第34話 遠征授業
門を出ると、そこは草木の生えていない荒地だった。少し離れたところには、どの方向にも大量の魔物が見える。魔力が濃いせいか、まとわりつくような不快な感じがする。
私たちは周りに遅れないように駆け足で移動する。すると、すぐに前方の魔物の群れと接触する。
遠征部隊の貴族が器用に弱い魔物だけを残して切り抜けていく。そして残った弱い魔物を学院生たちが倒していく。さすがに足が少し止まりながらのため、全体的に少し速度を落として移動をしている。
ルアノ様も魔物を倒しているが、周りの学院生と比べるとペースが遅い。倒しきれずに移動を優先する場面も多い。
少しすると、左右と後ろからも足の速い魔物が寄ってきた。中に入ってきた弱い魔物を学院生たちが倒していくが、ルアノ様は半分以上の魔物を倒しきれず、私たちが代わりに倒した。
しばらく戦闘を繰り返したところで、私はルアノ様に声を掛けた。
「ルアノ様、そろそろ障壁魔法を掛け直したほうがいいかと思います。」
「…確かに、今回は随分と攻撃を受けた気がするわ。」
私はルアノ様が受けた攻撃の総量から判断し、助言する。ルアノ様も実感があったようで、すぐに掛け直した。
1時間ちょっとが経過すると、ルアノ様が段々と周りから遅れるようになってきた。だいぶ息が上がっており、疲労が見える。見かねた教師が私たちにルアノ様を抱えて運ぶように指示を出す。
「ルアノ様、失礼します。」
「…くっ。」
シャムが一言伝えると、ルアノ様は悔しそうに顔を歪ませながらも、大人しくシャムに抱きかかえられた。シャムはルアノ様をお姫様抱っこで運んでいる。
ルアノ様が脱落し、シャムの手が塞がったので、私が向かってくる魔物を一撃で葬り去っていく。その様子にルアノ様が最初は驚きながらも、すぐに悔しそうな表情をしていた。
さらに1時間、門を出てからだと約2時間が経ったところで、岩山の洞窟にたどり着いた。中に入っていくと奥には貴族街の大きな館がすっぽり収まりそうなほどの空間が広がっていた。
ところどころに魔石が生えており、遠征部隊のおよそ半分の貴族たちがそれらを採取する。残り半分の貴族が学院生たちを守るために、洞窟内でも襲ってくる魔物を倒す。その間に学院生たちは休憩をしている。護衛はもしも魔物が襲ってきた時のために警戒している。
30分ほどで採取が終わり、帰路に着いた。休憩中にトラブルは特に無かった。
帰りも行きと同じように、ルアノ様を護衛したり抱きかかえたりしながら進んだ。
門をくぐり、王国内に入るとようやく一息付くことができた。ルアノ様がまた学院生たちの集会へと向かう。その姿を見送ると、また周りがこちらを見てコソコソ話している。私の人の領域を超えた聴力で再び聞き取ると、どうやら私たちが予想以上に強くて驚いているようだった。特に私は、シャムがルアノ様を抱きかかえている間、無双していたのでより印象的だったらしい。
そんな話に聞き入っていると、ふと声を掛けられた。
「随分と大活躍だったそうじゃないか。私も遠目に少しだけ見ていたが、あそこまで見事に一撃で仕留めていくとはな。素晴らしかったぞ。」
デミアルト様が私たちの奮闘を褒めて下さった。
「もう一晩、私の家に泊まっていってはどうだ?初めての護衛らしい仕事で疲れているだろう。」
「お気遣いはありがたいのですが、ヴィアナ様には本日帰る予定だと伝えていますのでこのまま帰ります。」
「そのことならこちらで伝令を出すから気にしなくてよい。ルアノが戻ったら再び聞いてみるとしよう。」
やはり電話のような連絡手段はないようだ。誰かがあの距離を伝令に飛ばされるのか…。
ルアノ様が戻ってくると再び、もう一泊しないかと聞かれ、ルアノ様は承諾した。
私たちがデミアルト様の館に到着し、昼食をご馳走になると、ルアノ様はすぐに与えられた自室で眠りについてしまった。食事をしているときからウトウトしていたので、相当疲れていたのだろう。
ルアノ様の寝顔をシャムと一緒ににやにや見ていると、デミアルト様からの呼び出しがあった。
呼び出しに応じて部屋を移動すると、デミアルト様が今日の戦いぶりについて話を聞いてきた。簡単に今日のこと話すと、デミアルト様がある提案をしてきた。
「明日、帰る時に一度決闘をしてみないか?君たちの実力を近くでじっくりと見てみたい。」
こちらは見られたくないのだが、断る理由もないので了承する。
私たちは再びルアノ様の部屋に戻ると、少し目立ち過ぎたかなぁと2人でため息を付いた。
でもまぁ、ルアノ様の寝顔に癒やされてるとまぁいいかと思ってしまう。