第21話 トーン領都
シャムとマローネの2人が家に住むようになってから約半年が経った。
ミリーナさんがついに昇級し、領都の治安維持部隊であるトーン領中央兵団に所属することになった。それに伴い、私たちはミリーナさんにくっついて領都へと移った。
私たちの居た町ドラリアとは比べるもなく、トーン領都は見上げんばかりの石造りの壁に覆われ、鉄の大きな門が開け放たれている。ミリーナさん以外は入場料の金貨1枚を支払う。銀貨1枚だったドラリアの100倍の金額である。
領都へ足を踏み入れると、シャムとマローネの2人が懐かしんでいた。
「久しぶりだなー!」
「1年振りくらいかしら?」
2人は領都出身で、今から約2年半前に冒険者になったと聞いている。
「あれ?2人が冒険者になったのって2年以上前じゃなかったっけ?」
「ん?あぁ、1年前くらいに一度両親に会いに行ったことがあってさ。そろそろまた会いに行こうと思ってたんだよね。」
「まさかこんなに早く領都を拠点にできるようになるなんて思わなかったわ。」
「ふふ、これも私のおかげだね。」
「そうですね。ミリーナさん、ありがとうございます。」
「お姉ちゃんありがとう!」
「ミリーナさん、ありがとうございます。この巡り合わせをくれたシルにも感謝かしら?」
「そうだね。シルちゃんもありがとう!」
早速、私たちの新しい家に向かって歩き始めた。町の中央から十字に伸びている大通りを歩いていると、たくさんの人で溢れ返っていた。しばらく進み、少し脇道へ入っていったところに新しい家があった。
「おおー!」
「…これだけ大通りに近いと高そうだわ。」
「お隣との隙間がほとんどない…。」
「あはは。2人ともまだ若いんだから、シャムちゃんみたいに普通に新居を喜んでよ…。」
新しい家は5階建ての石造りで、奥に細長い形をしている。床面積は前の家の1.5倍といったところだ。
私たちが家の中に入ろうとすると、ミリーナさんは職場に行かなくちゃいけないから後はよろしくねと、出かけていった。事前に聞かされていた私たちは、ミリーナさんが帰ってくるまでの間に生活が出来るように家を整えることになっている。
私たちはまずは台車に乗せて持ってきた冷蔵庫の魔道具などを家の中に運んだ。その後、家の中を一通り見て回った私たちは必要なもの買いに出かけた。
「あ、この食器可愛いんじゃない?」
「それ、かなり高いじゃない。さすがにその値段で買う気にはなれないわ。」
折角なので向こうで使っていた品はほとんど売ったり捨てたりした。領都まで距離があったし、わざわざ運んでくるのもどうかと思ったのだ。あまり大きな荷車だと入場料の他に追加で支払いが発生してしまうというのもあった。
テキパキと買い揃えていくと、服飾店の前でシャムが止まった。
「ねぇねぇ。新しい服も買わない?あっちに居る間って結局一つも買わなかったし、そろそろ買い替えようよ。」
「そうね。シルもずっと同じ服みたいだけど、新しいの買ったほうがいいわよ。」
私の持っている服は、見かねたミリーナさんが買ってくれた3着だけだ。上に羽織っているマントに至っては村を出るときに着ていたものだ。
「でも、私お金あまり持ってないから…。」
「ミリーナさんから預かってるお金で払えばいいじゃん?服も生活必需品だよ!」
「生活必需品かと言われると既にあるわけだから微妙でしょうけど、ミリーナさんのお金だと気になるなら私たちからのプレゼントっていうのはどうかしら?」
「あ、それいいね!魔法の師匠に弟子から感謝の意を込めて、なんてどうかな?」
「え、ええとでも…。」
「まぁこう言うのも申し訳ないんだけど、その格好だと領都じゃ目立つのよね…。」
「ああ、確かに。シルちゃんの服、白の無地だしね…。ま、シルちゃんが心配するようなお財布の中身じゃないから安心して!」
「うっ…それじゃぁお願いします…。」
服飾店に入ること1時間、着せ替え人形になっていた私は3セットほど買ってもらい、マントも1つ買ってもらった。ゴスロリとかへそ出しのきわどいのとか…。あ、残り1セットは比較的まともな水色のワンピースです。
「あ、ありがとうございます…。」
白を基調にした金色の模様で縁取られたマントで必死に隠しながら、お礼を言った。
「どういたしまして。でも折角買ってあげたのに隠されたら悲しいわ。」
「そうそう。大丈夫!可愛いから!」
「うぅ〜…。」
せめて水色のワンピースだったら良かったのだが、ゴスロリ衣装を強制されてしまった。…自分で言うのも何だが、確かに似合っていると思う。前世の私では痛い子にしか見えなかっただろうが、今の私だと違和感がない。うん、大丈夫、似合ってるから。
私は隠すのを諦め、自己暗示を掛けて残りの買い物に向かった。
「うわ、何この可愛い子!」
家でご飯を作って待っていると、帰ってきたミリーナさんが抱き付いてきた。
「私たちが選んでプレゼントしたんです。やっぱりすごく可愛いですよね!」
「ふふふ、やはり私たちにセンスは間違っていなかったようね。」
その後買ってきた服を何度も着せ替えられて、3人は熱く語り合っていた。