第62話 支援
地下6階到達から2日目。私たちは今日もレベル上げをしている。
「お、ようやく支援魔法覚えたよー。」
私はレベルが上がり、地下6階にしてようやく支援魔法を覚えれたことに、事前に情報は仕入れていたものの安堵した。いやね、このまま回復職ってほんとに回復魔法しか覚えないんじゃないかって思ってたところだよ。
「支援魔法?」
聞き慣れない言葉にミリーナさんが首を傾げて尋ねてきた。
「他人の能力を上げたりして、戦闘を支援する魔法のことだよ。自分にも掛けれるけどね。」
「へぇ、それはいいね。」
「そんな魔法があるのね。」
私が説明すると、ミリーナさんが納得し、マローネが意外そうにしていた。確かにこの世界の魔法には支援魔法と言うものはない。魔力をエネルギーに変えているだけなので、他人の能力を上げるとかそういうものはない。やろうと思えば、複雑ながらも出来るとは思う。唯一それっぽいのは障壁魔法くらいだろう。
私は、早速覚えた攻撃力UPの支援魔法をパーティーメンバーに掛ける。魔法が掛かると、桃色の光の玉が尾を生じさせながら、ゆったりと体の周囲を回り始めた。
「さて、どれくらい効果があるかのぅ。」
メヴィが試しに近くに湧いた兎を倒す。
「おお!わらわでも一撃で倒せたぞ!」
「すごいじゃん!ちょっと強めのところにも行ってみようよ!」
メヴィの言葉を聞いたシャムが試してみたいとばかりにうずうずしている。私たちは効果を確認するため、少し奥の方へと進んだ。
「よっしゃー!いくぞー!」
白い鹿型のモンスターを見つけたシャムは、勢いよく斬りかかる。が、一撃では倒せず、何回か攻撃してようやく倒せた。
「あれ?あんまり上がってない?」
「そもそも初めて倒したんだから、元々どれくらい掛かるのか分からないでしょう?」
シャムが不思議そうな顔をしていると、マローネがため息をついて、やれやれと指摘する。
「あ、そっか!」
「わらわも一回倒して、効果が切れた後と比較してみるかの。」
シャムを尻目にメヴィが確認作業に入る。
前衛5人の確認作業が終わった。シャムとミリーナさんはおよそ4分の3程度、素早さ特化の3人は3分の1程度の攻撃回数で倒せるようになっていた。
「ふむ。乗算方式ではなく、加算方式のようじゃな。」
「てことは、素早さ特化の方が効果的ってことだね。」
「アーニャたちの時代が来たにゃ!?」
メヴィと私で今回の結果について考察する。
「うへー。また素早さ特化かぁ…。私も早く慣れないとだね!」
「私は防御力メインになってきたし、攻撃力はそこまで気にしなくてもいいかな。」
シャムとミリーナさんが自身に当てはめて考えている。
「とりあえずこれで今回も私たちのパーティーのメリットが出来たわね。」
「また早くクリアしたいわね。」
マローネとルアノちゃんも支援魔法に期待しているようだ。確かにこれだけでも十分メリットだが、個人的にはもう少し検証したいところだ。
その後もレベル上げを続け、私は防御力UP、魔法攻撃力UP、魔法防御力UPの3つを覚えた。そして今日はこれでお開きとなった。
「私はちょっと支援魔法の検証をするから、皆先帰ってて。」
「まだ何か調べるの?」
私が検証することにシャムが不思議そうな顔してる。
「掛けた相手に加算される形で乗ることは分かったけど、元々の上昇値が固定なのか変動なのか調べたいんだ。魔法攻撃力依存なんだとすると素早さ特化じゃ勿体無いからね。」
「な、なるほどぉ。」
私の説明を聞いたシャムが分かってないような表情で頷いた。ちょっと難しかったかもね。
「確かに気になるところじゃな。場合によってはキャラクターも作り直さんといかんからのぅ。」
「そうなんだよねぇ。」
「そうなると早めに調べておいたほうがいいわね。」
メヴィと私の意見が一致したところで、マローネも確かにと難しい顔をして言った。
「シルよ、わらわも手伝うぞ。皆は明日に向けて休んでおいてくれ。そう長くは掛からんじゃろ。」
「助かるよ、メヴィ。」
「じゃあ先に帰って寝てるにゃ!」
「……今日は少し早いからルアノのところでご飯を食べてくる。」
「ちょっ、また食べに来るの?!」
メヴィが話をまとめて、皆もそれに従うことにした。アーニャとプラノを除く他の皆は少し後ろめたそうにしていたが、魔人である私たち以外は十分に睡眠を取らないと明日に響いてしまうので仕方がない。
「さて、検証を始めるかのぅ。」
「よろしく〜。」
私はメヴィと2人で軽い気持ちで検証を始めた。
「えっ、どうしたの?その武器。」
シャムが私の持つ武器を見て、そう言った。私たちが地下6階に降り立つと、メヴィ以外の皆が私の武器にえっ?って顔をして見ている。
「検証の結果こうなりました…。」
私も気が重い。というのも、私は攻撃力UPの支援魔法の効果を最大化するため、回復職でありながら攻撃力全振りのハンマー装備に変えたのだ。おかげで素早さがなくなって動きが鈍い上に、回復職らしからぬ見た目となってしまった。
「すごくとろそうにゃ。」
アーニャが思ったことを口にし、みんなも大変だねって感じで私を見ている。
「とりあえず、さっさと支援魔法を覚えられるようにレベル上げをするぞ。このままでは役に立たんからのぅ。」
メヴィの指示に従い、レベル上げを始める。攻撃力特化だから序盤は素早さ特化よりは役に立つんだけどね。
そうこうしているうちに私は攻撃力UPの支援魔法を覚えた。
「よし!検証の成果を見せてあげよう!」
私が前衛に攻撃力UPの魔法を掛ける。そして、メヴィが近くに居た鹿のモンスターに斬り掛かった。
「ええっ!一撃!?」
「ふははははっ!どうじゃ!これで素早さ特化の攻撃も一撃必殺に様変わりじゃ!」
シャムがメヴィの攻撃に驚いている。メヴィは何十発も入れないと倒せなかった鹿のモンスターを一撃で倒してしまったのだ。
「ちょっとこれはすごすぎるわ…。」
「そんなに効果って変わるものなのね…。」
マローネとルアノちゃんも驚いている。
「素早さ特化のメヴィちゃんたちだけじゃなくて、私たちにも十分に効果が期待できそうだね。」
「アーニャも試してみるにゃ!」
ミリーナさんとアーニャも驚き、その効果に期待を寄せている。
「これだけ攻撃力があれば一番奥でもレベル上げできるじゃろ。さくっと上げるのじゃ!」
メヴィがテンションを上げて奥へと進み出し、皆もそれに続く。
その日は一番奥でレベル上げをしたおかげで一気にレベルを上げることが出来た。明日はもうボスに挑む予定である。
翌日、地下6階到達から4日目にしてボスを倒すため、ボス部屋へと向かった。
「地下6階のボスは一本の長い角が生えた、白い大きな兎じゃ。魔法中心の攻撃をしてきて、回復、支援魔法も充実、障壁魔法まで使ってくるようじゃぞ。瀕死になると高く跳び上がって、その間に回復するようじゃから、回復よりこちらのダメージが上にならないといかん。今回はシルの支援魔法で一気に火力を上げて攻めきる予定じゃ。皆死なんように気を付けるのじゃぞ。」
メヴィが簡単に今回のボス戦について確認する。障壁魔法を突破できるだけの火力がないとそもそもダメージを与えられないのだが、今回は私の攻撃力UPの支援魔法でゴリ押しする。ついでに攻撃力は十分すぎるくらいに上がるので、装備は倍率で与えるダメージが増加するオプションの付いたものを前衛は付けている。装備で攻撃力が加算されただけでは微々たる変化だが、乗算で増えれば結構な変化になるのだ。
私はボス部屋の手前で、皆に支援魔法を掛ける。そしてボスの部屋へ入ると入り口が閉まり、中央に青白い光が出現して大きな兎型のボスモンスターが現れる。ボスは光の時から既に支援魔法を自身に掛け始め、出現が終わった時には既に全ての支援魔法を掛け終えていた。
「せこいやつじゃな。行くぞ!」
メヴィがボスへと向かって突撃し、ミリーナさんを除く前衛がそれに続く。ミリーナさんには私をかばってもらう。マローネとルアノちゃんは後方から魔法で攻撃だが、恐らくほとんどダメージが通らないので攻撃より防御優先で動いてもらう予定だ。
そして私は、メヴィの突撃と同時に、すぐに支援魔法をボスへと掛ける。攻撃力UPは除いて。
これでボスに掛かっていた支援魔法は私の掛けた弱い支援魔法で上書きされたはずだ。
「元が分からんが、あまり痛くないのぅ。」
「支援魔法にこんな使い方があるとはねぇ…。」
「さっくさくにゃ!」
突撃した皆が魔法攻撃を時々受けながらも、ガンガン攻撃している。ボスはあちこちへ飛び跳ねながら、多様な魔法で攻撃してきて、中には追跡機能付きで回避できないものもあるが、それほど危険な威力ではないようだ。
危なげなく攻撃し続けること約5分、ボスが高く跳び上がろうとした。
「飛び乗るのじゃ!」
「了解にゃああああああぁぁぁぁぁ…!?」
メヴィの号令とともに、メヴィ、プラノ、アーニャの3人がボスへと飛び乗った。そしてボスが跳び上がると、光の届かない天井へと吸い込まれて見えなくなった。アーニャの叫びが遠く響き渡る。
「見えなくなっちゃった…。」
ルアノちゃんがぽかんと口を開けて上を見上げている。
しばらくして、ボスが物凄い勢いで地面に降り立つと、部屋全体が大きく揺れた。メヴィとプラノはタイミングよく飛び降りて、揺れが収まる頃に地面に降り立つ。アーニャはボスが地面に降り立った衝撃でもって吹き飛ばされていた。死んではいないようだ。
「跳び上がってる間も攻撃しておいたのじゃ!もうあと少し、行くぞ!」
「おー!」
ボスが跳び上がったということは瀕死だということだ。シャムも気合を入れて攻撃を再開する。
そして、ボスが降りてきてから1分と少し。ボスが倒れ、黒い靄となって消えていった。
「倒したのじゃ!」
「いぇーいっ!」
「すごいにゃっ!」
前衛で戦っていた4人が勝利にはしゃいでいる。プラノはいつものガッツポーズだ。
「まさか地下6階もこんなに早く倒せるなんてね。」
「驚いたわ。本当に。」
「すごいことよね!これって!?」
ミリーナさんとマローネ、そしてルアノちゃんも驚きつつも、勝利を喜んでいる。
「地下7階も支援魔法あるらしいから同じことができそうだね。」
「えっ、そうなの!?」
「…次も数日で攻略できるのかしら。」
「それはすごいね…。」
私が次も行けそうだと言うと、後衛3人が驚きにぽかんと口を開けてしまった。ま、とりあえず酒場で勝利の祝杯を上げますか。
私たちが酒場へ移動すると、今回も賑やかなお出迎えを受けた。今日も私たち以外に特筆すべきニュースは無かったようだ。いつものように、メヴィとシャム、そしてアーニャが酒場の中央で盛り上がり、残りは端っこで比較的静かに祝杯を上げた。
アーニャが度数の高いお酒を飲んだようで、一口飲んだだけで顔を真っ赤にし、フラフラになってしまった。それでも飲み続けていると、暑いといって服を脱ぎそうになったので周りの人たちが慌てて止めに入った。てんやわんやになっていると、アーニャの服の腰の辺りが捲れて猫の尻尾が出てきた。
アーニャに尻尾があっただと…!?