第36話 契約更新
もうすぐ契約の1ヶ月が経過する。その前に、次の契約をどうするかの交渉の場が設けられた。
「君たちには是非、正式に従者となってもらいたい。」
交渉の場には何故かデミアルト様が居り、私たちに従者となるように言ってきた。
「嫌です、と答えたらどうなるのでしょうか。」
「私もそこまで理不尽なことを要求するつもりはない。従者になれない理由があるのなら無理にとは言うまい。」
なりたくないという理由は聞き入れてもらえないのだろうか。
「領都で共に暮らしている者が居るのです。私たちが従者となれば、彼女を残して来なければなりません。」
「ふむ。ならばその女性も従者にしよう。それならば問題ないだろう?」
予想外の返答が返ってきた。ミリーナさんはどう思うのだろう…。
「…一度領都へ戻って、相談させてもらっても構いませんか。」
「ああ。元々一度領都へは帰らせる契約だと聞いているからな。ゆっくり休んでくるといい。」
契約満了後、デミアルト様の許可をもらい領都へ帰ってきた。護衛の報酬には魔力を貯める魔石と陣を登録できる魔石をもらった。
魔力を貯める魔石は、魔力を流すことで魔石に魔力を貯めることができ、陣に接続すれば普通の魔石同様に動力源として使うことが出来る。仕組みとしては私がシャムとマローネから魔力変換で吸収させてもらうのと同じで、流した魔力が魔石の魔力に変換されているようだ。
陣を登録できる魔石は、陣に接続しても魔法が発動せず、代わりにその陣が魔石に登録される。陣を登録した魔石に魔力を流すと、登録した陣が発動するらしい。まるで形状記憶合金のようだなと思った。登録内容の書き換えは何度でも可能で、登録できる陣の量は魔石に内包される魔力量に依存するらしい。
久しぶりに家へ帰った私たちはミリーナさんの帰りを待った。夜、ミリーナさんが帰ってくると、歓喜して抱き付いてきた。私たちも久しぶりの再会に喜び、ミリーナさんに抱き付いた。
「ほんっっっとーに寂しかったよ、シルちゃん、シャムちゃん、マローネちゃん。」
「私たちも、息が詰まる生活で大変でした。」
その後、お互いの事を報告し合い、最後に従者の件を話す。
「それでミリーナさんも従者にって話になっちゃいまして…。」
「ええっ?!わ、私も貴族になっちゃうのかー…。」
平民の中では従者も貴族である。
「やっぱり嫌ですよね。」
「いやいや!?貴族になれるなんて兵士の私には大出世だよ!貴族なんて兵士の最高職みたいなものだからね!」
「え。そ、そうなんですか。ミリーナさんがそう言うなら一緒に従者になりましょうか。」
意外にもミリーナさんには憧れの存在だったようだ。確かに貴族と言っても、前世のような贅を尽くした生活を送っている人というよりも、魔物から国を守るための騎士といった感じだ。そう考えると、兵士であるミリーナさんには出世みたいなものだろう。
ミリーナさんの同意が取れてしまった私たち3人は、翌日返事をするためにヴィアナ様の館に向かった。ヴィアナ様に4人で従者になることを伝えると、良かったわと言ってデミアルト様にも伝えて頂戴と言われた。既に従者扱いのようだ。
デミアルト様はこの貴族街の別宅で待機していたようで、4人で従者になることを伝えると、ミリーナさんの職場にはこちらから手を回しておくと言われた。本当に出世のような形になってしまうようだ。
家を引き払ったりするために、数日領都へ戻らせてもらった後、ミリーナさんを連れて再びヴィアナ様の館にやってきた。デミアルト様も同席しており、ミリーナさんにランク3の魔法を覚えさせ、魔力登録の手続きをした。これまた若くて綺麗な女性だなと言っていた。
仕事は前回同様、ヴィアナ様とルアノ様の護衛で、普段は館の家事をすることになった。ミリーナさんはそのことに特に不満はないらしく、嬉しそうに仕事をこなしていた。まぁ、好きは人それぞれなのだろう…。
こうして、領都から貴族街へ生活の拠点を移した私たちは、これから従者として働くことになった。