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自力で転生した少女  作者: 10bit
第9章 攻略
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第60話 タイミング

 地下4階のボスを倒してから2日後、私たちは地下5階のボス部屋の前へとやってきた。


「…さすがに早すぎるんじゃない?」

「様子見するにももう少ししてからの方が良いと思うのだけれど。」

 シャムとマローネがあまりに早い挑戦に異議を申し立てる。

「地下8階まで先はまだまだ長いのじゃ。幸い地下5階のボスは即死級の単体魔法以外はそれほど脅威ではないらしいからのぅ。早めに様子見しておいても良いじゃろ。」

 メヴィは今回の挑戦の妥当性を説明する。確かにまぁ、即死級の魔法以外は問題にならないと思うので、火力だけどうするかだと思う。それを確認するために、様子見をするというのはありだろう。

 挑戦するだけならタダなので、みんなも挑戦する気にはなったようだ。死ぬとデスペナルティが痛いので、アイテムは倉庫にしまい、装備もほどほどのものを着ている。


 私たちが地下5階のボス部屋に入ると、入り口が閉まる。すると部屋の中央から緑色の霧が発生し、部屋全体へと広がっていく。そして中央には霧が集まって、大きな緑色の熊が現れた。

 緑色の霧に包まれた時点で毒ダメージが発生しているため、私はみんなにヒールを掛けて回っている。

「とりあえず攻撃するかのぅ。」

 メヴィの落ち着いた声とともに、前衛5人がボスへと向かい、後衛2人は魔法で攻撃を始める。

「あ。」

 私は間の抜けた声を上げてしまった。

 ボスへと向かったアーニャがボスの前で転び、こちらに向かってきていたボスが丁度足を下ろそうとしていたところにヘッドスライディングして、踏み潰された。

 アーニャは光の粒子となって消えていった。


「…なにやってるんじゃあやつは。」

「…素早さ全振りにしたからじゃないかな。」

 メヴィが呆れ、シャムがメヴィのせいじゃないかなと遠回しに言う。

 死んでしまったものは仕方がないので、アーニャを除くメンバーで戦闘を開始する。メヴィとプラノは全回避し、ミリーナさんはボスの攻撃を受けながらも耐えて攻撃し続ける。シャムはボスの攻撃が耐えきれず、一撃離脱を繰り返している。

「即死級魔法さえ来なければ意外と余裕ね。」

「これならもしかして倒せちゃうかしら?」

 マローネが意外そうな表情でそう言うと、ルアノちゃんが期待するように言った。


 そして、戦闘開始からおよそ3分、メヴィの頭上数mの位置に直径2mほどの魔法陣が現れる。

「きたのじゃ!」

 魔法陣はゆっくりと回転しながら、少しずつ薄緑色に光り輝いていく。メヴィはその間もボスに攻撃し続け、魔法陣はその動きにぴったりと付いていく。

 そして1分ほど経って輝きが最高潮に達し、魔法が発動される直前、メヴィはすぐ近くにあったボスの腕に足を乗せる。


「ぬおあああああああああっ!!どうじゃっ!?」


 鈍く響く音とともに魔法陣から一瞬にして緑色の塊が降り注いだかと思うと、メヴィがそれに大剣を叩きつけながら体を横に反らした。すると魔法陣から降り注いだ緑色の塊はほんのわずかな間だけ動きが止まり、メヴィがその先に居なくなった後、ボスの腕に直撃した。



「まじか…。」

「…相変わらず化物じみた動きね。」

 シャムとマローネが驚愕に声を漏らす。他の皆も私含め、口をぽかんと開けて驚く。

 自身の即死級魔法を受けたボスはノックバックし、大きなうめき声を上げる。

「このまま畳み掛けるぞ!攻撃じゃ!」

 メヴィが大声を上げて指示を出す。その声に我に返った皆は攻撃を再開する。

 攻撃を再開して数秒後にはボスのノックバックが終わり、今度はプラノの頭上に魔法陣が現れる。

「プラノ!おぬしも出来るな?」

「……メヴィに出来ることは我も出来る。」

 メヴィがプラノに同じように出来るか尋ね、プラノは当然とばかりに意気込んで返事を返す。

 そして魔法陣の光が最高潮に達する直前、プラノはボスの頭上へと足を乗せる。

「……っうぁ?!」

 プラノは手に持つ薙刀で緑色の塊を叩きつけながら体を反らす。そして、緑色の塊はボスの頭上へと落ち、再びボスがノックバックした。

「うへー…。ほんとに躱しちゃったよ…。」

 シャムがボソッと呟いている。何度見てもあれはやばいと思う。プラノもぎりぎりだったのだろう、声が漏れていた。

 少ししてボスがノックバックから回復すると、次の魔法陣が現れる。

「うわっ!今度は私?!」

 私の頭上に魔法陣が現れた。

「シル!おぬしもいけるはずじゃ!」

「いや回復職ですけどっ?!」

 そう言いながらも私は、魔法陣が光り輝くまで皆の回復を行い、そして魔法の発動直前、プラノと同じくボスの頭上へ足を乗せる。

「うぉりゃああああ…へぁ?!」

 私はタイミングを合わせて緑色の塊に杖を当て、体を反らす。が、緑色の塊は杖で止まることなく、私の反らしきれなかった体を押しつぶし、そのままボスにも衝突した。

「情けないのじゃ…。」

「それが普通だから。だからシルちゃんは何も悪くないよっ!」

 メヴィが私の姿に落胆し、シャムが慰めてくれる。私は最後に変な声を出してしまったことに恥ずかしさを感じながら、光の粒子となって消えていった。これ、かなり痛いんだよね…。


「戻ってきたにゃ!どうなったにゃ?」

「いやモニター見ればいいじゃん。」

 私が地上に戻ると、アーニャがすかさず声を掛けてきた。アーニャが状況を聞いてきたが、手元に魔法で展開できる端末を使ってリアルタイムにダンジョン内を見ることが可能だ。

「そうだったにゃ…。」

「まぁいい感じだよ。少なくともメヴィとプラノは地下5階をクリアできそうだね。」

「ほんとにゃ?!」

 一応、私は簡単に状況を説明する。それを聞いたアーニャは驚いている。私もいまだに信じがたい。ぎりぎりのようだったし、次の回避は失敗してしまうだろうか?

 私がその後の様子をモニターで見ていると、次はシャムが対象になったようだ。魔法が発動する数秒前にログアウトして地上に戻ってきた。

「たっだいまー!いやー、私には無理!」

 シャムが元気よく声を出す。無難な選択だろう。

「次はマローにゃにゃ。」

 ネが言えていない。次の対象はマローネのようだ。マローネもシャムと同様、余裕を持って魔法が発動する数秒前にログアウトして地上に戻ってきた。

「残念だわ。こればかりは運次第かしらね。」

 マローネはため息を付いている。それともパーティー全員を一周するのだろうか?

 引き続き様子を見ていると、次はプラノだった。プラノが再び、ぎりぎりながらも回避に成功する。私とシャム、マローネは3人で「おー。」と感心する声を上げた。

「にゃにゅにゃぁ…。」

 アーニャが言葉になってない言葉を漏らし、口をぽかんと開けて驚いている。やっぱり驚くよね。


 その後、再びプラノ、メヴィと来て、そこでボスが倒れ黒い靄となって消えた。

「ほんとに倒しちゃった…。」

「いまだに信じられないわ…。」

「ありえないにゃ…。」

 3人とも信じられないといった顔をしている。私もそう思う。

 しばらくして、メヴィ、プラノ、ミリーナさん、ルアノちゃんの4人が戻ってきた。

「やったのじゃ!これぞ素早さ特化の真価なのじゃ!!」

 メヴィが物凄いハイテンションで話している。プラノも勝ち誇ったような表情をしているように見える。ミリーナさんとルアノちゃんはぽかんとしている。


 メヴィを先頭に酒場に移動した私たちは、盛大なお出迎えを受けた。

「ふはははは!これぞわらわたちの真の実力なのじゃ!」

「ほんとすごかったよっ、メヴィ!」

「これぞアーニャたちの実力にゃ!」

 メヴィとシャムがいつものように酒場の中央で周囲の客と一緒に盛り上がっており、そこにアーニャも加わっている。アーニャがさも自分の手柄のように言っているが、私の記憶が正しければ戦闘開始前に死んでいたと思う。

 私を含む残りの5人は、そんなアーニャのことを見ながら笑って、端っこで静かに祝杯を上げていた。



 翌日、50回近く再挑戦して全員地下5階をクリアした。私も大剣装備に変えることで、メヴィたちと同じように躱すことに成功した。




 アーニャの言葉になってない言葉は「なにが…」でした。




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