第49話 対面
あの後、自宅にしている部屋のある建物の玄関ホールにまで騒いでいた人たちが付いてきた。私たちの部屋は高層にあるので、ここからエレベーターもどきに乗る。さすがにそこで乗ってこられても困るので、お帰り頂いた。
「すごく話題になってたねぇ。」
「なかなか、わらわたちの凄さをちゃんと把握して話が分かる奴らじゃったな!」
「……疲れた。」
その日の内にここまで有名になるとは思わなかった。それにしても、あの覚醒スキルのデメリットは彼らが教えてくれた。それはあの素早さではまともに体を動かせないということだ。ただでさえ急激に感覚が変わるのに、そこであの超高速な動きである。普通の人にはまず対応出来る速度ではない。メヴィの言っている話が分かるというのはこのことである。私たちが普通では不可能だと思われる超高速に対応できていた、ということだ。
最近彼女たちとずっと一緒に行動していたので、ついついあの素早さで動けるのが当たり前のように思ってしまっていた。
「……もう寝る。」
家に着くと、プラノはベッドに直行した。うつ伏せのまま、顔を枕に埋め、横を向いて寝ている。
「プラノよ、よくそんな硬いベッドで眠れるのぅ。やはりベッドはこの体を優しく包み込んでくれるくらいがいいのじゃ。」
メヴィがベッドに沈み込みながら、ベッドの好みを語る。メヴィは恍惚とした天にも召しそうな表情をしている。
体が沈むほどの柔らかさは骨が歪んで良くなさそうだが、実体がないと言っても過言ではない私たちにしてみれば、気持ちよければ何でもいいのである。私はメヴィ派だ。
翌日、私たちが地下2階の攻略に向かおうと部屋を出て玄関ホールに行ったところで、私たちを一目見ようと思ったのかちらほらと人が立っていた。その中の一人が声を掛けてくる。
「お久しぶり、で合ってるかな?」
…デミアルト様だ。
「知り合いか?」
メヴィが私に問いかけてくる。デミアルト様はそのメヴィの姿に対して、先程からずっと警戒しているようだ。
さて、なんと答えるべきか。
「えーと…。」
「…突然で申し訳ないのだが、私の知り合いと会ってもらえないだろうか?今、知り合いは私の出身国に居るので、また別の日に、ということにはなるが。」
私が答えづらそうにしていると、デミアルト様が気を利かせてくれたのか、答えなくてもいいように話を持っていってくれた。
「分かりました。会います。」
その中にミリーナさんが含まれていることを切に願う。
「ありがとう。ではフレンド登録をさせてもらっても良いかな?」
デミアルト様が登録を求めてくる。この街で自動的に付与される機能で、ある陣を構築することで誰でも利用可能となっているサービスだ。フレンド登録をすれば、街中であればお互いに連絡を取ることが出来る。
私は登録を許可し、フレンド一覧にデミアルト様が追加される。恐らく向こうには私の名前であるシルが追加されているだろう。
「知り合いが到着したら連絡をする。では、また会おう。」
デミアルト様はそう言うと、去っていった。
「元上司、といったところかの?」
「そんなところだね。」
「……メヴィ、警戒されてた。メヴィも知り合い?」
あれは多分、メヴィを例の魔人と気付いているのだろう。
「そういえば私が居た国では、魔人はメヴィのような姿をしているって伝わってたんだけど、他の魔人で国に関わった人っていないの?」
「……わざわざあんな遠くに行くのはメヴィくらい。我は縄張りにずっと居た。」
「ただの引き篭もりではないか。だがまぁ、確かに猿人の国まで行く者はほとんどおらんの。わらわは昔、退屈すぎて旅に出たことがあるのじゃ。その時にその国にも立ち寄ったことがあるのじゃが、あの時の国王はなかなか強かったぞ。まぁ今のシル程ではないがの。」
ほぅ。その頃の話が伝わっているわけか。というか国王とやり合ったのか。どおりで警戒されてるわけだ。
「そんな過去があったんだねぇ。」
「それより、どうするんじゃ?わらわは別に羊人と言い張れば、怪しまれるじゃろうが主張は通ると思うぞ。」
「私はなぁ…。なんて説明しようかな。」
「魔人になったとでも言っておいたらどうじゃ?魔人イコールわらわはちと困るのじゃ。魔人が他の人族が死ぬことでなることがあるとでも思ってもらえれば、少しは魔人に対するイメージも良くなるじゃろう?」
今の、魔人に対するイメージ=メヴィに対するイメージなのだが、改善したいのだろうか。
「メヴィが望むならそれでもいっか。」
確かにそれならいろいろと都合が良さそうだ。
「……我は竜人にしておく。魔人は面倒。」
プラノは竜人で行くらしい。
あれ、そうすると魔人は私だけになるんだが。大丈夫かな…。