第47話 散策
「随分と賑やかになったねぇ。」
「わらわがこうして他の人族に紛れて暮らすことになるとはのぅ。」
「……騒がしいのは嫌い。」
最近私たちは街の住人に紛れて住み始めた。私は鬼人、メヴィは羊人、プラノは竜人の見た目に近い。魔人は魔力で体が構築されているだけなので、特に見た目に統一性は無いらしい。
「そういえばプラノはよく野菜畑に行ってるけど、順調に育ってるの?」
「……ほとんどの野菜はダメ。一部の野菜だけはスクスク育ってる。既に四期目に入ってるのもある。」
この街が出来て約7ヶ月、種を仕入れてから約6ヶ月なので、2ヶ月弱で成長している作物があることになる。
「そりゃまたすごいね。」
「……荒地でも育つ植物を育ててるから、その内枯れた植物が養分になって肥沃な土が出来ると思う。」
今はまだ土作りの段階のようだ。
「じゃあ、一応この街が産地の野菜も少しは出回ってるんだねぇ。」
「じゃが、それだと食料が足りんじゃろう?」
「それは国から持ってきてるっぽいよ。あちこちで荷馬車や輸送用の魔道具を見かけるし。」
街の中には人も多いが、そういったものも多い。国から大量の食料が運び込まれているようだ。そういった意味では住民の排泄物も土作りに役立つのだろうか。
「それにしても、これだけ広い街なのになぜこんなに一箇所に皆集まるんじゃ。」
「そりゃ人が集まるところで商売した方が儲かるし、商売してるところじゃないと今は食事もままならないからねぇ。」
この街はとても広く作ってある。住居はまだ1%も使用していないだろう。なので、各国との街道の接続点とダンジョンの周囲辺りにしか人は住んでいないし、店も開かれていない。
「そんなものかのぅ。」
「魔人みたいに皆が皆、空を飛べたりしないのですよ。」
魔人ならどこに住んでいても街全体が生活圏内に入るのかもしれないが、一般人はそうもいかない。
私たちはしばらく街を散策した後、ダンジョンギルドなる建物に入った。
ダンジョンギルドはこの街が運営するギルドで、ダンジョン関連のクエストを発注している。クエストを達成すると、報酬としてアイテムが手に入る仕組みとなっている。中にはクエストでしか手に入らない貴重なアイテムもあったりする。
周りにはダンジョン攻略組らしき人たちが、列を成してクエストの受注や達成報告をしている。私たちもクエストを受注しようとここに来たわけである。
「あれは今の最前線かの?」
「みたいだね?」
ギルドの天井付近にある大きなモニターに、ダンジョン内の様子が映し出されている。画面に表示されている説明には、地下3階のボス戦とある。100人近い人数で大きな黒いゴーレムと戦っている。
「確か地下1階も2階もボスはゴーレムじゃったか。10階まではゴーレムで統一されておるのかの?」
「どうだろうねぇ。それにしても凄い人数で戦闘してるね。」
「……でも負けそう。」
100人近く居たプレイヤーが今は30人程にまで減ってしまっている。
「あれはダメージ反射かの?強烈な一撃を入れた奴ほど直後に大ダメージを受けている気がするのぅ。」
「あの人数で攻撃叩き込んでたのに全然削れてないみたいだね。」
「……敵の攻撃も激しい。」
ボスモンスターの動きも目を見張るものがある。多人数を相手にしながらも、的確に各プレイヤーに攻撃を仕掛けている。岩が物凄い勢いで射出されることで、遠くにいるプレイヤーもほとんど回避できていない。
私たちの周りに居る人も、その戦闘の様子を見ている人が多く、あれでも勝てないのかとか情けない奴らだとか騒いでいる。
そうこうしている内に全滅したようで、モニターには敗北の戦闘結果が表示された。その後は、各階のボス戦のランキングや各プレイヤーの高レベルランキングなどが表示されていた。その地下1階、プレイヤーの高レベルランキングに私たちの名前が同着1位で並んでいる。
「……我らの名前が載ってる。」
「ほんとだ…。なんかこう、恥ずかしいよね。」
「なぜじゃ?!ランキング1位じゃぞ?」
確かに1位だが、それは裏を返せば地下1階のボスを倒せていないということだ。実際、火力不足で自動回復持ちのボスを倒せずにいる。
「そもそも3人で倒そうっていうことに無茶があるんだよ。やっぱりボス戦の時くらい誰かと組もうよ?」
「何を言うのじゃ。地下1階ごときのボスで徒党を組む必要などないぞ。まだまだレベルは上げれるのじゃし、便利なスキルもいくつか覚えられたではないか。」
「……便利なのは地下1階限定。」
いくら育てても次の階では大して役に立たないのが、このダンジョンである。進め方としては、レベル上げせずにどんどん下へ行った方が効率が良いだろう。
「まぁ私たちは攻略を焦る理由もないしね。まったりやりますか。」
「何を言っておる。やるからには最前線入りを目指すのじゃ!」
…それならさっさと誰かと組んで地下2階に進もうよ。