第15話 共同戦線
おじさんから魔物が居ると思われる場所と魔物の特徴を教えてもらい、現地に向かった。
現地でしばらく探してみたが見当たらなかったので、適当な方向に探索範囲を広げてみた。
すると、自然の音ではない音が聞こえてきた。音の聞こえた方向に向かうと、先程の2人の少女と体長5mはありそうな大きな体をした熊の魔物が戦っていた。
「くっ。魔物のくせに障壁魔法使うとか卑怯だよ!」
「いや魔法を使うから魔物なんだから卑怯とかじゃないと思うわ。それにしても思ったより障壁が頑丈ね。どうにかして連続で魔法を叩き込むわよ!」
「さっきからやってるけど全然突破できないじゃんかー!」
どうやら魔物の障壁魔法を突破できずに苦戦しているらしい。
私は2人に声を掛けてみる。
「あの!協力しましょうか?」
「あ、さっきの。」
「この魔物を見つけたのは私たちよ。邪魔しないでもらえるかしら?」
「マローネ!2人じゃ突破できそうにないんだし、ここは協力してもらおうよ?」
「そんなことしたら報酬減るわよ?」
「でも倒せないんじゃしょーがないじゃん!あんまり長引かせると他の冒険者も来ちゃうかもよ?」
「むぅ…仕方ないわね。あなた、報酬の2割渡すわ。先に見つけたのは私たちなんだからそれで協力しなさい。」
なんだか勝手に決められてしまったが、元々無理だと思っていたので2割でももらえるならいいだろう。
「分かりました。」
返事をした私は、すぐさま魔物に接近する。
「ちょ、あなた近接職なの?!」
「いやまぁ剣持ってたんだし、そうなんじゃない?」
「はぁ。まぁいいわ。私が合図を出すからタイミングを…」
私は剣ではなく腰にさしていた大きめのナイフを取り出し、魔物の上空に飛び上がるとナイフを振り下ろして冷却魔法を発動する。
すると白い煙が落ちていき、魔物の体が凍りつく。そして魔物が黒い煙となって霧散すると、いつもの魔石より一回り大きいものが落ちた。
「…は?」
「…まじ?」
2人が呆気に取られている。
魔法の選択を間違えたかもしれない。だが、魔物の強さがよく分からない以上、確実に効くだろう魔法を使うのは仕方がないことだろう。
「あ、あなた今の魔法は一体なんなの?!まさかランク3の魔法?!」
「もしかして、もしかしなくても私たちよりあの子のほうが強い…よね?」
「えっと…とりあえず戻りましょうか?」
「待ちなさい!さっきの魔法が何なのか説明しなさい!」
「なんか冷たい空気が流れてきたけど…まさか氷魔法?…うん、地面が凍ってるね。」
「なっ…嘘でしょ?」
また2人とも呆気に取られている。勝手に帰ったら…ダメなんだろうな。
2人の思考がようやく戻ってくると再び問い詰めてきた。
「…で、どういうことか説明してもらいましょうか。」
「黙秘権を行使させてもらいます。」
「うっ…。」
「さすがにこんな魔法使うくらいだし、価値も分かってるかー。」
思ったよりあっさり引いてくれた。
魔法使いの一般常識として、広く流通している魔法以外は高額で取引され、勝手に他人に教えることはマナー違反となっている。さらに貴重な魔法となれば門外不出となるのが普通だ。
今回2人があっさり手を引いたのは、こういった背景がある。
その後、黙々と冒険者ギルドに戻り3人で報酬を受け取った。達成報酬は銀貨50枚なので、私は2割の銀貨10枚をもらった。
「…なんか悪いね。」
「…実際倒したのはあなた一人の力だったものね。」
「いやいや、先に発見されたのはお二人ですから。私は最後のトドメを刺しただけですし。」
「そのトドメが魔物に与えたダメージのすべてなんだけどねー。」
「あまり謙虚すぎるのも皮肉に聞こえてくるわ。」
どうしろと言うのか。
「…魔法そのものじゃなくて構わないから、何かしら情報をもらうことってできないかしら。」
「無理です。」
「そこを何とかさー。お金なら払える額なら払うしさ。」
「…お金の問題ではなくて、信用の問題ですから。」
「あれ、そうなの?じゃあさ、しばらく一緒に活動しない?そしたら絆も深まるじゃん?」
「えっと…仲間に入れてもらえるならありがたいです。やっぱり一人で活動するのは大変なので。」
「よし!決まりだね!」
「でかしたわ、シャム。」
「えへへ。あ、そうだ。私の名前はシャムーティア。長いからシャムでいいよ。」
「私はマローネ。これからよろしく頼むわ。」
「私はシルといいます。こちらこそよろしくお願いします。今日はもう遅いので、明日ゆっくり話しませんか?明日も今日と同じくらいの時間にここに来ますので。」
「分かったわ。」
「りょーかい!」
2人と別れた私は、明日この冒険者ギルドで待ち合わせることにした。仲良くやっていけるかなぁ…。