第37話 貴族の茶会
貴族の生活に完全に巻き込まれてしまった私は、もう気を張らずに生活することにした。もはや面倒事になってしまった後だから。
従者となって数日経った頃、ルアノ様が王都の学院へ通うことになった。王都と言っても、この貴族街寄りの王都の端にある学院らしい。ルアノ様はその学院の寮へ入って、学院へ通うらしい。
王都は完全に魔法が使えないようになっているらしく、護衛には念のため私を除くことになった。私の体は魔法で構築してるからね。
結果、ルアノ様の護衛は私を除く3人で交代しながら行うことにした。最初はシャムとマローネが行くことになった。私とミリーナさんはヴィアナ様の護衛である。
シャムたちがルアノ様の護衛で館を離れると、私はデミアルト様に呼び出された。この貴族街にあるデミアルト様の館を訪ねる。
「君はどういった魔道具を作ることができる?」
藪から棒に聞いてきた。以前、ルアノ様にあげた魔道具が原因で私が魔道具を作っていることを暴露してしまった。今回はどうやらその流れで何か魔道具を作れということなのだろう。
「基本となる陣の理論と材料があれば大抵のものは作れます。」
「やはり自身で見出したものは作ってはくれないか…。」
「常識的に考えてそういうものでしょうに。」
「まぁそうだな。ならば仕方がない。何か新しい魔道具が必要になったら頼むとしよう。
ところで、近々王都で茶会があってな。護衛をやってほしい。」
「どう考えても私のような少女に護衛が務まるとは思えませんが。」
「気にするな。この前の遠征で君は少し話題になっている。だから少しばかり他の貴族に自慢してやろうと思っているのだ。」
「…面倒なお話ですね。」
「あぁそうだな。こうして何かしらの主張をしていかないと発言力がなくなっていってしまう。本当に、面倒な話だ。」
デミアルト様にとっても面倒な話のようだ。当然、私にとっても面倒な話だ。それにしても魔道具の話はおまけだったか…。やはりあれもこれもと言われるのは目立ち過ぎてしまっている証拠なのだろう。
数日後、私はデミアルト様の護衛の1人として王都に連れて行かれた。ちなみに王都で魔法が使えない件は対策済みである。あれはノイズによるジャミングみたいなものなので、ノイズキャンセルするなり外部からのノイズを防ぐなりすれば何とかなる。ルアノ様の護衛に行かなかったのは、本当に念のため、である。
茶会の会場は豪勢な館で、庭もとてつもなく広く、色とりどりの花が綺麗に咲いていた。恐らく芸術性のある美しいものなのだろうが、すごいなぁとしか思えなかった。
デミアルト様は、茶会の会場に入るまでに多くの貴族と挨拶をしていた。時々、私を紹介することがあり、以前にルアノ様の持っていたマナーの教科書を読んだ時の知識で頑張って挨拶してみた。予想外に綺麗な所作だったのか、皆驚いたり感心したりしていた。デミアルト様もご満悦のようである。
ようやく茶会の席にデミアルト様が座る。私は護衛なので、後ろに立ってじっとしているだけだ。
昨今の近況を報告し合ったり、噂の真偽を確認したりといったことを話している。噂の話をし始めた時には、あー私の話も来そうだなと思った。
予想通り、私が遠征で魔物相手に無双したことが話題にあがった。デミアルト様がその話を誇張し、周りを煽っていく。そして、私が他のがっしりした男の護衛と決闘することになった。
魔法が全く使えないということになっているので、剣は木製の軽い物が用意された。全くもって準備周到である。
デミアルト様には、さすがに体格差がありすぎて倒せないだろうから耐え切るだけでいいと言われた。さすがに魔法が使えないと無理だと思うのだが。
皆が注目する中、会場の一角に設けられたスペースで私は男の護衛と戦い始めた。
相手はどうやら結構な腕前のようで、魔法なしでは全く対応できない。なので、バレない程度に魔法でほんの少し加速したり、剣の衝撃をほんの少し吸収したりして、ギリギリで躱し続けた。
相手は私が全ての攻撃を危なっかしくも避け続けていることに驚いていた。それでも、隙を見せることなく攻撃し続けていたが、1分ほど経ったところで決闘の終わりが告げられた。
見物していた貴族やその護衛は私の動きに驚愕し、口をぽかんと開けているものが多かった。
デミアルト様がここぞとばかりに私を持ち上げるように話し、周りの貴族は優秀な従者をお持ちだと賞賛の声を上げていた。
その後も私の話題が度々出ていた。これほど優秀ならば是非貴族に、と話題に上がった時はやめてと言いたくなった。
茶会が終わり、ヴィアナ様の館に帰ると、私は盛大なため息をついた。
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