将門の首
愛する将門の首を探し、桔梗は泣きながら武蔵国を彷徨った。
「御身は私に会いたくないの? なぜ顔を隠すの?」
だが、願いは空しく、桔梗が将門にまみえることは二度となかった。
そして絶望した女の口から吐き出された言葉は、
「秀郷、お前を、お前の子を、末代まで祟ってやる」
将門の命を奪った男への、それは呪い以外の何物でもなかった。
人と妖しの時間の流れは異なる。
将門を慕い続けた狐女は 彼の生き残った子たちがいると聞けば下野(栃木県)那須にまで足を運んだ。下野の南は秀郷の本拠とはいえ、那須は北の辺地である。身を潜ますには都合がよかったかと。
けれど、那須にはかつての彼の家臣が隠れ潜んでいるだけで将門の子などなかった――
狐女は気落ちしたが、代わりに狐の一族が住む洞穴の群落を見つけ、そこへ惹かれるようにして居ついた。
洞穴の狐たちとは、食べ物を分け合ったり古老から話を聞いたり、それなりの交わりはあったものの、時が移るとともに、彼らは少しずつ姿を消した。
心淋しくなった狐女は生まれ故郷の都に戻ることを決意する。
――あれから三十年以上経ったわ。将門さまも板東の土に返ってしまったわよねぇ。
そう、心に区切りを付けて。