第41話 王国への報告
王国内に戻り、予定よりも早く遠征から帰還した私たちの部隊は今、門の前で待機中である。
戻ってきてからというもの、私はひたすら事情聴取を受けていた。正直にすべてを話すわけにもいかず、今回もまた適当に誤魔化すことにした。
内容はこうである。
私は今までになかった新しい魔法をいくつも開発しており、魔人はその魔法を何らかの方法で感知し、興味を持って接触を図ってきた。
魔人は戦闘狂のようで、その新しい魔法を使って戦い、私を楽しませろと言ってきた。しかし、根本的に魔力などが不足していた私は、魔人からまずは鍛えろと言われた。そこで、1週間後に魔人に出会った場所で待ち合わせることとなり、その時までに成長が見られなければ殺すと言われた。
なので、私は1週間後までに自らを鍛え、約束の地へと行かなければならない。そのためにも私は今すぐにでも王国の外へ出て、自らを鍛えたいのだ。
そう説明して外に出たいと言ったのだが、鍛えるなら中の方がいいだろうとか、そもそも新しい魔法とは何なのかとか、いろいろと突っ込まれてしまった。ついでに上に報告をして判断を仰ぐ必要があるので、それまで勝手な行動はさせられないと言われた。
やはり、しばらく私は拘束されてしまうようだ。
その後もあれやこれやと聞かれていると、次々に遠征に行っていた貴族たちが帰ってくる。そしてその中に居た地位の高い人が、再び事情を聞いてくる。そんなことをしていると国王も帰ってきたようで、一旦王都へ帰還し、そこで検討することになったようだ。私は王都でも事情聴取されるらしい。
延々と事情を聞かれ、同じことを答えた私は夜遅くにようやく休ませてもらえることになった。ただし、見張り付きである。それでも精神的に疲労困憊だった私は横になった。寝る必要は無いのだが、気分の問題だ。
翌日もまた同じような事情聴取が行われた。私以外にも、ヴィアナ様やデミアルト様、ルアノ様にミリーナさん、シャム、マローネと事情聴取されているようで、皆にも苦労を掛けさせてしまっているようだ。
私が事情聴取を受け続けていると、国王からの呼び出しが掛かった。私は案内人に王城へ連れていかれ、謁見の間で国王と面会する。一応それっぽく頭を垂れておいた。
「本件に関しての事情は把握している。魔人に出会ったというのは真実なのだな?」
「私は魔人というものを初めて見ましたので、確信を持っているわけではありません。しかしながら、魔人の特徴を聞く限りではまず間違いないと思います。」
「ふむ。ならば魔人の言うとおりに動くが良い。ただし、その前に魔人が興味を持ったという新しい魔法とやらを残してから行け。」
「お言葉ですが、私が新しく開発した魔法は複雑で、とても1週間ではすべて残すことはできません。また、新しい魔法は魔人が興味を持ったものです。それを残したとなれば魔人がこの国へ攻めてくるかもしれません。」
「…ならば一部でも良い。残せるだけ残していけ。魔人はこの国で起きたことを知る術を持たない。そこは心配しなくても良い。」
「分かりました。1週間以内に残せるものだけ残して行きます。」
国王との面会が終わると、与えられた部屋で私は新しく開発した魔法を資料にまとめる。
見張りに何故この国の中のことを魔人は知る術がないのかと聞くと、この国全体を覆っている障壁魔法は非常に強力で魔人による探知魔法の干渉も受け付けないほどらしい。魔人に直接攻撃されたらどうなるかは分からないらしいが。
…とりあえず、資料に残すのは冷却魔法と普通の魔石に魔力を充填する魔法辺りでいいかな。特に冷却魔法は障壁魔法を無視するから、その辺りの仕組みも詳細に記せば納得してくれるだろう。後は適当に差し障りのない魔法を効果だけ書いて、それっぽく残しておこう。
私は5日程度掛けて、ゆっくりと資料を作成し、王国を出発することにした。渡した資料を見た貴族は泡を食ったように驚き、お試し用に私が用意した陣に魔力を流して問題がないことを確認した。その後、すぐさま資料の解析に入ったようだ。
私は王都を離れる時に、ミリーナさん、シャム、マローネの3人と短い別れの時間を設けてもらった。
ミリーナさんは泣き崩れて私に抱き付いている。
シャムとマローネは努めて明るく振る舞っている様子で、言葉を掛けてきた。
「シルちゃんのことだから大丈夫だとは思うけどさ。気を付けていってきてね。ちゃんと帰ってきてよ?」
「シル、あまり遅くなるんじゃないわよ。…気を付けて行ってらっしゃい。」
「うん。ありがとう。」
あまり遅くなると魔人との約束の時間に間に合わなくなるかもしれないので、私は一言二言交わしてすぐに出発した。
そうして王国の外へ出た私は、全然鍛える時間が無かったなとふと気づいた。心の中でやば、どうしようとため息を付いた。
第6章終わりです。今日中に設定資料と次章1話分を上げます。