第2話 町の情報
私は家畜から抜け出すためにはどうすればいいか、考えることにした。
最初に考えたのは、主様にこの村にはない多くの情報を教えてもらえないかということだった。
早速親に相談してみた。答えはNO。主様はお忙しい方だし、私たちのような者がそのようなことを聞くなど以ての外、だそうだ。
恐らく他の村人も同じような考えだろうと思われる。皆に迷惑を掛けるつもりはないので、この案は却下だ。
この村を出て、主様が住むような町に行くことも考えた。だが、私たちが家畜としての扱いを受けていることを考えると、無事に済まなさそうな気がする。
旅に出るのも良さそうだが、如何せん、魔物がいるかもしれない。そうでなくても、まだ子供の、それも女の子の一人旅は危険すぎる。
ならば、前世の知識を使ってこの村で何か画期的な物を作るか。そうすれば、主様が興味を持ってくれるかもしれない。しかし、ここには大した物がない。前世と文明レベルが違いすぎて、活かせるところがすぐには思い付かない。とりあえず保留にしておこう。
…結局何日か考えてみたものの、特に何も思い浮かばなかったので、現状維持で過ごすことにした。
そして翌年、前年程ではないが、そこそこの収穫量ではあったため、今年も村人総出で積み込みが行われることになった。
収穫が終わって1週間後、主様がやってきた。しかし今年は主様の横に自分と同じくらいの男の子が立っていた。
「皆さん、お疲れ様です。今年も昨年程ではないですが、豊作に恵まれましたね。昨年の残りでだいぶ備蓄が増えましたから、今年も皆さんに十分な食料が行き渡ることでしょう。
そうそう、今年は私の子供を連れてきました。この子の名前はラルフです。どうしても付いて来たいと言われてしまいましてね。皆さんともお話をしたいと言っていまして、すみませんが何人か話し相手になっていただけますか。積み込みが終わったらすぐに出発しなければなりませんので、その間だけお願いしますね。」
主様が言い終わると、主様の子供がこちらへ来て、近くに居た大人の村人と話し始めた。村長が今話している大人と力の弱い少女たちを話し相手として残るように指示を出し、残りは積み込み作業を行うように指示を出した。
これは村の外の情報を仕入れるチャンスだ。
そう思った私はタイミングを見て、男の子に話しかけた。
「私たちはこの村を出たことがありません。私たちのような者はラルフ様の住まわれる場所にはいないのでしょうか?」
「へぇ、そうなんだ。僕の住んでいる町で鬼人は見たことがないなぁ。でも、冒険者にはいろいろな種族の人たちがいるから、鬼人もいるみたいだよ。」
「そうなんですね。鬼人も冒険者としてなら町に入れるのでしょうか?」
「そうだね。ただ、町の住人以外は入るのに銀貨1枚が必要だし、冒険者カードを持っていない冒険者は監視人が町に居る間ずっと付き添うんだ。監視人には1日に銅貨30枚を支払わないといけないから、実際のところお金持ちしか入れないんだよね。冒険者カードを持ってない冒険者って駆け出しだから、お金そんなに持ってないのにね。」
「確かに、そうですね。私たちもお金は持っていませんし…。私たちでもお金を手にすることって出来るんでしょうか?」
「うーん。お金を手に入れるには、物を売ればいいけど、買い取ってくれる人は町にいるからねぇ。仮に売る場所があったとして、ここの収穫物や支給品は父さんの物だから売ったら窃盗罪になるね。ここら辺に住む動物の毛皮とか薬草なら売れるかな?あ、魔物を倒した後の魔石とかも売れるね。でも、ここ周囲5kmくらいは魔物避けの魔法が掛かってるから魔物いないよね。」
「私は今まで一度も魔物を見たことありません。主様のおかげだったのですね。魔物はとても恐ろしいのでしょうか?」
「いや、この辺の魔物は確か狼や鹿の形をした獣型がほとんどで、駆け出しの冒険者が狩るような魔物ばかりだったと思うよ。まぁそれでも火を吹く魔物がこの辺は多いらしくて、作物に被害が出やすいんだとか。そういった意味でも魔物避けをしているらしいよ。もちろん、君たちを守るためでもあるけどね。」
「火を吹く魔物ですか…。恐ろしいですね。村から遠くに離れないように気を付けます。」
「うんうん。もし見かけたら、急いで逃げたほうがいいよ。幸いこの辺の魔物は群れないから、見つけた魔物から逃げることだけ考えれば問題ないと思うからさ。」
「分かりました。そういえば、この村の周囲が魔物避けされてるので安全だと分かりましたが、ラルフ様たちはここに来る途中で魔物に襲われる危険があったりするのですか?」
「その心配はないよ。ここから町まで街道が通っているのだけど、街道沿いは魔物避けの魔法が掛けられているんだ。だから魔物に襲われる心配はないんだよ。」
「安心しました。私たちの村に来てくださるのに、危険があっては申し訳ないですから。」
「心配してくれてありがとう。まぁ護衛も何人か連れているから、万が一魔物に襲われても大丈夫さ。護衛の目的は盗賊対策だけどね。」
「この辺りは盗賊が居るのですか?」
「最近は聞かないけどね。僕たちみたいな商人は一度に大量の物資を運ぶから狙われやすいんだよ。だから盗賊がいつ襲ってきても大丈夫なように常に警戒しておくのさ。」
「それは恐ろしいですね。私たちの村も襲われる危険が高いのでしょうか?」
「それは低いかな。まずこの村を直接襲っても収穫物は重いから大量に運び出せないからね。それにここの村には100人以上住んでるでしょ?さすがに100人相手では盗賊も戦いにくいだろうからね。けが人や死者を出してまで戦ったところで、背負える程度にしか収穫物を持っていけないんじゃ割に合わないよ。」
「なるほど。でも護衛の方々のほうが私たちよりずっと強いですよね?盗賊にしてみればそちらのほうが狙いにくいのでは?」
「まぁそうだね。盗賊なんて簡単に返り討ちできると思うよ。そのための護衛だしね。だから村も運搬も盗賊に襲われる可能性はすごく低いよ。」
「そうですね。当然のことを聞いてしまってすいません。少し考えれば分かることでした。」
「気にしないで。そんなに畏まらなくてもいいよ。話をしたいと言ったのは僕なんだから。」
「ありがとうございます。」
その後もいくつか情報を仕入れたところで、積み込みが終わった。会話を切り上げると、主様たちはすぐに帰って行ってしまった。
それにしてもなかなか良い情報が得られた。うまくやれば冒険者として町に入れるかもしれない。
その日の会話は途中から全部私が相手をしてしまったため、他の話し相手役を任された人たちは何もすることがなく、私の質問攻めが怒りを買われないかヒヤヒヤしていたらしい。ごめんなさい…。