第57話 パーティーボム
たった一日で復活したメヴィとシャムは、今日も元気よく地下4階でレベル上げしている。私たちもそれに続いて、モンスターを倒している。
「このスキルを覚えてからさっくさくじゃな!」
メヴィが大剣を振り下ろすと、周囲のモンスターを巻き込んで攻撃したモンスターを黒い靄へと変える。それとともに耳障りな甲高い音が響き渡る。
「聞いてるこっちは辛いけどねー。」
シャムが顔を一瞬しかめながらも、苦笑している。
音が響いてから少し経つと、大量のモンスターが寄ってきた。そう、このスキルは高威力範囲攻撃である代わりに、周囲のモンスターを惹き付ける効果がある。
地下4階のボスは大きな狼型のモンスターなのだが、それに加えて10体の狼型モンスターも現れる。倒してもすぐに湧いてくるので、常に1体+10体のモンスターと戦わなければならない。このスキルを使えば周りの10体は惹き付けておくことができるだろう。
しかし、それでもボスは惹き付けられず、物凄い勢いの突進で後衛を攻撃してくるため、後衛が崩されてしまう。動きも素早く、前衛は今のところメヴィとプラノしかうまく攻撃が与えられず、火力が足りていないのが現状だ。100人も居れば誰かが攻撃を与えられるのだが。
「そろそろ覚醒スキルを覚えてもいいと思うんじゃがのぅ。」
「あれ覚えたら余裕そうだね。」
メヴィが覚醒スキルに期待し、ミリーナさんも同意する。
あらかた集まったモンスターを片付け終え、再び例のスキルをメヴィが使った。しかし、今度はあまり集まらなかった。
「あら?近くで狩りを始めた人でもいるのかしら。」
「はた迷惑な奴じゃのぅ。」
「まぁさすがにお互いが見えない範囲は狩場にされてもしょうがないでしょ。」
マローネの推測に対して、メヴィと私がそれぞれの感想を漏らす。
仕方がないので、集まった分だけ倒していると大量のモンスターが寄ってきた。
「おっ。遅れてきたようじゃな。」
「た、たすけてにゃーーー!!」
メヴィがそんなことを言ってると、そのモンスターの先頭から叫び声が聞こえた。
「……猫型モンスター?」
「いやプレイヤーでしょ。猫人かな?」
プラノの冗談にツッコミを入れつつ、叫び声を上げた張本人を見る。
薄い緑色の癖っ毛がある髪を肩口まで伸ばし、頭に猫耳が付いた少女だ。あれだけのモンスターに襲われながらも、すべての攻撃を躱してこちらへ走ってくる。
「大量のモンスターいただき!」
シャムがそう言ってモンスターの群れに飛び込んでいく。メヴィとプラノは既に倒し始めている。
私たちは特に危なげなく倒すと、マローネが助けを求めてきた猫人の少女に事情を聞く。
「どうしてあんなことになっていたのかしら?」
「うにゃぁ…新しく覚えたスキルを使ったらいっぱいモンスターが寄ってきたにゃ。耳障りな音が聞こえて人がいると思って逃げてきたにょよ。助けてくれてありがとにゃ!」
猫人は大げさな動作でおじぎをして、お礼を言ってきた。近くで見ると意外と小さく、私と同じくらいの背しかない。
「それは構わないけど、攻撃全部躱してたよね?一人でも倒しきれたんじゃない?」
私が見ていて気になったことを聞く。
「にゃにゃ!今考えたらそうかもしれないにゃ!仲間が死んでパニックになってたにゃ。」
「え、仲間がいたの?」
ミリーナさんが驚いて聞き返す。
「そうにゃ。アーニャだけ生き残ったにゃ。」
なんというか、お仲間さんはご愁傷様といったところだろうか。
「…またやってしまったにゃ。やっと見つけたパーティーだったにゃ。」
常習犯なのか。
「そうにゃ!アーニャもこのパーティーに入れてほしいにゃ!」
「今またやったって暴露した後なのによく言えるわね。」
ルアノちゃんが呆れたように言う。
「じゃが、こやつの動きはなかなかのものじゃ。必要なときだけ動いてもらって、普段は縛り付けて置いておけば良いじゃろ。」
「入れてくれるのにゃ?!助かるにゃ〜〜〜。」
メヴィの酷い提案に特に異論もないようで、この猫人は安心したのかその場にへたり込んだ。
「…メヴィってやっぱり結構悪辣ね。」
ルアノちゃんが難しい言葉でメヴィを批評する。まだ怖がってるんだろうか。
「メヴィがいいなら私も構わないわ。とりあえず死んだ仲間のところに行って話をつけてきなさい。」
「にゃぁ?!い、一緒に付いてきて欲しいにゃ!また怒られるにゃ!」
マローネがメヴィの意見に異論はないと言い、猫人に後始末をしてくるように言うと、猫人が飛び起きて必死にマローネにしがみついた。
「ちょっ?!あなたのやったことでしょ!自分で何とかしなさい!」
「そこをにゃんとか〜〜〜!」
猫人がしつこくマローネに懇願する。マローネに怒鳴られるのは気にならないんだろうか。
「私が一緒に付いていくよ。このままじゃ埒があかないしね。」
「感謝するにゃ!あの偉そうにゃのとは違うにゃ!」
この猫人は一言多い。マローネがイラッとして、目を瞑って拳を握っている。さっさと地上に戻ることにしよう。
私と猫人が地上に戻ると、猫人の居た台座の周りにお仲間らしき人が集まっていた。
「おい、アーニャ!待てと言ったのに何で勝手にスキルを使ったんだ!」
「あれほど迂闊なことはするなと言っただろう!」
「も、申し訳ないにゃ…。」
耳が垂れて、しょんぼりとした感じで謝っている。別に私居なくてもいいんじゃないだろうか。見てるだけなら可愛いものだ。あの垂れた猫耳がいい。
「あ、こっちにゃ!」
猫人はすぐに猫耳を元気よく立てて、明るく手招きしてくる。そんな明るくしてたら余計に相手の怒りを招きそうなんだが。
「お・ま・え・は!!反省してるのか!」
やっぱり怒られている。
「にゃにゃにゃ!?わ、悪かったと思ってるにゃ。ただ、こう、我慢できなかったにょよ。」
猫人がてへぺろとしている。この世界にもあるんだな。
ふと、お仲間の一人がこちらを見て大きく仰け反る。
「あ、あんた地下3階の先駆者じゃないか!?」
他のお仲間も私を見て驚いている。
「あー、その子が一人逃げてきたのを助けてね?仲間を死なせちゃったって、一人で怒られるのは嫌だから付いてきてって言われちゃって。」
私はにっこりと笑って、そう言ってみた。
「ほぅ。お前は俺らを殺しただけでなく、その場で助けてもらった人にも迷惑を掛けてきたのか。」
「う、裏切りにゃ?!」
いや裏切りって。ちょっといじわるしただけじゃないか。とりあえず話が進まないので、真面目に行こう。
「えと、その子をこちらのパーティーへ入れたいんだけど、譲ってもらってもいいかな?」
「え?こいつはパーティーボムで有名なやつだぜ?それでも入れるのか?」
なんだその異名は。
「まぁそれ込みで。実力は確かみたいだから。」
「確かにそうなんだが…。まぁ俺らにどうこうする権限なんてないからな。本人がいいって言うなら構わないぜ。」
「アーニャは構わないにゃ!それじゃあ狩場に戻るにゃ!」
猫人は話は終わったとばかりに、その場を後にしようとする。
「おい。契約どおり、お前のミスによる損失はちゃんと補填しろよ。ダンジョンギルドに請求額は申請しておくからな。」
「だ、大丈夫にゃ!ちゃんと後で支払っておくにゃ!」
…心配になってきた。私たちも契約交わしておいた方がいいかもしれない。
「話はついたにゃ!早く狩場に戻るにゃ!」
そう言って猫人はダンジョンに入っていった。
私も早く戻って、みんなに報告するとしよう。
問題が起こる前に。
パーティーボム…爆弾のように突然問題を起こしてパーティーに大ダメージを与えることから付いた通り名。
本人に悪気はありません。