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迷いながら進む少女

 雨が世界をとざしていく気がする。

 ひな子はそんなことを思いながら、神社へと続く長い階段を上っていた。

 濡れているために滑りやすいことを頭に入れつつも、自然と急ぎ足になってしまう。

 制服が湿ってしまわないか気を遣わなくて済むように早く家の中に入りたいという思いもあったが――それ以上に、できる限り透の傍にいたいという思いが大きかった。

 ひな子の瞼の裏には、未だ鮮明にあの時の光景は焼き付いている。

 ――じゃあ月読と同じだ。殺す。

 庸汰は、何の躊躇いもなかった。くらい目を思い出すたびに背筋を氷で撫でられた気分になる。夜、それに魘されては飛び起きることが最近の彼女においては珍しくなかった。

 だがひな子を何より苦しめたのは、庸汰の容赦のない殺気の記憶ではなかった。

 傘を持っていない方の手を見つめる。

 人の体温をあれほど頼りなく思ったのは、ひな子にとって初めてのこと。

 ――先輩ッ!? 雨宮先輩!!

 彼の腹から流れ出す血。青く染まっていく顔。死んでしまうのではないか、と本気で思った。

 鶫が庸汰を追い払って倒れてしまった後、意識のない二人を瞳子や宏基と協力して客間へ運び込んだ。

 完全変化(へんげ)をした反動で気絶している鶫は、しばらく寝かせておけば目を覚ますだろうと前例から見ても予測がついていた。だが、透の状況は最悪だった。

 妖力を滅してしまう法力を取り除かなければ、いつまで経っても傷は癒えない。一刻の猶予もなかった。下手をしたら大量に血液を失うことになり死んでしまう。

 ひな子では力が足りない。当然浄化の役目は瞳子へと回ることとなり、傷口に手を添えた彼女は大きく目を見開いた。

 ――術も仕込まれている……? これ、は……大妖怪を退治するときでさえ、暗黙のうちに使用は避けていたものではないですか……。

 そして、信じられないという口調でそう呟いたのだ。

 一ヵ所から注ぎ込むだけで徐々に徐々に体の組織が破壊されていき、最終的に死に至らしめるものだ、と彼女は続けて語った。

 痛みに悶え苦しませた末に殺す、という残虐な術の存在はひな子も文献を見て知っていたが、人間に対して使う者がいるなど信じられなかった。いや、信じたくなかった。

 かの術は、元々は鼠や虫などという一度の数が多い妖怪を滅する場合に使われていたらしい。一匹に浴びせて、敢えてそのまま巣に帰らせ仲間のいる場所で体を爆散させることによって、隠して仕込んでいた浄化の力で根絶やしにするためのものだった。

 巫女たちの間においては、瞳子の前世が生きていた時代で既に、ほとんど禁術に近い扱いをされていたようだ。いくら妖怪相手とはいえそこまでする必要性はないだろうと。

 しかし、最初はひな子に向かって咄嗟に放たれたことに鑑みても、法師の間では最も馴染み深い術のひとつなのかもしれなかった。

 それが恐ろしい。

 階段を上り切り、ひとつ息をつく。

 この恐ろしさは、あの攻撃から庇ってくれた人がいたために無傷でいられた以上背負うべきこと。だから、庸汰への恐怖は彼女を一番に苦しめるものには成り得ない。


 彼女の胸に重苦しさを纏わせるのは、透だった。


 苦労しつつも瞳子は術を何とか解除し、残留していた法力も祓った。身を挺して庇ってくれた透にも、恩人である彼を術の侵食から救ってくれた姉にも、ひな子は深く感謝していたけれど。

 同時に、悲しくて悲しくてたまらなかった。

 ――あたしは嬉しくなんかない。何にも嬉しくなんかない。

 どうして、前を見据えて生きようとはしてくれないのだろう。

 後ろを振り返るなと言っているわけではない。それは違う。過去に学ばないものは、未来をも握り潰してしまうであろうことは自明の理。振り返ることは貴重だ。ひな子にも分かっていた。

 でも彼らは振り返るだけではなく、まるで今でも過去の自分と変わっていないかのように振る舞うから、それが悲しくて。

 変化へんげは精神も命も削ることであると言ってもいいのに、鶫を護るために自分の総てを投げ出そうとする宏基。仲間を傷つけられたことに激して、危険も顧みず敵へと切りかかった鶫。何より――ひな子を庇うために何の逡巡もなしに飛び込んできて、命さえ捨てかねなかった透。

 誰かのために自らのことはお構いなしであること。それは一見とても美しい。ひな子には身に纏えない『美しさ』で、眩しくないかと言われれば嘘になる。

 それでも。なぜそれほどまでに容易く手放してしまえるのか、ひな子には分からなかった。

 美しくなどなくていい。ただ生きて、笑っていてくれさえすればいい。そう思ってしまうのはいけないことだろうか?

 自分を軽視することは、自分を大事に思う人をも軽視することであるのに。彼らはそれでいいのだろうか。

 死ぬということの恐ろしさや絶望感を、彼らはひな子以上に知っているはずなのに。それとも、大切な人のためなら死ぬことさえも恐ろしくなどないと言い切れてしまうのだろうか。

 考えても彼女には考えが及ばなくて、小さくため息をついた。

「……ただいま」

 声をかけながら玄関の引き戸を開ける。母の明るい声が返ってくるのを聞きつつ、傘立てへと自分の傘を突っ込んだ。

 急いで家の中に入り、部屋へ向かって駆けていく。

 透がきちんと休んでいるかどうか、それが今彼女の一番の心配事だった。

 あの日から二週間近く。透の怪我はだいぶ快方に向かっているものの、まだ安静にしていた方がいいという見立てもあり、家の中や庭を歩く程度の生活を余儀なくされている。

 彼はそれがどうにももどかしいらしかった。

 こうしている間にも、庸汰が何か策を巡らせているかもしれない。仲間内の誰かに危害が加えられるかもしれない。そう思っているのがよく分かった。

 あたしを助けたせいだ――彼女にもそうやって自分を責める思いがある。

 昨日の晩、客間に明かりが灯ったままなのに気づいて歩いていくと、透が窓辺に座って月を眺めていた。

 細く開いていた隙間からそれを眺めつつも、彼に声をかけられなかったひな子。

 その横顔が、今まで見たことがないほどに歪んでいたから。

 最初は傷が痛むのかもしれないと思い、喉元まで彼の呼び名が出かかっていた。でも、透の表情を曇らせていたものの正体が痛みなどではないとすぐに分かった。

 ――双念……。

 低い声。鋭い眼差し。全身から滲む焦燥感。

 彼の心を支配しているのは、紛れもなく庸汰であり――前世との繋がりだったのである。

 声は中途半端な息の音となって掻き消え、静かに踵を返した。

 どうしようもない感情が込み上げて、苦しくてたまらなかった。

 怪我を負った直後の透を見た時のような苦さが、ひな子の全身に広がって支配していく感覚。自分を見失わないように拳をきつく握りしめながら布団へと逃げ込んだのを思い出し、再び嘆息する。

 過去ばかりではなくて、現在を見てほしい。そう思うのは、彼らの命を案じるからであり、もうひとつ理由があった。


 透に、自分を、見てほしい。


 はっきりと心に浮かんだ気持ちのせいで一気に恥ずかしくなって、ひな子は壁へと軽く額を自らぶつけた。

「……ひな子、何やってるの、あなた」

 そこをたまたま通りがかったらしい母が怪訝そうに声をかけてきたのにはっとし、何でもないと笑って誤魔化した。すぐ出るからと思って襖を開け放していたのが原因である。

 腑に落ちないような様相をしつつも風呂の掃除に向かったらしい背中を見送り、ひな子は早足で透のいる客間へと向かった。

 いや正確には、向かおうとした。

「……え、」

 歩き出したところで、大きな妖気を肌で感じて思わず振り返る。詳しい方向まではひな子には分からなかったが、誰のものであるのかははっきりしている。

 宏基だ。

「どういう、こと……」

 直後、今度は恐らく法力と思われる力の気配が、同じように激しく襲いかかってきた。こちらも予測するまでもない、庸汰のものである。

 ふたつの力があまりに強大で、ひな子は奔流の中でもみくちゃにされている気分になった。

 どちらの力も、本気だ。本気で、相手を殺そうとしている。

 それを察すると同時、彼女は駆け出していた。外にではなく、つい先ほどまで目的としていた場所へ向かって。

 廊下を走り抜けて、襖を勢いよく開け放つ。ひな子の視界には、予想通りの光景が広がっていた。

「雨宮先輩!!」

 窓から外へと飛び出そうとしている透と目が合う。驚いたような彼にずかずかと近づき、その腕を捕らえた。

「まだ怪我が治ってないのに行くつもりですか!? 駄目です!!」

 透は一瞬目を見張るも、その綺麗な顔を歪ませた。感情が複雑に入り混じったような様相で、何を考えているかまでは理解できなかったものの、彼が焦っているのは感じられる。

「アンタに関係ないでしょヒヨコ……! 離せ」

 線の細い見た目からはあまり想像がつかない強い力をしていて、振り払われそうになる。ひな子は何とか抗って手に力を込めた。

「離しませんし行かせられません! そんな怪我で行ったら今度こそ死んじゃいますよ!?」

 完治からは程遠い怪我。こうして直接掴んだ手首にも、じっとりと汗が滲んでいる。痛み止めが切れているに違いなかった。

 枕元の薬瓶を垣間見たが、ストックもなくなっている。本来なら宏基が今日やってきて薬を補充していくはずだった。だが現れることはなく、そして今もなお肌が痺れるぐらいに強い妖気を発しているということは、その途中で庸汰と鉢合わせしたのだろう。

 透は、そんな宏基を助けに戦いへ加わろうとしているのだ。

「ほっといて! 前々から思ってたけど、いちいちお節介。オレが何しようとアンタに何の関係があるっていうの。オレは行かなきゃならないんだよっ!」

 彼の言葉のひとつひとつが胸にぐさりぐさりと突き刺さる。どれも確かにその通りであることを、ひな子自身がよく知っていた。

 自分は前世の記憶がない。それどころかそもそも前世において関わりすら持っていない。透の行動を制限できる権利なんて持ち合わせていないし、行きたいと叫ぶ彼を留められるだけの言葉を並べられもしない。ないない尽くしだ。

 だがそれでも、行ってほしくないと願うのは。

 ――変わらないのは、あの馬鹿だけで充分だよ。

 ――あんな馬鹿、心配なんてしてないよ。ただ馬鹿だなって思うだけ。それに、オレが言ったところで変わらない。あの人を解放してあげられるのは鶫だけだ。

 宏基についてそう語っても、己自身の行動はちぐはぐで。

 前世で関わった人たちの生まれ変わりには前を見て生きろと言う割に、自分は立ち止まって周りをぐるぐると見渡しては迷子になっているような。周りの気持ちを慮り、察し、その末に動けずにいるような。

 透の立ち姿はひな子にはそう映って仕方なかった。

 ――今度こそ、護り抜く。久遠さまも……風巻との約束も。

 同じだ。宏基と何も変わらない。前世に縛られていることが傍から見てすぐに分かるか否かという違いだけで、変わりはしない。

 前世で慕った者のためなら透は躊躇なくその身を差し出す。現在のことには目を閉じて、そうして死んでしまうのか。

 一度思ってしまうとこびりついて離れない思い。耐えかねて拳をきつく握りしめた。

 『今』から目を逸らすのは、過去や未来から目を逸らすのと同じぐらいに愚かしいことではないのか。

 心の中にずかずかと踏み込んでくる。そしていつの間にか見抜き、暴く。一番厄介で一番怖い。彼はいつかひな子をそう評した。

 だったら、暴いてやろうではないか。その固い固い頭の中を。

「先輩たち、皆してほんと馬っ鹿みたい!!」

 怒鳴った瞬間、生まれた空白。反射的にたじろぎそうになる。だがそれをしたら負けだと強い目で透を睨んだ。

「は、あ……?」

 驚愕からか硬直していた彼は顔を歪ませ、鋭い視線を返してくる。だが覚悟を決めたひな子はもう迷わず、心にあった言葉を叩きつけた。

「馬鹿だって言ってるのよ! 何で気づかないわけ……!」

 苛立ったような感情の中には困惑の色が滲んでいる。こういう表情が見られるということは、彼はここに今、ちゃんといるのに。どうして目を伏せ、振り返り、広がっているはずの景色から目を背けるのだろう。

「前世を振り返るななんて言わない。けど、どうして前世だけで全部を終わらせてしまおうとするの。それぞれが自分だけで背負い込んで潰れてしまおうとするの! 先輩たちは皆、こうして生きてるのに。今を生きているのに!!」

 全身を使って叫べば叫ぶだけ、手足が震える。これがそれこそお節介で、『無関係』な自分が口出しをするには余計なことなのだと自覚はあるからだった。

 しかし言わずにはいられない。誰にも傷ついてほしくないし、透に死んでほしくなどないのだから。


「前世のために総てを懸けるなら、そんなのあの庸汰っていう人と――双念っていう人と、おんなじじゃないですか!!」


 降りの増したらしい雨が地面を叩く大きな音が、今まで気にもならなかったはずなのに、よく聞こえる。

 それはつまり二人の間に重苦しい沈黙が流れていることを意味していた。

 繰り返して叫んだせいで息が荒くなっていたひな子は肩で息をしつつ、透の顔から目を逸らした。いや、正確には、もう見られなかった。

 彼はどんな顔をしているのだろう。鬱陶しく思ったに違いない。止められるわけもないくせに、しかも敵とひとくくりにして傷つけただろう。そもそもこんな怪我さえなければ彼は何の問題もなく戦いに行けたわけで、恩知らずなことをしている。

 ひな子の頭の中にいくつもの自責の念が生じては、呼吸を苦しくさせた。

 逃げ出してしまいたい。でも、彼を行かせたくない。ふたつの感情のせめぎ合いに足が全く動かない。

 どれぐらいの時間が流れたか。

「――行かせて」

 やがて、透がぽつりと言った。掴んだままのひな子を振り解こうというのか、その手を引っ張っている。

 思いが届かなかった。彼女が悔しさに唇を強く噛みしめようとして――阻止するように冷たい指が触れてきたことに気づき、目を丸くして顔を上げる。

 そこには吸いこまれてしまいそうなほどに真剣な目をした透の顔があった。

「約束するから。絶対に死なないって」

 唇をなぞり、頬に触れ、顎を伝ってから透の指は離れた。ひやりとする温度を湛えていたはずなのに、触れられた部分がじわじわと熱くなる。決意が流れ込んできたがごとく。

「……確かに、アンタの言うとおりだよ。オレらは皆、分かってるようで分かってないのかもしれない。アンタの姉さんはどうだか知らないけど。生き抜く覚悟よりも死ぬ覚悟をする方がずっと楽だから、それに逃げてるのかも」

「楽って、」

「他の人たちにとってはたとえ反対でも。オレたちは多分、その方が楽。だって色々なことに目を閉じていられる。『自分はそれだけ他人を大事に思っている』っていう、逃げになれる」

 透の薄茶の瞳は揺らぐことなく、しかし自嘲気味に歪んでいる。

 彼の中で渦巻いている感情は何なのか。このまま溢れて彼自身を壊してしまうのなら、それより先に掬い取ってしまいたい。そう思ったからかもしれない。ひな子は気づいたらその頬に手を差し伸べ、触れていた。

 ざあざあと空気を震わせる雨音。他は、二人の呼吸の漏らすものしか響かない。

「でもそれは……その大切な人を軽んじるのと、同じことなのかな?」

 透がこれほどまでに頼りなく見えたことはなかった。ひな子は言葉を失って息を呑む。そんな様子を一瞥した彼は、彼女の肩を掴んで優しく引き寄せた。

「……、え」

 びっくりして体を硬くするが、透の腕はしっかりとひな子を捕らえて離さなかった。

「アンタの言う通り。過去にだけ溺れて、現在を歩くことを忘れるのは、馬鹿だね」

 分かってる、分かってるんだ――耳元で紡がれる間も、キャパシティを超えたひな子の頭はパンクしてしまいそうだった。

 けれども、聞き逃せない言葉をキャッチして透に目を遣る。彼はやはり自嘲するように微笑んでいて、ひな子は瞳を揺らめかせた。

「でも。ここで行かないのは、オレの信条に反するんだ。あの人たちに全部を背負わせたくはない。自分だけ外で見てるなんて耐えられない」

 だから、と柔らかく響くテノールの声は優しい調子でひな子の鼓膜を震わせる。


「絶対に死なないって約束するから。破ったら、来世で張り倒されたって構わない。だから、行かせて」


 来世で、なんて、他の人が聞いたらきっと笑ってしまう。でも、透は『玻璃』という存在から転生をしてここにいる。そのひとつの事実をひな子が知っているからこそ、嘘にはならない。

「……分かり、ました」

 前世でそういった繋がりを持たない自分には、きっとどれだけ言葉を重ねられたところで彼らの感情を呑み下し、納得することなどできない。

 つい先ほども心に浮かべたようなことを考えながら、彼女は透を真っ直ぐに射抜いた。

 納得はできない。だけど。

「あたしには、きっと一生理解はできないでしょうけど。でも……大切な人を大切にしたい気持ちは、分かるから」

 透の腹にそっと手を置き、長い詠唱をつっかえないように苦労しながらも言い遂げる。

「元々は、あたしたち巫女が命を引き替えにしてでも戦い続けるために作られた術です。あたし程度の力じゃ、長い間を持続させることはできませんけど」

 怪訝そうなものから驚きの様相と移ろった透に笑い、ひな子はぽつぽつと述べた。今彼に対して施した、痛みを消す術について。

「死んだら許しませんから。本当に、来世でも殴りに行きますからね」

 また少し睨むようにして続けると、透は苦笑を零す。

「約束したでしょ。でもそれでもまだ信じられないなら、……」

 感じられる妖気が強くなったと思ったら、瞬き一度の後には彼は変化へんげしていて、そのふわふわとした尾のひとつに触れていた。

 今度はひな子が怪訝な顔を向けていると、爪で毛の一房を切り落とす。次にはその毛を握って力を込めるような様子を見せてから、ひな子の手のひらに載せた。

「一度だけ、願った幻術が使える。約束の証として、渡しておく」

 行くんでしょ? と目で問われた気がした。

「……ありがとう、ございます」

 それをぎゅっと握りしめ、頷く。

「見張ってますからね」

「だったら戦いに集中しなよ……」

「集中しながらも見るんです」

「ほんと意味分かんないしそれ集中してるって言うの?」

 言い合いを交わし、二人はどちらともなく吹き出した。笑いが治まってから目を合わせ、またほとんど同時に微笑み合う。


「あの馬鹿止めに行くよ、ひな子」

「分かってます――透先輩」


 外へと飛び出した体にまとわりつく雨は、誰かの流した涙のようにも思えた。

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