第28話 帰宅
私たちはしばらくの間、抱きしめ合った。
「もうっ、びっくりしたよシルちゃん。…ぐすっ。」
「本当に私たちを何度泣かせれば気が済むのよ。…ずびっ。」
「ごめんごめん。…よっと。」
身を離して声を掛けてきた2人はまだ完全には泣き止んでいないようだ。一方私は、その場から横に歩いてみる。
「…どうしたの、シルちゃん?」
「いや、動けるかなって。」
「っ!動けるようになったの?!」
「やった…やったね!シルちゃん!」
どうやら動けるようになったらしい。マローネが驚き、シャムが自分のことのように喜んでくれている。
…別に体を作ったから動けるようになったわけではない。魔力を補充してからあらかじめ考えていた方法を試しただけだ。原理としては魔物と同じで、魔力の核になるようなものを出力した魔力で作り、核に依存するようにしたのだ。ただ魔力の回復は起きていないようだ。そこは追々考えよう。
動けるようになった私は、改めて2人にお礼を言った。
「ありがとう。シャム、マローネ。」
「どういたしまして、シルちゃん。」
「まさかここまで出来るなんて思わなかったわ、シル。」
そして久しぶりの我が家へと帰った。途中領都へ入るのに入場料だけでなく監視人を付けられそうになり、一旦出直してこっそり姿を消して入った。
夜になりミリーナさんが帰ってくると、これまた2人と同じく泣いて抱き付いてきた。角や肌の色が違っても分かるらしい。
それから私はまず市民権を取るために、監視人付きで冒険者業務をこなした。背の高さとかが鬼人だった時と同じなので、シャムたちとの関係を怪しまれないように1人でしばらく活動した。
討伐依頼も採取依頼もそつなくこなした私は1ヶ月で冒険者カードをもらい、それを担保に市民権を購入した。それまでに掛かったお金は、もちろんシャムたちが稼いだものだ。この1ヶ月で稼いだお金では全く足りない。もはやシャムたちには頭が上がらないね。
ちなみに名前はシルヴィアにしておいた。さすがに元のままはまずいと思ったからだ。
どうにか市民権を得て、再びシャムたちと生活し始めた私は、自分の墓参りに行ってみた。
領都には墓地がないらしく、隣町に領都の民向けの墓地があるらしい。
墓地は広大で、端が見渡せないほどだった。その中にぽつんと佇む自分の墓を見て、何とも言えないむず痒い気持ちになった。一緒に訪れた2人も、隣で普通に立っている私を見て何とも言えないといった顔をしていた。
そして、あの事件から1年が経った日、領主から事件の収束が発表された。今更だが、邪教徒の詳細が結局分からずじまいだったようで、約半年間様子を見て何事もなかったことでもって事件の収束としたようだ。
これでミリーナさんも働き詰めの状態から解放されるだろう。
第4章終わりです。
いつものように今日中に設定資料をあげたいと思います。