03
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オズウェルの優秀さは年々花開いていった。
そのたびに伯爵位はわたしが引き継ぎ、領地の運営はオズウェルに任せればいいのではと脳裏を過ぎる。
そんなある日のことだ。オズウェルが神妙な顔をしてわたしの元を訪れた。いつもにこにこ笑っているから、何かあったのかと部屋に通した。
「……僕は馬としても役に立たないかもしれないんだ」
「な、何を言っているの?」
「落ち着いて聞いてくれる?」
落ち着くのはあなたよ、という言葉を飲み込みとりあえず彼の話を聞く。
「もちろんよ。それで何があったの? どうして……その、役に立たないなんて言うの?」
「僕が社交界デビューしたのは知ってるよね? 普段、女性と近づくことはないんだけど、最近やけに女性との距離が近いんだ。そこで僕は気付いたことがあって……」
オズウェルは俯いていてわたしの表情を見ていない。
だから仕方がないのかもしれないけど、たぶん今すごく不細工だと思う。
オズウェルの社交界での評判は噂として聞いている。これだけ見目も麗しく将来有望で侯爵家という肩書きがあるのだから当然と言えば当然だ。
(どうしてこんなことわたしに言うの?)
「一応、検査をする必要があると思うんだけど。どう思う?」
「…………あ、えっと……」
(どうしよう。聞いていなかった……)
「ああいや。まだ、確証があるわけじゃないんだよ? だってね……そのひとりでは問題なく処理できるから」
「……………………は?」
「もしかしたら習ってない? そっか……そうだよね、ごめん。少し早とちりしてしまったみたいだ。ただ、よければたしかめさせてもらえないかな?」
「……何、を?」
素直に頷いたほうが良かったのかもしれない。でも、わけがわからないまま頷くような教育を受けてはいなかった。
「なんて言えばいいのか……君に隠し事をしても仕方がないよね。僕の男としての部分が反応するかどうかだよ」
「……………………は?」
今日二度目の淑女らしからぬ言葉が飛び出た。
目の前の男は何を言っているのだろう。
「最初はなんとも思わなかったんだけどね、友人に聞かれて不思議に思ったんだ。もしかしたら僕は種馬として役に立たないんじゃないかってね。だから、たしかめさせて」
ぽかん、と口を開けてしまっても仕方がないはずだ。
でも、オズウェルはそんなわたしを気にする様子もなく、その逞しい腕を伸ばす。いやいや、確認をしたのだから、了承を得るまで待ちなさいよ。
そんな文句が口から出る前に彼の鍛えられた腕は壊れ物を扱うように優しく体を包む。
父以外の男性に抱きしめられたことがないわたしは体が自然と強ばる。決して不快というわけじゃないけれど、オズウェルの腕の中にいるのだと思うとそわそわとしてしまう。
彼も同じ反応を示しているように思えて、見上げた。
「やっぱり君だけの種だよ、僕は。アシュレイは僕を好きじゃないかもしれないけど、君のことが大好きなんだ。でも、これでひとつ確証されてしまったね」
頬を赤く染め、嬉しそうにはにかむ。
そこに一ミリも恥じらいがないのはどうしてなのか。
同じと思っていたけれど違うみたいだ。
「な、何が……?」
「僕は君の種馬にしかなれないみたいだってことだよ。ああ……嬉しい」
後半はよく聞こえなかった。
変わりにオズウェルは指先に力を入れ、わたしの体を強く抱きしめ衣擦れが耳朶に響く。
彼が好んで使っている石けんなのか、淡く爽やかな香りが鼻をくすぐった。
なぜか体が火照り、顔が熱くなり、いてもたってもいられなくなってしまう。
嬉しいのに恥ずかしいからこの腕の中から逃げ出したい。
「それじゃ、僕は先に庭にいるね。ここにいたら君を押し倒してしまいそうだから」
「なっ、何を……!」
オズウェルは笑いながら解放し、部屋から出て行く。
そんな彼の余裕な態度とは逆で、わたしは緊張から体から力が抜けその場に腰を落とした。
(あの人は……っ! 何より……)
突然の抱きしめたい発言にも驚いたけれど、今さらながらオズウェルの言葉の意味を探り意図に気付いてしまう。
(あれは……その、そういうこと、よね)
貴族位を持つものとして必要な知識として教えられてはいる。
教えられてはいるけれど、こんな形で話題がでようとは誰が想像できた。
「…………泣きたい」
どうしてわたしは十三歳という年齢で、婚約者のこんな相談に乗らないといけないの!?