裕じゃったな。」
「これはこれで結構疲れたよ…。」
「最初からこうしてたら良かったにゃ。」
メヴィとシャムはいつものようにテンションが上がらないようで、落ち着いている。アーニャが余計な一言を言っている。なんだろう。アーニャ以外が言ったらそんなにイラッとしない気もする。とりあえずプラノはぶれずにガッツポーズをした後、アーニャの猫耳を掴んでいた。
私たちが勝利の祝杯を上げに酒場に行くと、今日も酒場の客たちから歓迎を受けた。今日も特に話題となる出来事が無かったようだ。短期間攻略やオークたちの覚醒を酒の肴に、メヴィたちいつもの3人は酒場の中央で盛り上がっていた。ここに来るとやっぱりテンション上がるのね。
私は端っこで残りの皆と祝杯を交わしながら、最前線に追い付いちゃったなぁとふと口にした。地下8階に最前線が到達してから2週間も掛かってないんだもんね。今までを思うと驚きのペースだよ、ほんと。
早く話を書き終えたいなぁと思っているのですが、これがなかなか。私の頭の中では最終話までもう少し…なんですが。