第23話 領都の採取依頼
1週間後、シャムの両親は無事、他の町に移ることができた。あの後に行ったマローネの実家も、領都での経営は厳しいようでシャムの両親と一緒に他の町へ移っていった。
領都での生活の準備やシャムたちの両親のゴタゴタが落ち着き、私たちは領都に来てから初めて、冒険者ギルドを訪れた。
「せっかく実家の近くで活動できて嬉しかったのになぁ…。」
「仕方ないでしょ。元々どちらも潰れかけていたんだから。私たちが冒険者になったのだってすぐに独り立ちするためだったじゃない。」
昔からうまく回っていなかったらしい。2人とも暗い顔になっている。
「まぁ一段落着いたんだしさ、なるようになるよ。とりあえず何か依頼でも受けよ?」
私たちは気持ちを切り替えて、何かいい依頼を探す。
以前、活動していたドラリアの町ではほとんど依頼が無かったが、領都ではたくさんの依頼がある。中には金貨単位で報酬がもらえる依頼もあった。
「やっぱり討伐依頼がいいよねー。今の私たちなら余裕だろうしさ!」
「そうね。競争率が激しいから達成出来ない時は全然達成出来ないけれど、長い目で見たら得ね。」
「でも採取依頼もなかなかいい報酬がもらえるね。今は魔力探知を使って探すこともできるし、こっちも捨てがたいんじゃないかな?」
魔力探知というのは、自身の周囲に魔力のセンサを張り巡らせて特定の魔力を探し出すことだ。薬草には微量の魔力が流れているので、事前に固有値が分かれば探知が可能なのだ。ただし、魔力を自身の身体から遠くに飛ばすことが出来ないので、探知魔法の範囲はせいぜい周囲1m程度である。
いろいろな依頼を見ながら、最終的に比較的近場の採取依頼を選んだ。初日ということでまずは簡単な依頼を受けようということになったからだ。
早速領都の外に出て、対象の生息域に向かう。
「お、あったあった。こういう見つけにくいやつは探知魔法が便利だねぇ。」
「採取に特化させた探知魔法の魔道具なんて無かったものね。」
なかなか役に立っているようだ。今までに無かった見つけにくいタイプの採取依頼が領都にはいくつかあるようで、いい稼ぎになりそうである。
「これなら安定して稼げそうだね。」
「うんうん、シルちゃん様様だね!」
「さすがシルね。」
さっきまでのギルドでの暗い表情はなくなって、いつもの元気が出てきたようだ。
「よーし、それじゃあこの調子でどんどん…」
シャムが元気よく話していると、突然、風切り音が聞こえた。
3人が音のした方向を向くと、シャムが大きめのナイフで斬りつけられていた。斬りつけてきた人物は、色褪せた白の無地のマントを羽織り、マントに付いた深めのフードを被ってさらに仮面を付けて顔を隠していた。
「っ?!」
仮面の人物はシャムにナイフが通らなかったことに驚いたようで、一瞬動きを止める。
「やばいっ!シルちゃん!」
シャムが叫び、すぐさま私に手を伸ばしてくる。
次の瞬間、仮面の人物から視界を塞ぐほどの炎が放たれた。
私の障壁魔法は耐えることが出来ずに消滅し、体が熱に焼かれる。
すぐにシャムが障壁魔法を掛けてくれたが、その時には既に私の体は全身焼けただれ、右腕の先は骨がむき出しになっていた。
私の意識は薄れ、消えていった。