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夜半の御伽草子-化ケ猫ト桜ノ君ノ巻-  作者: 汐月 羽琉
白昼ト夜半ノあはひニテ
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丑三つ時に佇む

 男は、動揺から瞳をゆらゆらと揺らしている目の前の少年――鶫を見つめていた。


 彼の表情にはもう一人の顔が重なる。鶫の前世、久遠だ。最後に会った時の久遠も、今の鶫のような表情をしていたことを男は思い出す。

 馬鹿な妖怪だった、と内心で嘲笑いながら、鶫との距離を縮めた。無意識か意図してか、鶫は後ずさりする。それにも構わず、もう一歩。鶫もまた一歩下がり、男はまた進み――奇妙な追いかけっこが始まった。

 男が毎日毎日光の槍を突き刺している写真そのままの容貌。そして記憶の中の久遠と同じ顔。

 鶫を改めて見つめながら、男は喜びに胸を震わせていた。これまで腹の中で燻らせていることしかできなかった感情を爆発させる時が、今まさに訪れたのだから。


 本当に馬鹿な妖怪だった。最初からこちらは敵意しか抱いていなかったのというのに、いつでも疑いもしていないような笑顔で私を迎え入れて。そして結局、裏切りに絶望した目で逝った。

 思えばあの瞬間が最も喜ばしく胸が空く思いがした。

 あれで懲りればよかったものを、生まれ変わりも同じ道を辿っていくらしい。


 心中で呟いて、男はもう一歩足を踏み出した。

「鶫くん、どうして逃げるの?」

 己の中で最も柔らかいと言えるだろう微笑みを浮かべながら、青い顔をしている鶫に対して首を傾げた。そんなふうに避けられてしまってはとても悲しい、とでも言いたげに。

 鶫は声が出てこないのかただ後ずさるばかりで、男はそれに腹を抱えて笑ってしまいたい気分だった。


 全部お前が悪いのではないか。何をそれほど怯える?

 そもそもお前が月読と関わり合いにならなければ、お前が月読に妙なことを吹き込まなければ、月読がお前に惚れるようなきっかけを作らなければ、こんなことにはならなかったのだ。

 総てお前の身から出た錆だというのに、何を。


 蓮の花の上に映っていた鶫と瞳子の姿を思い出せば、どうせ同じ道を辿り始めているのだろうと想像するのは容易い。

 道を踏み外さないように自分が正しい道を示してやろうとしているというのに――男は思いながら、神社の敷地を囲う塀に追い詰められて逃げ場を失った鶫を眺めた。

「僕、何かした? 何でそんな、まるで怖いものを見てるみたいな目をしてるの?」

 優しく優しく鶫に問いかけつつ、脳裏に浮かんできたひとつの人影。長い髪を揺らし、派手な色味の着物に身を包んだ男――風巻だった。


 最後まで邪魔をしてきたあの男の仲間。確か風巻とかいう天狗だった。真っ先に始末したというのに、死してなお妨害するための小細工を遺していた。そんな小癪な手段、何の役にも立たなかったが。

 そのくせ今世では全く姿を現さない辺り、何も覚えていないのか。それとも生まれ変わっていないのか。


 それならそれで都合がいい、と男は嗤う。


 そして、どんな気分だ? あれほど慕い、愛おしんでいた義兄とやらのことを、全く思い出せていない気分は。


 再び大声で笑い転げたい気分が襲うが、男は深く呼吸をすることでこらえ、代わりにゆるゆると口角を持ち上げた。

 そもそも思い出せなければどうもこうもないな、と、光の槍を手にしながら。

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