第61話 策略
わずか3日で地下5階を攻略した私たちは、今日は地下6階に向かうため、街の中を歩いている。
「昨日は大変だったにゃ…。」
「アーニャがあそこで死ななければ、30回くらいで終わってたのに…。」
私はアーニャを恨みがましく見る。
残りのメンバーも地下5階をクリアするため、昨日は繰り返し挑戦したわけなのだが、これが結構大変だった。
メヴィ、プラノ、私とあの即死級魔法を回避する役割をしたのだが、たまに回避しきれずに当たってしまうのだ。そのせいで思ったよりも挑戦回数が増えてしまった。アーニャは最後にクリアしたのだが、途中、これを回避すれば倒せる、というところでボスの攻撃に突っ込んで死んでしまった。初っ端の素早さ特化に慣れずヘッドスライディングしたのと同じである。しかも、その後は何もさせずに離れたところで待機させていたら、今度は毒ダメージで死んでしまった。アーニャ曰く、私たちの回避に見とれていたらしい。
「シルちゃんが大剣に持ち替えた時は、え?なんで?って思ったよ。」
「あの一瞬の中で、魔法を武器で止めていたなんてね。言われてまたびっくりしたよ。」
シャムが私の装備変更のことを話題に出すと、ミリーナさんがその話題に乗った。どうやら他の皆は、メヴィたちが回避する一連の動きを目で追えてなかったらしい。単純に横へ移動しただけだと思っていたみたいなので、私が大剣を装備した時はメヴィとプラノ以外、皆の頭にはてなマークが浮かんでいたらしい。
ちなみにアーニャも回避に挑戦したがダメだった。
そんなことを話しながら、私たちは地下6階に降り立つ。
「ここも森エリアのようじゃな。」
「7階と8階も森エリアらしいけど、7階からは背が低い数mくらいの木らしいね。」
私は以前にモニターで見た情報を口にする。ちなみに、7階からはオークが主なモンスターらしい。
みんなで近くにいた白い兎型のモンスターを倒す。1mくらいあって、兎にしては大きい。
「まぁ、楽勝だね。」
「敵を釣ってくるのじゃ。プラノ、行くぞ。」
シャムがいつものように序盤のモンスターを軽々と倒し、メヴィとプラノがモンスターを集めに行った。私たちはその場をあまり動かずに、周りに居るモンスターを倒していく。
しばらく経って、メヴィが向かった方向と逆の、地下6階の入り口方向から歩いてきた。モンスターは引き連れていない。
「なんでモンスターがいないにゃ?」
アーニャが皆の思いを代弁する。
「………ぁのじゃ。」
「ふにゃ?ボソボソと言ってたら聞こえないにゃ。」
「死んだのじゃ!」
え!?あの絶対回避のメヴィがこんなところで?アーニャのドジっ子属性でも伝染った?
「わらわとしたことが…こんなところで死ぬなぞ…痛恨の極みじゃ!」
「メヴィも人のこと言えないにゃあ。」
「うるさいわっ!」
「にょはぁっ!?」
メヴィが俯きがちに唇を引き締めてわなわなとしていると、アーニャがそれを笑う。そしてアーニャはメヴィから腹パンを食らい、その直後に顎にアッパーを受けて体が浮き上がった。そしてそのまま後ろに仰け反って、頭から落ちていった。
「自業自得ね。」
マローネが冷ややかな目で言う。この前のことを根に持ってるのだろうか。
「そういえばプラノちゃんは?」
シャムがもう一人帰って来ないことに心配する。
「…プラノなら地上で会ったのじゃ。余程ショックだったのか、ふらふらとどこかに行ってしまいおったわ。」
プラノまでやられたのか。このエリアがそこまで危険な場所だという情報はなかったはずだが…。
「一体何があったの?」
私がメヴィに詳細を求める。
「…少し奥に進んだところにスライムの群れがおったのじゃ。動きも遅いし、スルーしようと群れを通り過ぎようとしたら一斉に魔法を使われての。それが追跡機能付きで体に直接発動するタイプだったのじゃ。回避できずに全て食らったら一撃で死んでしまったわ。」
「ああ、なるほど。素早さ特化が仇となったのね…。」
普通のステータスなら恐らく耐えれるような弱い威力だったのだろう。だが、素早さ特化のメヴィには耐えることができなかった、ということだと思う。プラノも恐らく同じだろう。
「まぁうん。釣りは諦めて地道に狩ろうか。」
「…うむ。すぐにレベルを上げてあのスライムどもを血祭りに上げてやるのじゃ!」
いやスライムに血はないだろうし、このダンジョンのモンスターはそもそも血が出ない。まぁ、メヴィもそれだけ怒りに満ちているということなのだろう。
しばらくレベル上げをした後、メヴィの強い意向によりスライムを乱獲した。そして、今日はそこでお開きにして地上へと戻った。
「プラノ、大丈夫かしら。」
ルアノちゃんが心配そうな顔でそう言った。普段から積極的に絡んでくるプラノがいなくて違和感があるのかもしれない。
「まだ早いから一緒に様子見に行ってみる?」
「うん!」
ミリーナさんとルアノちゃんはプラノのところに行くらしい。私も付いていこうかな。
「わらわは今日はもう部屋に戻るのじゃ…。」
メヴィはなんだかんだでまだ引き摺っているようだ。
「プラノは野菜畑に居るみたいね。」
マローネが手元の端末でプラノの位置を確認し、ルアノちゃんに教えた。
「野菜畑?そんな場所があったの?」
あ、そういえば一般人は立ち入り禁止の場所だった。
「私たちだけの秘密の場所だね。他の人に教えちゃダメだよ?」
私はルアノちゃんにそう教え、内緒にしてもらう。まぁ漏れたからといって特に問題はないのだが。
結局メヴィ以外の全員でプラノのところへ向かうことになった。
「こんなところに畑があったのね…。」
ルアノちゃんが驚いている。この街の畑は地下にある。光は魔法によるもので、水やその他世話などもすべて魔法で行われている。
「あ、あそこに居るね。」
畑を見渡していると、ミリーナさんがプラノを見つけた。プラノはだいぶ大きく育った野菜の前でしゃがんでいた。私たちがプラノの居る方向に歩いていくと、プラノもこちらに気付いたのか、立ち上がりこちらへ歩いてきた。
「その、だ、大丈夫?」
ルアノちゃんが言いにくそうにしながらも、プラノの心配を口にする。
すると、プラノは俯いてルアノちゃんの前で膝をつき、ルアノちゃんの胸に顔を埋めて抱き付いた。ルアノちゃんはそんなプラノの頭を優しく抱く。
「プラノ…。」
「……じゅる。」
「きゃっ?!ちょっ、プラノ?!」
じゅるってなんだ。ルアノちゃんが不穏な音を聞いて驚き、声を上げた。同時にプラノの頭を抱いていた手を離すと、プラノが静かに離れ、立ち上がって顔を上げた。ルアノちゃんがその動きに合わせて視線を動かし、プラノが顔を上げたのを見た後、ゆっくり視線を下げて自身の服を見る。
「…これ、涎よね?服汚れちゃったじゃない?!」
「……我の精神ポイント回復の犠牲になった。」
「何言ってんのよ?!」
プラノが真面目な表情で言っているが、すごくご満悦なように見える。ルアノちゃんは服にべっちゃりと付いた涎を見て混乱しつつも、プラノに怒りをぶつけている。ルアノちゃん、ご愁傷様です。
そんな2人のやり取りを見たアーニャは汚いとばかりに身を引いていたが、他の皆はいつもの事に苦笑していた。
その日の夜、プラノはいつにもまして上機嫌だった。やっぱり植物を見てると癒されるのかなー?…なんてね。
今日から1日1投稿にしようかと思います。今後の投稿は進捗具合によって変化しそうです。