第39話 春の祝賀会
4人で従者になってから約2ヶ月が経った。ルアノ様に付いて交代で学院へ行っている3人は大変そうだが、館に残った私はまったりとした生活を送っている。館の家事もだいぶ手慣れてきた。
そんなある日、春の祝賀会が王都であるからと、ヴィアナ様の護衛として付いていくことになった。
初めてのヴィアナ様の護衛である。
ヴィアナ様の護衛には館に居た私とシャムの2人が担当する。
王都の会場へ着くと、そこにはお城が立っていた。もちろん西洋風の。会場自体は城の前に立っている大きな建物の中らしい。
建物の中はとても広く、天井は20mはあろうかという高さである。天井には大きなシャンデリアがいくつも吊り下がっている。会場にはいくつも丸いテーブルが配置され、たくさんの料理が乗せられていた。
周りを見渡すと人だらけである。貴族だけでも1万人どころではないと思う。
そんな中で、ヴィアナ様もこの前のデミアルト様の護衛の時のように、会場に入るまでにも多くの人と挨拶をし、会場に入ってからも多くの人と挨拶を交わしていた。
話を後ろから聞いていると、やはり四級貴族となったことを遠回しに嫌味たらしく言われていることが多い。それでもしつこく言ってくることはなく、その後に私たち護衛について話題を振ってくることが多い。以前デミアルト様の護衛として茶会に行った時に好印象だった私を連れていることで、ヴィアナ様の株も少し上がっているようだ。デミアルト様はここまで読んで私を茶会に連れて行ったのだろうか。
ヴィアナ様が絶えず誰かと挨拶を交わしていると、会場が急に静かになっていった。皆が向いている方向を見ると、後ろからでも見えるように少し高い位置に人が立っていた。
その人が何やら話し出すと、皆がそれに耳を傾け、静粛にしている。話の内容から察するに、国王かその周辺の人と思われる。
国王らしき人の話が終わると、またざわざわと騒がしくなり、ヴィアナ様も挨拶を再開した。
その中の一人が先程の国王らしき人の話にあった大討伐祭に関する話題をヴィアナ様に振ってきた。どうもヴィアナ様もその大討伐祭に参加しなければならないらしい。それを聞いたヴィアナ様は声に出してそのことに驚いていた。どうやらヴィアナ様は昨年まで大討伐祭への参加は免除されていたらしく、今年は夫が亡くなったことで貴族としての責務を一家の誰かがやらなければならないということで、参加必須となったらしい。
その後もヴィアナ様は次から次へと来る人たちと挨拶を交わしていたが、大討伐祭の参加が不安なようでずっとオロオロした感じだった。
ようやく春の祝賀会が終わり、館へ帰ってくると、ヴィアナ様は頭を抱えて悩み出してしまった。何と声を掛けてよいか分からずに立っていると、下がって良いと言われ、シャムと2人で私の部屋へと戻った。
「シル。どうしよっか、あれ。やっぱりランク4の魔法を1回しか使えない状態であの遠征は無理だよねぇ…。今度は学生じゃないし守ってもらえないもんね。」
「うむぅ…こういう時はデミアルト様に相談しよう。」
「あ、それいいね!」
早速私たちはこの街にあるデミアルト様の別宅へ向かった。どうやらデミアルト様は王国北門前の貴族街にある別宅へ居るらしい。
私たちは空馬に乗って王国北門前の貴族街に移動した。今回はルアノ様が居ないので、物凄い速度を出して移動し、1時間半程度で到着した。
王国北門前のデミアルト様の別宅を訪問すると、急な訪問にも関わらず会ってくれた。私たちはヴィアナ様が今度の大討伐祭の件で悩み込んでしまっていることを話す。
「なんだ、そのことか。君たちが護衛で付いていけば解決だ。」
「いやいやいや?!私たちランク3の魔法しか使えないんですけど!」
「大丈夫だ。君たちの実力なら多少の格上の魔物でも倒せるだろう。いざという時のためにいくつかランク4の魔道具と魔石を持っていけば十分だ。ヴィアナは今回三級貴族扱いで参加することになる。ランク4の魔法までしか使えない者が戦える場所での討伐になるだろう。」
「そういうことなら…。」
「心配するな。当日は私もヴィアナと同じ部隊に入っている。まぁ現地では別行動にはなるがな。」
デミアルト様の解決策でどうにかなりそうだと思った私たちは、ヴィアナ様のところへ戻り、聞いてきた話を伝えた。
その話を聞いて、ようやくどうにかなりそうだと分かり、ヴィアナ様は脱力して机に突っ伏していた。その様子を見た私たちは、これで大丈夫そうだと部屋を後にした。