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落月と共に伏した鴉

 柔らかな月の光に

 もう二度と触れることは叶わない



   ● ● ●



 東の団との抗争からおよそ十日が過ぎた。季節はそんな短い間にも移ろっていき、紅葉が見頃を迎え始めている。秋が深まっている証拠。朝晩の冷えも厳しくなってきた。

 燃え盛るようになっていく山の色は美しい。しかも夕暮れ時という時間も相俟って、まるで世界そのものが紅く染まっているようだ。ずっと見ていたい気分にもなるが、そうも言っていられない。団長という仕事も暇なわけではないのだ。

「久遠さま、もう少しで夕餉のご用意が整います」

「ああ、ありがと」

 控えめに報告してくれた幼い絡新婦じょろうぐもの姉妹に微笑みを返し、その背中を見送る。

 彼女たちは、東の団の生き残りだ。

 団長自身がそうだったこともあり、団員の中にもの種族は少なくはなかったらしい。もちろん元々は多岐にわたっていたのだろうが、保護した数少ない者たちの半数はまだ幼い絡新婦だった。

 他は雪女や鬼、そして妖狐。この団にも多い者たちで、絡新婦たちを含め、今では少しずつ馴染み始めている。

 もちろん最初は大変だった。何せ、彼らからしてみればおれたちはかたきだ。その頭たるおれは、憎くて憎くてたまらなかったことだろう。

 地下に閉じ込められるようにして守られていたというが、何が起こったのかは彼らとてはっきりと分かっている。外見は幼いとはいえ、同じくらいの時のおれがそうだったように、精神年齢は見た目ほど低くない。

 おれたちがどうして東の団と敵対することになったのか。どうしてあの戦を起こさなければならなかったのか。そしておれたちが抱いている思想は何なのか。

 それがこちら側の勝手な言い分だと思われても仕方ないかもしれないが、説明しないのはおかしい。毎日ゆっくりと時間をかけ、話していった。

 ときには攻撃を加えられることもあったので、いつも通り寒露を始めとした幹部たちは気が気ではないような表情でおれを見ていた。だが、おれが妖力も低い者たち相手に後れを取ることはまずない、と判断してくれたらしい。ただ黙って見守っていてくれたことが有難かった。

 団員たちにも決して攻撃を加えたり不審な目で見たりをしないように徹底させていた成果だろうか。おれたちが嘘で言っているわけではないこと、真面目に向き合っていることがどうにか伝わってくれたようである。

 この団に加わるか、それとも信用ならずに出ていくか。それはいつでも自由にできるようにしておいた。

 だが、十日以上が経った今でも、誰一人出ていってはいない。少しぎこちないものの、元々いた団員たちとも打ち解け始め、掃除をしたり洗濯をしたりという諸々の仕事を手伝ってくれている。

 元東の団員たちは今も、夕餉の用意の手伝いに回る者、遊びに出ていた子供たちを呼び戻しに行っている者、そういう輪に加わっている。ほっとした思いと微笑ましい思いが混じり合い、おれはくすりと笑った。

 冷たい風に少し身震いして自分の体をさすったところで、ふと触れた硬いもの。風巻からもらった懐刀だった。

 そのまま取り出してそっと撫でると、漆の感触が心地いい。

 風巻はおれと言い合いをした後すぐに一度里に戻った。飛び立つ音や、遠ざかっていく妖気と匂いで気づいて外に出るも、その時には既に彼は秋の高い空にいたのである。

 一日空けて戻ってきたものの、どうして一言も残さずに言ってしまったのかとだけ少し文句を言ったら、いつも通りに「悪かったってー」と笑った。

 彼は本当にいつも通りだった。言い合いをしたなんてことを微塵も感じさせないぐらいに。尤も終えた直後にはもう普段の雰囲気だったのだから、当然と言えば当然なのだが。

 おれだってそんな出来事があったことを忘れているがごとく振る舞っていたのだから、同じようなものだ。

 それと、保護した東の団員たちとの話し合いに協力してくれたり細かいことを話し合ったりした後、ふと彼が口にした言葉に驚かされた。

 ――他の団とごたごたしてるうちは、こっちにいることにしたから。

 平たく言えばつまり、拠点を団に置く、ということ。

 風巻は一所ひとところには落ち着かない人だ。それが寒露との喧嘩の原因になることもあったけれど、そういう寒露からおれを含めた皆までが、風のように流れていく人物であることは承知していたことである。

 加えて彼は多くの他の団員と違い、生まれ故郷である深山の里という帰る場所がある。そういうこともまた、団に留まらない理由のひとつと了解されていた。

 それにも拘らず、であるから、おれでも思わず二度ほど「本気か」と確認してしまう始末だった。風巻も風巻で信用がないなどとふざけて嘆くふりをしていたから、自覚はあったのだろう。

 だが、彼がそうしようとする理由も分かっていたから。

 ――お前の首こそ、オレは誰にも渡さねぇ。

 あの言葉を実行しようとしているのだろうということぐらい、おれにだってしっかりと。

 とんぼ返りするように里へと戻っていった彼を見送り、おれはいつも通りに日常を送る。彼が帰る場所、羽を休められる場所を守るために。

 彼がふざける様子を思い出して少しだけ笑ってから、元通りに懐刀を仕舞う。

 さて、夕餉の後は見守りに行かなければならない。気合を入れ直すためにも伸びをひとつすると、自然に視界に入った社の建つ山。社のある辺りがぼんやりと青く発光していた。

 月読は国守りの巫女も兼ねているため、武蔵国むさしのくに全体に結界を張っている。あの柔らかな青い光は、彼女が社にいてその結界を張っていれば必ず見えるものだ。まるで、「今日もこうして私が守っていますから安心してお休みください」と言うかのように。

 彼女は逢魔が時であるこの時間からいのり場に籠って、民のために全力を尽くしているらしい。

 しかも、今日は望の日だ。西側にある山から東の空に視線を移すと、まあるい月が見える。妖怪たちの妖力は月の満ち欠けによっても左右される。満月ともなれば、力は最も強くなる。彼女にとってみれば、いくら警戒しても足りない日だ。

 しばしの間、美しすぎて畏れをも抱きそうな月を眺めた。それから夕餉の後のために大部屋へと足を向けかけ――異変に気づいてもう一度山の方を見遣った。

「風巻の、妖気……?」

 彼は里にいる。離れているとはいえ、妖気が感じられない距離ではない。だから絶えず感じてはいたけれど、そういうものじゃない。尋常じゃないほどの強さなのだ。圧力さえ感じるほどに。おれだけではなく周囲の者たちも察したらしく、ざわめきが生じている。

 これは、戦闘のときの妖気だ。


 深山の里に、敵襲。


「……ッ寒露!!」

 思い当たるや否や、鋭く叫んだ。

「はい!」

 その前に部屋から飛び出してきていたらしい寒露が駆け寄ってくる。

「状況は分かってるな? 助太刀に行く、動けるだけ人員を集めろ!」

「久遠さま失礼します!!」

 すかさず指示を飛ばしたが、ほぼ時を同じくして慌ただしい足音が近づいてくる。振り返れば、そこには雪水がいた。息が弾んでいて、冷静さを崩すことが珍しい彼女にしてはいやに乱れた調子である。

 一瞬にして嫌な予感が背中をなぞっていって、深く呼吸する。動揺したところなんて見せてはならない。

「どうした?」

 なるべく声の調子を落ち着けて尋ねると、雪水は勢いよく頭を下げた。


「子供たちの数人が姿を消しました!」


 そして再び勢いよく顔を上げたかと思えば、俄には理解し難い言葉を一息に放ったのである。

「……何? 姿を消したってどういうことだ」

 怪訝な表情になりつつも努めて冷静な声のままで返すが、それを見て彼女はぐっと唇を噛み締めた。まるで自分を責めるかのように。

「いつものように夕餉のために呼び戻しておりました。しかし、鈴菜と私で人数を確認してみたところ、足りないのです。此処に戻ってきていないことになります。勿論、彼らには私を含め大人たちが付き添っていましたが、誰もいなくなっていたことに気づかず……」

「――、屋敷の中と周囲の確認はしたんだな?」

「はい。ですが見つかりません。恐らく何処か遠くへ行ってしまったものかと……」

 申し訳ありません、と雪水は平伏して床に額をこすり付けんばかりにしている。

「自分を責めるのも、謝るのも今は後でいい。迷子になってるんだとしたら早く見つけないと」

 首を振りながら傍に膝をついた。

 夕刻から夜にかけてはおれたち妖怪の活動時間であるが、それ故に幼い子供たちには危険が付き纏う。下位の者たちが妖力目当てに、まだ幼いけれども妖力は自分より高い、というちぐはぐな相手を狙うことは間々あることだからだ。

 夕刻になるより早く帰ることを徹底させていたというのに。今までその禁を破ったやんちゃ者は少ないし、破ったとしても妖気の動きですぐに分かって、屋敷のすぐ傍で発見できていた。

 迷子の場合も同じである。子供の足で行くことのできる距離など高が知れているのだから。

「脱走常習の子では」

「ありません。いえ、正確にはその子を含め、普段大人しい子まで私たちの目の届く範囲から抜け出しています。しかも痕跡ひとつ残さずに。あの子たちにそんなことができるとは思えません」

 どういうことなのだ。

 あまりに有り得ない状況に考えがまとまらず、こめかみを押さえる。だが不安げにおれを見上げる目に気づいて、そっと背中に手を置いた。

「行方の知れない子たちは誰なんだ」

 彼女が挙げた名前は、確かにやんちゃだったりお転婆だったりする子もいるが、ほとんどが大人しい子のもの。雨女が二人、蛟が二人、妖狐が一人、そして河童が一人。あとは半妖の子が三人だった。

 全員、人間で言うところの五歳程度までの者たちだ。最年少の河童の子に至っては、まだ二歳ほど。心配で心の臓が嫌な音を立てて軋むのを感じつつ、すっくと立ち上がる。

「玻璃、黒鉄! 話は聞いてたな? とりあえず出立しろ! すぐに動ける奴らを連れて子供たちの捜索に回ってくれ!」

 鼻が利くし冷えた体をあたためてやれる玻璃と、手下の鼠を多数出せる黒鉄を捜索に向かわせるのが今のところ一番の得策だ。彼らは弾かれたように返事をして、周りにいた者たちを連れて本拠地を飛び出していった。

 それを見届けてから、動揺しきりでざわざわとしている団内を見渡す。こちらを見つめるたくさんの揺れる瞳にしっかりと視線を返して頷いてみせた。

「絶対に見つけ出すから」

 はっきりと口にするというそれだけで、僅かにだが緊張がほどけていく。もう一度頷いて、残った幹部たちを連れて部屋の外に出た。

「おれも捜索に出る。寒露、雪水、更に行方知れずの子たちが出ないかどうか、定期的に数を確認して、周りをくれ。鈴菜、おれが出たら結界を二割……いや、三割強化。外から入れないだけでなく内からも出られないように頼む」

 雪水と鈴菜からは返事が飛んできたが、寒露からは何かを言い淀むような空気が流れてくる。振り返ると案の定、彼の眉間には皺が寄っていた。

「久遠サマ……」

 つい先ほどまで彼には違う指示を伝えていたのだ。そういう表情をするのも当たり前である。

 おれだって、できることなら今すぐに義兄の元へ駆けつけたい。

「……此処で風巻を優先したら、むしろ怒られる。おれは風巻の義弟おとうとである前に――団長なんだ」

 団長である前に久遠であり、久遠である前に団長である。ついこの間に風巻に対して言ったことが、これほどまでに自分へと刺さってくるとは思わなかった。


「風巻は、負けない。おれたちが信じなくてどうする」


 迷いなく口にすると、寒露の瞳が少し惑うように揺れた。

「どうせ見回りの担当の日だったんだ、黒鉄の方に合流してくる。寒露、お前は留守を任せる」

 夜空の色を真正面から射抜く。強く言い聞かせるために。

「……今は風巻がいない。お前が幹部の頭だ。頼んだぞ」

 そう告げた瞬間、彼の中で芯がしっかりと定まったように見えた。

 微笑んでみせると、彼は深々と頭を下げる。

「黒鉄のところに着くまで、せめてもの警護に。……お気をつけて」

 毒気の膜がおれを覆ったのが匂いで分かった。寒露に倣って低頭する雪水と鈴菜にも頷く。

 おれは一度庭に出て屋根に上がり、黒鉄の妖気の気配がする方向を確認して、脚に妖力を集中させて再び跳び上がる。

 捜しながら動いている彼らが当然すぐには遠くへと行っていなかったおかげで、ひとっ跳びで辿り着いた。

「く、久遠さま!」

「おれも加わる。手がかりは見つかったか」

 森の中を捜索していた黒鉄が驚いたように振り返るので、切り替えさせるように背中をばしんと叩いて情報を伝えるよう促す。

「妖気の痕跡ひとつ見つかりません……」

 数拍の間を空けて、絞り出すように彼は応じてくれた。きゅっと眉根を寄せる表情とその言葉から、事の重大さを改めて思い知らされる。

「――急ごう」

 名前を呼んで、匂いを探して、妖気を辿ろうと感覚を研ぎ澄ませて、少しの声も聞き逃さまいと聞き耳を立てる。皆が必死になっているのが伝わってくるのに、おれも全力を注いでいるというのに、手がかりが何も見つからない。

 焦りそうになる気持ちをどうにか宥めながらも、どうしてこうなったのかを懸命に考えた。

 考えられるのは、遊んでいる間に別な妖怪に攫われたこと。だがそれでは妖気の痕跡が全く見つからないことが説明できない。子供たちのものはもちろん、敵が残したと思えるものさえないのだ。

 それならば、他には何が思いつく。子供の名を呼びつつ、思考は止めない。

 そして、不意によぎっていくひとつの可能性。

 ――双念との付き合いは避けるべきだと思う。

 今も激しく肌を刺している妖気の持ち主の台詞が、耳の奥で鳴った。

 血の気が引いていきそうになって、頭を振る。見つけ出す方が先決だと無理矢理に気分を切り替えながら。

 早く助太刀に行きたいのに、早く見つけてあげたいのに、時間だけが無情に過ぎていく。先ほど見たはずの位置から月が徐々に移動して、中天にかかり、いつしか西へと下りていく。そのうち東の空が白み始めた。

 一晩中捜し続けても、誰一人発見できない。疲労だけが積み重なった。

「久遠さま……」

 黒鉄の狼狽しきった様子を正してやることもできない。おれ自身、途方に暮れていた。

 子供たちは当然気にかかるが、今もなお風巻の妖気がびりびりと痺れるほど強く伝わってくることが不安だった。負けるはずがないとは思うが、どれほどの規模の襲撃なのだろう。

 彼もいったいどれほど長い時間を相変わらずのまま過ごしているのか。時刻を確認しようと空を見上げた、その時だった。

「――血の、匂い……」

 おれ以外に鼻が利く者たちも遅れて気づき始め、顔色が一瞬にして青く染まる。

 言葉を交わすより早く、駆け出していた。

 玻璃たちも気づいたのかもしれない。ばらばらに散らばっていた馴染み深い妖気が一点を目指すようにして集結していく。

 そして、おれたちはずっと探していた子供たちをようやく見つけた。


 折り重なるようにして倒れ伏す、血塗れの遺体となって。


「……ッ!!」

 誰も、一言たりとも発しなかった。いや、発せなかった。

「んだよ、これ!!」

 ようやく黒鉄が沈黙を割ったが、それもかなりの間が空いてから。泣き崩れる者や呆然と立ち尽くす者を視界の端で捉えながら、おれはゆっくりと子供たちに近寄った。

「久遠さま……」

 玻璃の声がやけに遠く感じることからして、もしかすると足もふらついていたかもしれない。だが意識していられないほどの衝撃が襲い、血溜まりの傍に膝をつく。

 つい昨日の朝まで、にこにこと無邪気に笑っていた子供たち。あたたかな桜色に頬を染めて駆け回っていた子たち。こんな、冷たく真っ青な色は彼らには似合わない。

 どうして。どうして。どうして。

 一人の頬に触れた刹那、おれの指が焼けるような音を立てて弾かれた。

「久遠さま!!」

 幹部二人を含めた周囲が驚いたように声を上げる。

「――、法力……」

 誰のものかは分からない。ただ、それだけははっきりしていた。

 法力で傷を負った場合、霊力でのときと差はない。だが、こんなにも濃く残っているものがある。

「……法師の衣の匂いだ」

 みなが息を呑んだのが分かっても、子供たちから目を逸らせない。

 向かう途中に屋敷の屋根が見えた。此処は本拠地から近い。それなのに見つけられなかった。遊んでいる最中に攫われて殺され、何の目的か今の今まで隠されていたと考えるのが妥当だろう。

 里を滅ぼされた時の記憶が鮮やかに蘇る。

 仲間が、母が、妹が、目の前で殺されていく光景。

 ――……もし、お前が、たとえば。団員の誰かを信じるか、双念や月読を信じるか、一方しか選べなかったら、そんな時が来たらどうするつもりだ。

 ああ、彼の予感が実現するのだろうか。おれの嫌な勘が、当たってしまうのだろうか。

 人間と妖怪が共存できる世界を。幾度も裏切られてきたのに、そのたびに信じようとして、また裏切られる。

 なあ、風巻。おれはやっぱり、間違っているのかな?

「……本拠地まで運ぶぞ」

 今は迷っている時ではない。ぐっと唇を噛んで立ち上がろうとした。

 けれど、それは叶わなかった。

 団員たちの空気が、先ほどと同じぐらい、いやそれよりも冷え冷えと凍りつく。

「――――ッ、い、やあああああああああああぁああぁ!!」

 玻璃のつんざくような悲鳴が、何処か遠かった。

 日が昇る。月が落ちる。

「……そ、だ……」

 嘘だ。嘘だ。嘘だって言ってくれ。おれの感覚がおかしくなったのだ。違う。こんなの絶対に、有り得ない。

「し、まき、」

 ――春永が迷ったり不安に思ったりするなら、オレらも一緒に考えてやれる。だから、自分だけで抱えるなよ。な。

 そう、言ったのに。

 ――そりゃオレはふらふらしてるけどさ、最後にはちゃんと此処に帰ってくるよ。いつもそうだろ?

 ――風巻は約束破らないもんな。

 ――破んねぇよ。破ったことないだろ。

 そう、言ったくせに。

「うそ、だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、うそだ!!」

 叫びは誰にも、届かない。

「帰ってくるって、言った!! 言っただろ、……っ言ったのに!!」

 誰か夢だと言ってほしいのに、何の音も聞こえない。

 涙なんて落ちない。ただ体の力が抜けて、ぐにゃぐにゃと崩れ落ちる。

 ――つまり、永遠、ってか。久遠も、春永も。いい名前じゃん。

 そう呼んでくれる人は、もう何処にもいない。

 紅霞。

 いくら呼んでも、もう届かない。

「あああああああああああああぁ――ッ!!!!」





 落月と共に、いつも傍を飛んでいたはずの烏が、地へと伏した。

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