7/恙なく、死闘は終わり、野望は犇めく。
お久しぶ……ちょ、やめ、石投げないで!
今回は裏部隊での物語がメインです。
今までと比べ、異様に地の文が多いですが、気にしてお読み頂けたら嬉しいです。
「霊撃ッ!」
光を帯び、尚も放出し続ける右拳を、叩き付けるように妖怪の腹へと打ち込む。
鈍い衝撃音が鳴り響く。光だけが貫くようにして、妖怪の背から伸びた。右拳は相変わらずめり込んだままだ。
やがて伸びていた光も徐々に細くなり、消える。同時に妖怪からの呻き声は途絶え、ふっと力が抜けていき、その重量が私に伸し掛かった。
死んだ。
そう理解するのに、数分どころか数秒もいらない。いつものことだ―――、と自虐気味に笑いを作ってみるが、どうにも引き攣っているのが自覚できる。
……ったく、どうして一々、こんな気分に。
なるのよ、と続けようとして、ふと思い出す。そういえば。
そういえば、妖怪を殺すことなど、《SKR》を発案するまでは儘あることだった。むしろ日常茶飯事とまで言えるほどに。
そしてそれを私は受け入れていたはずだ。許容していたはずなのだ。
なら、どうして。
どうしてこんな、後ろめたいような罪悪感を感じているのだろう。
「あぁ―――!! めんどくさいめんどくさい、面倒くさいッ!」
子供かアンタは。昔の私なら、今の私を見たら間違いなくそう言う。今の私でも言う。
過去と現在で、何が変わったんだろうか。
考え方? 言動? 環境? 或いは、全てが変わっていたのかもしれない。
どれだけ考えても、やはり納得のいく答えは出ないものの、でも一つだけ明言できることはある。
―――間違いなく、何かが変わっている。変わってしまっている。
私の意思も、尊重も、想いも関係なく、気付かぬうちに全てが終わってしまっていたのだ。
でも不思議と後悔はない。いつもなら苛立ちを覚えているはずなのに、むしろ嬉々としている。
これから新しい何かが始まるのだと。
私は、博麗霊夢はこの時、子供のころの記憶を確かに辿っていた。
× × ×
森の奥深く、闇に包まれた暗所の洞窟。
本来なら妖怪たちの住処として最適な場所でありえるはずの其処は、しかし誰もが近寄ることをしない。
皆、恐怖しているからだ。
知能を持たず、やれ好奇心だの食欲だので動く下位の妖怪でも、本能は持ち得ている。
そして、その本能こそが妖怪たちを洞窟に近付けない理由。
―――近付けば、死ぬ。
「ヤハハッ! やっぱ最近の木偶共は面白いっ! えっと何だっけ、……あーそうだ爆弾だ爆弾。アレ、威力高すぎだろ。今日なんか右手持ってかれちまったぜ」
「貴様はいつもそれだな……、戦闘狂とはよく分からんものだ。自身に傷を刻むような存在があるのだぞ? 少しは恐怖しないのか」
「……たかが、人間。どれだけ武器を造ろうと、持とうと、……それは人間のチカラとは言えない」
妖怪たちが忌み嫌っているといってもいい洞窟。だがその中から、まず間違いなく声が漏れ出ていた。
その複数の声から判断するに、最低三人。何やら会話をしているようだが、少なくとも人間たちがするような話題ではない。
なら残るのは、妖怪。
しかし洞窟には妖怪たちが近寄ることは無かったはずではないのか。それでいて何故、近付くどころか侵入さえしているのか。
「そういえば知ってるか? あの木偶、なんか移住しようと計画してるらしいぜ」
「……移住だと? 奴らが移り住めるような場所など、何処にある? そもそも如何してそんなことを?」
疑問が残ったまま、しかし彼らの話は続く。
「質問が、多い。……たぶん、ボクたちを恐れての計画。人間どもはボクらを最上級妖怪と呼んで、他の妖怪どもよりも厳重に警戒していた、らしい。……だからこその移住」
人間の移住。それは前々から考えられていて、最近になってようやく発表された計画だ。
妖怪たちが屯う森に隔たれている現状が続けば、いずれは破滅の道に進むことになる。そうして発案された移住計画に、誰もが賛成の意を見せている。
人々はそれを妖怪たちに知られぬよう、密かに実現化を進めていたが……。
それが、バレていた。
「ふぅん……、でもそれってあくまで予想だろ。もしかしたら、他の何かが有んのかもしんねーな」
「……行先については、分からない」
「予想すらできないっつーことか? ま、あの都市以外に木偶共が住めるような場所は残されていないしな。予想なんて、出来るはずもねーよ」
人間に残されている場所は、あの都市部だけだ。調査こそ幾度となく行ってきたが、今までに移住可能とされるような場所が見つかったことはない。
―――そう、地上では。
「そうそう、一つ提案してもいいか?」
先ほど、戦闘狂と称された声の主が言った。
「―――そこの木偶、どうするよ?」
絶句。
闇の奥で、紅い眼光がこちらを捉える。バカな―――、そう易々と見付かるような距離ではない。
否定したくとも、睨むように制止する眼光がそれを許してくれない。
「人間の、調査隊……?」
「よくは分からんが、のこのこと着いてきおったのだ。覚悟はしているだろう」
「ちょうど腹も減ってたし、どうだ? 三分割ってことで」
聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない―――!!
足音を消すこともせず、一心不乱にその場から逃げ出す。嫌だ、まだ死にたくない。死んでたまるものか―――。
俺にはまだ、やりたいことが、やり残していることがあるんだ!
やつらは、気付いていたのだろう。自分たちが嗅ぎ回られていることに。
気付いていながら、あえて誘い出しだ。全ては、自身の飢餓を満たすためだけに。
彼方に光が映っている。
あと少しで洞窟から出られると、そう確信し、そして、
「遅せーよ」
悪魔の囁きが、耳に届いた。
「ぁ―――」
その短い呟きから続くはずの悲鳴は、ついに聞こえてくることは無かった。
霊夢メインで進めないエピソードがあってもいいじゃない。
次回はきっと霊夢がやってくれるさ。
……次回はいつになるのやら。