第43話 廃人
あれからしばらく、私と魔人…メヴィとで、ひたすら同じゲームをやっていた。それはもう何度も日が暮れて昇ってくるくらいに。それでも私はメヴィを倒し続けた。
「…そろそろ別のゲームやらない?」
「…まだじゃ…もう少しなのじゃ…。」
メヴィは何かに取り憑かれたかのように、ボソボソと呟きながらゲームをやり続けている。
「…何回も言ってるけど、私は魔法で思考加速をしてるからね?対等な条件でやったらメヴィの圧勝だよ、きっと。」
「…わらわはこの強さに勝たねばならんのじゃ。思考加速していないおぬしなぞ、おぬしではないわ。」
さらっと私の存在を否定された気がする。思考加速した私も私だが、思考加速していない私も私だ。思考加速をしていると実質的には時が止まっているのと同じことなので、まるで世界に私一人になってしまったようで寂しいのだ。だから普段は普通の思考速度で考えて動いている。
…ちょっとパターンを変えて、わざと負けよう。
私は、それまでのメヴィの攻撃から予測されうる最も確率の高い次の攻撃、ではなく2番目に確率の高い次の攻撃に対するカウンター技を使う。そして、それは最も確率の高かった次の攻撃によって見事に外れ、そのまま決め技を使われて負けた。
「おお!すごいじゃん、メヴィ!」
「…今のカウンター技はわらわの攻撃パターンに対して最適なものではなかったのじゃ。手を抜いたのは分かっておる。さあ続きをやろうではないか。」
そこまで分かってるなら対策しようよ!…思ったよりメヴィの腕が上がりすぎて誤魔化せないようだ。
「あ、そうだ。…よっと。」
「なんじゃ?どこに行くのじゃ?」
「私、あっちで休んでるから。その、私と同じ強さのCPUと頑張って。」
よくよく考えたら別に私が相手しなくても、私と同じように最適パターンで戦ってくれるCPUに任せれば良かった。
「おぬしと同じ強さじゃと…?!おぬしは自身と同じ強さのものを生み出せるのか?」
「うん。むしろ生み出したものの方が強くなると思うけどなぁ、普通は。」
「なんと…。」
メヴィはゲームそっちのけで驚いていた。そんなに不思議なことだろうか。今はこんな体だが、前世やこっちで死ぬまでは結構制約の多い体で、自身で生み出したものの方が優れているなんてよくある話だった。
私はメヴィから少し離れた位置に移動する。後ろから「本当に同じ強さじゃ…。」という声が聞こえてくる。
ここはメヴィの家だが、こうも何もないとつまらない。そこで、メヴィからもらった魔力で地面の岩を動かし加工して、それっぽい城を建ててみた。中に入り、玉座に座る。
「…魔王ってこんな感じで見下ろしてるのかな。」
禍々しい形の椅子から、禍々しい彫刻の石像や模様の部屋を見下ろし、そんな感想を呟く。
それにしても、予想通り、魔法で建築ができた。素材が石限定なのが残念だが、周りに何もないので仕方がない。これならアレも作れるかもしれない。
私は一旦城の外に出て、メヴィの様子を伺う。いきなりこんなものが建って気にならないのだろうか?
しかしながら、メヴィの視線はゲーム画面に固定されたままで、手だけが動いている。ふと、メヴィの体が大きく動く。
「きたーーーー!!ついに、ついに倒したのじゃ!!!」
え、もう?CPUに交代してから、それほど時間は経っていない。あと少しで終わると分かっていたら最後まで付き合ってあげても良かったのに。
「それで、じゃ。人の家に何を勝手に作っておるのじゃ。」
「お城をちょっと、ね?」
勝利の余韻も短く、メヴィがジト目でこちらを見てくる。やっぱりまずかっただろうか。
「まぁよい。それにしても、毎度毎度おぬしは緻密なものを作るのぅ。」
大丈夫だったみたいだ。メヴィのセンス的に魔王の城は好印象なのだろうか?
「思考加速のおかげだね。ね、次はダンジョン作らない?」
「ダンジョンとはなんじゃ?」
私はダンジョンなるものを説明するために、前世で流行ったゲームやラノベを作り出し、メヴィに渡す。メヴィは受け取ったダンジョンRPGゲームに嵌って1週間ぶっ続けでプレイしたり、ダンジョン攻略やダンジョンクリエイトのラノベを1ヶ月繰り返し何度も読み返したりしていた。メヴィに理解してもらおうと渡したものだったが、思った以上に嵌まられてしまい、その間、私は手持ち無沙汰な時間を過ごした。
異世界に来たらダンジョン攻略とかしてみたいと思っていた。前世の知識でチート出来たらなおさら面白そうだし。元々転生したのも、そういったファンタジー世界に憧れてだったからね。魔法や魔物はあったけれど、ダンジョンはないみたいなので、ないなら作っちゃおうと思う。メヴィの魔力を使えば余裕だろう。
どんなダンジョン作ろうかなぁ。