第13話 冷凍庫
まずは何を作ろう?
やはり前から気になっていた冷却の魔道具から作ってみようと思う。
どうも話に聞く限りでは冷却の魔法がないらしい。今までの解析結果でもなんとなく分かる気がする。
この世界の魔法は基本的に、魔力というエネルギーを他のエネルギーに変える、ということのようだ。ここでいう他のエネルギーとは熱エネルギー、運動エネルギー、電気エネルギー、光エネルギーといったものである。
冷やす、というのは熱エネルギーを奪う、ということである。つまりエネルギーを生み出すことが魔法であるから、冷やすということができないのだ。
ただまぁ、前世の知識があればそれほど難しいことではない。単純に運動エネルギーを使って空気を圧縮し、熱を取ってから圧縮を解けば冷えた空気の完成である。障壁魔法を使えば圧縮した時の熱エネルギーを奪うことも簡単にできる。
ちなみに障壁魔法だけで冷やすことはできない。どういう原理かまだ解明できていないが、一定以上の温度にならないと熱を奪ってくれないらしい。
とりあえず冷却の仕組みは思い付いているので、冷凍庫でも作ってみようと思う。
材質は…とりあえず石で作ろう。町の外でいくつか石を拾い、縦横高さが1mくらいの立方体の箱になるように魔法で溶接しながら積み上げていく。そして、凸凹を熱線の魔法で切り取って整形していき、風魔法で表面を滑らかに削っていく。これで箱の形は完成だ。
次に、箱に真空の層を作る。断熱材代わりである。箱の一部に穴を開け、魔法で溶かしつつ穴から押し出していく。そして最後に中の空気を魔法で押し出して穴を溶接して塞げば、真空の層の完成だ。
蓋となる石の板も同じように作り、取っ手を付けておく。蓋の内側には冷却した空気を出す陣を描いて、蓋の完成だ。
実際に魔力を流し込んで冷えることを確認し、家まで運んだ。かなり重かったので、上方向へ押し上げる陣を底に描き、軽量化して運んだ。町の入り口の兵士に変な顔をされたが、一応問題なく通れた。ミリーナさんは詰所で仕事していたようで、その時はいなかった。
夜になり、ミリーナさんが帰ってきたので、新しく作った冷凍庫をお披露目する。
「ミリーナさん、新しい魔道具を作って見ました!」
「この石の箱が魔道具なの?」
「はい!蓋を開けてみてください!」
ミリーナさんが石の蓋を開けると、中にコップが入っていて中の水が凍っていた。
「え?なにこれ?…氷?」
「そう、氷です!この箱は冷凍庫といって、箱の中は水が凍るほど温度が低くなっているんです。」
「ええっ?!も、もしかして氷魔法の開発に成功したの?」
「ええと、正確には氷魔法じゃなくて冷却魔法ですが、そうですね。陣自体の構想はだいぶ前から出来てたんですが、今回は実際に形にしてみたってところですね。」
「す、すごい。」
「この冷凍庫に肉とかを入れておけば何週間も保存ができますよ。なのでその日食べ切れなくても捨てなくて大丈夫ですし、安い時にまとめ買いしたりできます。」
「それは便利だね!わー、本当に冷たいなぁ。」
ミリーナさんが箱の中に手を入れて、その冷たさに感動している。
なかなか便利なものが作れたと思う。この応用で冷房も可能だろう。冷蔵庫も作ってみたいのだが、うまくいくか心配である。というのも、誰かが魔力を提供し続けない限り、連続で冷やすことが出来ないのだ。冷凍庫であれば長時間冷凍に必要な温度を保つのに一度思いっきり冷やせば良いが、冷蔵庫だと冷たすぎてはダメで一定温度を保つ必要があるのでそうもいかない。一応真空層を作っているので保冷効果は期待できるとは思うが…。
どちらにしろ魔石集めをしないと次が作れないので、作るのは少し先になるだろう。次はその辺りを作ってみよう。