第44話 下準備
ダンジョンRPGゲームの縛りプレイをしていたメヴィをようやく引き剥がすことに成功した私は、メヴィとダンジョン作りについて相談する。
「どんなダンジョン作ろっか?」
「新しく縛りプレイを始めたばかりじゃったのに…。」
「リアルでダンジョン攻略しようよ。」
「うむ、確かに新しいゲームは新鮮でそれはそれで面白いしの。慣れたゲームはその仕様をいかに活用して攻略するのかを考えるのが楽しいのじゃが…縛りプレイはそのゲームの製作者が込めた想いを追い求めることだと思うんじゃ。」
「よし、王国の近くにダンジョンを作ろう。やっぱ大人数参加型のダンジョン攻略の方が楽しいもんね。」
まったく噛み合わない会話で、私たちは王国近辺でダンジョンを作ることにした。
「ふむ。確かに人は多いほうが面白そうじゃな。どうせわらわでは強すぎて無双してしまうからの。縛りプレイと行こうではないか。」
そんなに縛りプレイが気に入ったのだろうか。
私たちは私の居た王国と、その隣の王国のちょうど真ん中くらいの北にダンジョンを作ることにした。この位置なら両方の王国から人が来れるだろう。
メヴィに魔力をもらってダンジョンを作る。地面が押し広げられるように割れていき、大きな穴ができる。そこに魔法の光と反発力で仮想的な地下迷宮を作り出す。地上には悪魔の像が立ち、その後ろに大きな神殿のようなものを立てる。
「随分地味じゃな。」
「最初は試行錯誤しながらのダンジョン作りになるだろうし、ちゃっちくしておこうかなって。」
なんせダンジョン作りは初経験だ。仕様もイチから作れる。
「王国から来た人に長期間篭ってもらうには、街が必要だよねぇ。」
「わらわたちのように魔力だけでは生きられんじゃろうな。」
今回の目的は多くの人とダンジョンで遊ぶことである。そのためには生活の場としての街も必要だろう。
ダンジョン作りのついでに、そこら辺の地面を隆起させ、石造りの家を作り出す。なるべくダンジョンまでの交通の便を良くするために、密集させ、立体的で高層にする。装飾は魔法で仮想的に作る。
…ついでだから水道も通そう。水はダンジョンの穴を掘った時に地下水が出ていたはずだ。位置にある程度目星を付けて、街中に穴を掘り、水を汲み上げる。そして、飲料水として問題ない状態を維持して各蛇口に流す。使い終わった後の水も下水道を用意し、一箇所に集めて処理する。
ここまで来たら家電製品ならぬ家魔製品?も完備しよう。魔法の照明からエアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機などなど。
いやぁ、魔法様様である。もちろん、この底なしの魔力を持つメヴィが居てこそなのだが。
「あ、障壁魔法も忘れずに掛けておかないとね。」
「…あっという間に広大な街が出来上がったのぅ。」
メヴィがしみじみと街を見渡している。
「街の管理者も作り出しておこうかな。」
「おぬしがやるのではないのか?」
「面倒だし、目立つからね。こっそりとプレイヤーに混じりたいわけですよ。」
そんなわけで管理者を魔法で作り出す。まぁアンドロイドみたいなものだ。
目の前に、足から順に光りをこぼしながら体が構築されていく。淡い水色の髪に青い瞳、背は150cmくらい、黒いメイド服に白いエプロンとカチューシャを着けた少女である。髪型はふんわりショートボブにした。
「…メイドというやつかの。」
「かわいいよね、メイド。名前は…アオでいっか。」
「見たまんまじゃぞ?!」
「これからよろしくね、アオ。」
「はい、マスター。よろしくお願いします。」
さて、街の店主なんかも用意したいがあまり人工的に人を作りたくはない。基本はパネル操作で買い物できるようにして、どうしても姿が必要な時は光のふわふわな玉でも表示しよう。
後は食料品だろうか。野菜工場でも作るとして種を用意しなければ。
「アオ、後は任せていいかな?」
「はい。適宜必要なものは揃えます。別途何か作る際には一言掛けてもらえれば、こちらで作成します。」
面倒なので丸投げしておいた。こういうところを他者に簡単に投げれる辺りも、魔法便利だなぁと思う。
「そういえば、友にこんな色のやつがおった気がするのじゃ。今度一緒に遊ぶために呼んでやるかの。」
ほんとに友達がいたのか。
そして数ヶ月が経ち、徐々に街へ人がやってくるようになった。