第5話 旅立ち
「お父さん、お母さん。私、旅に出ようと思う。」
家族で晩御飯を食べた後、私は話を切り出した。この場には両親と、豊作の翌年生まれた弟がいる。
両親は黙ったままだ。弟は突然のことで口がぽかんと開いたままだったが、しばらくして声を出そうとした。だが、長い沈黙が続いた後で重苦しい空気が流れていたせいか、何か言いたそうにしながらも口を閉じた。
長い沈黙が続く。
そして、ずっと何かを考えるようにしていた父親が口を開いた。
「豊作の年にいろいろと聞いてきた頃から、お前は変わったな。俺はお前から何かに向かって進む意志のようなものを感じていた。主様の息子殿とも村の外のことについて話していたそうだしな。お前はいつかこの村を離れるのだろうと思っていた。…旅立つ前に打ち明けてくれてありがとう。俺はお前が知らぬ間に村を離れるんじゃないかと思っていた。…出来るなら、お前が旅立つ時には見送らせてくれ。」
「…ありがとう、お父さん。私も理解してもらえないんじゃないかと思ってた。本当にありがとう。私は外の世界を見て、いろんなことをしてみたい。…その道中でもしかしたら命を落とすかもしれない。それでも私は、外の世界へ行きたいの。」
「お姉ちゃん…。」
「シル、あなたの好きなように生きなさい。お母さんもあなたの旅立ちを見送らせて頂戴。」
「お母さん…。ありがとう。…旅立つ前に村長にも話をしておこうと思うの。その後に旅立つよ。」
私は両親の言葉に視界を滲ませた。その後は軽く言葉を交わした程度で寝床に入った。
…最初から理解してもらえて良かった。村長は話すだけ話して、反対されても旅立つつもりだ。弟は不満そうだったが、まぁ関係ないし。弟よ、あなたはあなたの道を進みなさい。…さて寝よう。
翌日、村長に旅立つと伝えたところ、渋々了承してくれた。私がどう足掻いても旅立つつもりだと気付いていたらしい。主様への忠誠がどうとか、村の秩序がとか、私の身の危険についてとか、愚痴愚痴と言われたが、まぁ仕方がないだろう。
そしてその翌日、私は旅立つことにした。森に隠していた魔石は前日に袋へ入れておいた。家の前で家族が見送りのために集まってくれている。
「シル、気をつけてな。」
「シル、気をつけるのよ。」
「…お姉ちゃん、気をつけて。」
「ありがとう。…行くね。」
交わす言葉も少なく、私は家族に見送られて旅立った。
さあ、町へ行こう。