第18話 印刷機
翌日、シャムとマローネはこちらへ引っ越すための手続きをしに隣町へ戻っていった。何日か隣町へ通う予定らしい。
私はその間、コンピュータ作りに励むことにした。2人も開発に巻き込もう。元々私の魔法に関する情報を求めていたわけだから、どちらにとってもメリットになるだろう。
3日が経ち、ようやく引っ越し作業が終わったらしい。家で晩ご飯を食べながら今後について話し合う。
「さーて引っ越し作業も終わったし、これからどうしよっか?」
「出来るならあの採取依頼は避けたいわね。」
「あー分かる分かる。うちらが冒険者始めた頃ですらあんな依頼やったことないよねー。」
シャムとマローネがあの採取依頼をけなしている。
「まぁ私もあの依頼はやらなくていいと思うよ。たまに出るもう少し報酬の多い依頼だけにして、残りの時間は私の魔道具作りに協力してほしいな。」
「え?シルちゃんって魔道具も作れるの!?」
「どういう手段で知識を得たのか知らないけれど、やっぱり何かあるわね。」
「フッフッフ。ま、その内教えてあげるけどね。」
その後2人の承諾を得て、普段は魔道具作りを手伝ってもらうことにした。何日か置きに夜の魔物狩りに出かけて魔石を集める。日中は魔道具の形を作るために石を加工し、陣を描いて試行錯誤する。
今日は3人、町の外の森で石を加工している。
「何というか…鍛冶屋みたいね。」
「石って意外と簡単に加工できるもんなんだねー。魔法をこんな風に使ったことなかったよ。」
「そもそもこんな魔法知らないでしょ、シャム。」
「マローネのとこの親父さんに教えてあげたら喜ぶんじゃない?」
「…魔法の不正提供は犯罪よ。」
「私は別に構わないけど。」
「お、シルちゃんの許可が出ましたよ、マローネ!」
「そ、そういうことなら、お言葉に甘えて使わせてもらうわ。」
「でも私、町民権持ってないから冒険者以外の仕事しちゃいけないけどね。」
「やっぱりダメじゃない…。」
「うわー。上げて落とすなんてえげつないね、シルちゃん。」
こうやって会話するの久しぶりだな…。でも、マローネが思ったより落ち込んでしまった。そんなに父親に教えてあげたかったんだろうか。
「マローネのお父さんって石を加工する仕事をしているの?」
「石を加工するというか、鍛冶師なのよ。主に剣や槍といった武器を作ってるわ。」
「へー。」
武器を作るのにこの加工魔法が役に立つのだろうか。熱線を出したり、表面を溶かしたり、ヤスリを掛けたりする程度なのだが。武器の製造と言うと鉄を打つイメージだから、あまり役に立たなさそうな気がする。
「それにしても”いんさつき”、だっけ?ほんとにわざわざ陣を描くのに魔道具を使うの?」
「まぁまぁ、完成したらこの凄さが分かるって。」
今私たちは印刷機を作っている。目的はコンピュータを作るためだ。コンピュータの陣はかなり複雑で大量になると予想される。つまり、大量の陣を何度も描いて試行錯誤する必要があるのだ。印刷機が出来ればその作業が多少は楽になる。実は一番のメリットは別にあるのだが。
何日か試行錯誤を繰り返し、ついに印刷機が完成した。
「やった!できた!」
「お、ついに完成?」
「…それ、ほんとに陣を描けてるのかしら?」
前後左右に動かせるスライダーに、魔石を溶かして噴き付けるヘッダが付いている。特定のキー、ただの石の板にマス目を付けたものだが、を押すと、それに対応した陣が描かれる仕様になっている。
…そして何と言っても凄いのが、目では陣が判別できない太さの線で描かれていることだ。この印刷機の一番の目玉はこれである。わずかなスペースに、わずかな魔石で、大量の陣を描くことが出来るのだ。
印刷機で直径3cmほどの石のメダルに、炎を噴き出す魔法陣を描く。普通に描くとA4用紙10枚分くらいの分量で、非常に効率の悪い魔法なのだが割と人気がある魔法だったりする。
「このメダルにファイアボールの陣を描きました。早速試してみましょう!」
私がメダルに魔力を流すと、メダルから炎が噴き出した。
「すごい!すごいよ!シルちゃん!」
「うそでしょ…。」
シャムはキラキラと目を輝かせ、マローネは信じられないといった感じで口を開けている。
「えっへん。じゃあ次の魔道具作ろっか。」
「いいねいいね、どんどん作ろう!」
「えっ…もう次作るの…?」