第42話 遊び
王国の外に出た私は、とりあえず魔人と待ち合わせした場所に向かう。その道中で少しでも魔力を補給するために、倒した魔物の魔石から魔力を吸収していく。
それほど進んでないところで、空から何かが降ってきた。
「今まで何をしておったのじゃ?」
例の魔人だ。随分と馴れ馴れしく声を掛けてきたな。意外と気さくな人なのだろうか?
「死ぬ前に私が知っている魔法を残していけと、国の者に言われたのです。今までずっとその作業をしていました。」
「そんなもの無視すればよかろう?」
「今の私ではあの国の者を倒せません。」
さすがに王族とかは私と魔力の量が違いすぎる。まぁ向こうも肉体を持たない私を倒せないだろうが。
「むぅ。まぁよい。さっさと強くなれるように手伝ってやろう。おぬしはどうやったら強くなれるのじゃ?」
「…なら、あなたの魔力を分けてください。それが一番手っ取り早いです。」
それが出来れば、私は更なる防衛策を講じることができる。魔力状態の私を攻撃されてもどうにかなるかもしれない。
「ほぅ。おぬし、そんなことができるのか?」
「ええ、まぁ。魔力を吸わせてもらうので抵抗しないでくださいね?」
私は魔人に手を触れ、魔力を分けてもらう。やはり底の見えない魔力を感じる。とりあえず、必要なだけ魔力を吸収した私は、こっそりと防衛策を講じておく。活かされる機会が無いに越したことはないが。
「それで強くなったのか?」
「魔力を吸った分だけ強くなるわけですから、そちらが求める強さが分かればそれに合わせます。…ただ、あなたが強さを求めるのは楽しさを求めるためですよね?なら、他に楽しいことがあればそっちでもいいんじゃないですか?」
「まぁそうじゃな。だが、長く生きてきたが戦うこと以上に面白いものなどなかったぞ?」
ふむ。やはり求めているのは楽しさ、か。たしかにこの世界は娯楽が少ないように思う。
やはり中毒的な楽しさと言えば、テレビゲームだろう。前世の最期の方はモバイル端末でのゲームが主流だったが、まぁ同じようなものだ。
私はもらった魔力で空中にディスプレイと、手元に操作用のパネルを魔法で作り出す。
「こういう遊びはどうですか?」
この魔人は戦闘狂のようなので、前世でやっていた格ゲーを画面に表示する。
「なんじゃこれは?」
「手元のパネルでこうやって操作すると動くんです。」
私は手元のパネルを操作し、画面の中のキャラクターを動かして攻撃し、必殺技を使う。敵キャラは今は動かさずにやられるがままになっている。
「おお!なかなか派手な攻撃じゃな!」
意外と反応がいい。
今度は敵キャラもCPUとして動くようにし、対戦する。
「相手を決まった規則で自動操作するように切り替えました。これで、まるで相手が居るように対戦することができます。」
私は手元のパネルを軽やかに操作し、対戦相手を圧倒する。何発か相手から攻撃も食らいながら、最後は決め技で締めた。
「ほぅ。…そこを躱すか。今度は守りに徹しているのじゃな。なかなか硬いのぅ。おお!今のタイミングは絶妙じゃったな!あああ。空中で袋叩きになっておるじゃないか。む!…おお!なんじゃあの技は?!…うむ?終わりかの?」
実況お疲れ様でした。随分食い入るように見ていたようだ。
「やってみます?」
私は魔人に操作方法を教える。最初は動かない相手に、次は弱いCPU相手に、そしてCPUの強さを上げていき、最後は私と勝負した。
この魔人、手先が器用なようで、あっという間に操作を覚えて巧みにキャラを操っている。戦闘狂なだけあってか、攻撃の組み合わせやタイミングとかもすぐに会得してしまった。
「なぜじゃ!?なぜおぬしに勝てんのじゃ!」
だが、私は勝ち続けている。
「技の相性や特性を理解し尽くし、あらゆるパターンから最適解を求めなければならないのです。その辺りがまだまだ未熟ですね。」
前世の私はそこまで極めていなかったのだが、今の私ならここまで極めることが可能なのだ。決して魔人が弱いわけではない。むしろ前世ではチャンピオンになれたんじゃないだろうか。
大人気なく、私は勝ち続けた。そして魔人はそれでも諦めずに挑み続けてきた。
日が暮れ、再び昇り出した頃、私はついに負けた。正確には負けてあげた、なのだが。魔人のひた向きに挑む姿勢に、私は罪悪感で耐えきれなくなってしまったのだ。
「やった…やったぞ!ついに勝ったのじゃ!」
「…負けました。そういえば睡眠とか必要ないんですか?」
「うむ?まぁ必要はないが、寝てることが多いのぅ。暇じゃったからな。」
「そうなんですか。とりあえず、あなたの家に行きませんか?遠目にこう見られてると落ち着かないので…。」
私たちの周りには魔物は寄ってこない。恐らく魔人がいるからだろう。だが、この辺りは周囲に草木も山もない。つまり、魔物が遠くからこっちをずっと見ているのだ。
「ん?ああ、あやつらか。倒してもすぐに湧いてくるしの。よかろう。付いてこい。」
魔人はそう言うと、北の方角に向かって飛んでいく。私もその後ろを飛んで付いて行く。空馬の魔道具よりよっぽど楽だと思う。
しばらく飛んでいくと切り立った崖の上に平らに均された広い空間があった。魔人がそこに降り立ち、私もそれに従って降り立つ。岩肌がむき出しになっており、生活用品は一切見当たらない。なんとなく想像していたが、ほんとに何もなかった。
「ここがあなたの家ですか。」
「家というか、縄張りじゃな。ここには魔物も寄ってこん。」
縄張り、ねぇ。原始人みたいだな。
「わらわはメゾヴィーナじゃ。友からはメヴィと呼ばれておる。おぬしもそう呼んでくれ。それと、堅苦しい口調も必要ないぞ。おぬしはわらわの友じゃからな!」
「あ、ハイ。」
いきなり友達認定された私は、とりあえず自己紹介をしておいた。
その後、すぐにまたあの遊びをやりたいと言われたので、めちゃくちゃあのゲームをプレイした。今度こそ一度も勝たせてあげない。
私は格ゲーが苦手であまりやったことがありません。格ゲーのポイントが違うかもしれませんが、ご了承くださいませ…。