彼女が語る存在意義
月読がいなくなってしまった。でも去り際に見せたあの表情は一人の人間のもので、おれはようやく彼女の心に触れられた気がする。
気が緩んだ途端に全身から痛みが感じられて、自分の体を見下ろしてみれば、予想以上に傷だらけだった。完全に焼け爛れている左腕を除けば、他は大したものではないけれども。
「久遠サマ!」
もうたまらないといった調子の寒露の声が響き、走ってくる足音も聞こえた。まるで自分が怪我をしているかのように顔をしかめながら左手に癒しの気を注いでくれる。
「早く本拠地に戻りましょう」
まだ寒露が手当てに回れない火傷を雪水が氷で冷やして、今にも泣きそうな顔をしている鈴菜が鈴を鳴らし結界を張ってくれる。おれは大人しく従い、治療を受けながら本拠地に戻った。
他の団員には心配をかけないよう裏から屋敷に入り、会議の部屋に身を落ち着ける。
寒露はようやく集中して治療に当たれるようになったからか、力を全開にして癒しの気を放ち始めた。いつもなら小言の一言二言、いやそれ以上が飛んできそうなものであるのに、無言なのが却って不気味だ。
てきぱきと彼の手伝いをする雪水や、その様子を見守っている鈴菜も何も発さない。戦いの場に姿を現さなかった玻璃と黒鉄も集まってきて、会議室には何処か緊迫した空気が流れ始めた。
「……怒ってるってのは分かるけど、今回のことは謝らない」
それを割って、おれははっきりと告げた。
「そんなことだろうと思ってました。というか、分かってます。だから、何も言えないんです」
拗ねたような様子でおれを見ようとはしないけれど、寒露もまたはっきりと返してくる。彼の力のおかげでようやく一番酷かった左の腕が癒え、それから間を置かず総ての傷が治った。
傷があった場所にそっと触れた手があるのでそちらを見ると、それは雪水だった。
「久遠さまのおっしゃっていることは正しいです。それは私たちも分かっています。それでも言います。無茶なさらないでください……! 久遠さまが怪我を負われるようなことがあったら、私たちも同じように痛いのです。たとえ私たちは怪我をしていなかったとしても」
縋るような目で、今にも泣きそうな震えた声で、彼女は訴える。他の幹部も――いつも一歩下がって見ている玻璃でさえ――皆一様に頷いていた。
「……うん」
謝らないと言ったし、考えを撤回する気もないから、それだけを返した。仲間たちの方も多分それで充分だったようで、もう何も言わない。
「何か機会があれば、もう一度接触してみるけど……絶対に無理をしない範囲内で、って約束する。危ないと思ったらもちろん逃げるよ。だから、お前たちの方も今度は言いつけを守ってくれるよな?」
にやりと笑えば、無視して駆けつけてきた三人は気まずそうに一瞬目を逸らすも、全員がきちんとこちらを見て頷いてくれた。
「でも、これからどうなさるおつもりですか? 何も言わずに去っていったのは気になりますが、あれでは話ができるという様子では……。今日の二の舞になってしまうのではありませんか?」
雪水の問い。玻璃はそれを聞きつつといった感じでおれの肩に羽織をそっと置いてくれる。着物の其処此処が焼けてぼろぼろなのでありがたく厚意を受け取り、しばし考える。
去り際に見せた表情が眼裏に張り付いて離れない。あれは間違いなく、『月読』としてではない、一人の少女のものだった。
「多分、次には何とかなるよ。ってよりは、何とかする。もうお前たちにも心配はかけたくないしな」
それを聞くと雪水は「心配は勝手にしていることなのでお気になさらないでください!」と身を乗り出すので、ちょっと笑う。
それから鈴菜に視線を移した。
「鈴菜。月読の霊力の特徴は覚えたな?」
彼女は元々神に仕える者たちに使役されていた鈴から生まれた存在。妖力を源にしているとはいえ放つ術は巫女の使うものに近いし、その成り立ち上、団の中では一番巫女の探知能力に優れている。
「はい」
「じゃあ、月読の動きに変化があればおれに教えてくれ。あっちも同じように観察……っていうよりは監視をしてると思うから、慎重に」
再び頷いた鈴菜の頭を撫でて立ち上がった。
「じゃあ、心配かけたな。月読に目立った動きがなければいつも通りだから、皆それぞれの今日の持ち場に行ってくれ」
綺麗に揃った返事を聞きながら、自室に向かって歩みを進める。
途中に見えた月は、煌々と輝いていた。
● ● ●
今日は満月だというのに、生憎の雨だ。
鈴菜から報告がないことからして、此処三日、月読に目立った動きはなかったようだ。しかし今夜は満月で、しかも雨。どちらも妖が活発に動く条件であり、それが揃っている。何かしらがあるはずだ。
おれは水が得意ではないし、雨の日は憂鬱になるだけ。しかし水を喜ぶ妖怪たちにとっては恵みであり、現に団員でも騒いでいる者たちの声が聞こえる。
速く止まないものかと気怠い思いで外を眺めていたら、転げてしまうんじゃないかというほどの勢いで走ってくる足音が聞こえてきた。こちらに向かってくる。
「久遠さま、失礼します!」
そんな声に振り返ると、ほぼ同時に襖が開け放たれる。現れたのは鈴菜だった。
焦っているからか上気した頬、弾んだ息。おれはそれで総てを悟ってゆっくりと立ち上がった。
「二里ほど先で、月読が誰かと交戦しています……!!」
雨は世界を煙らせて美しいけれど、匂いや音が掻き消されてしまうのがよくない。彼女に言われて改めて集中して妖気を探ってみたら、相手も相当に強いということが分かった。
「久遠さま?」
「鈴菜、寒露を呼んで。外に出る準備をするようにも伝えて。あとの四人は団で待機しててくれ」
蓑や笠を用意し始めているのを見て察してくれたのか、彼女は「はい!」と返事をして出ていった。
準備をして玄関へと向かっていると、寒露の呼び声がする。後ろを見れば同じように雨具を纏った彼がいた。
「月読のところに向かうんですか?」
「うん。嫌な予感がする」
たった二回しか会っていない相手を、しかも巫女を心配しているなんて、と言いたげな顔をしている。けれど、おれがそういう奴だということを知っているためだろう、彼は何も言わずについてきてくれた。
妖気が感じられる方向へと走り始める。蛟たる彼は雨の中でもすいすいと動くが、視界が悪いからおれはいつもよりほんの少し速力が落ちていた。
それでも、二里という距離はたいしたものではない。すぐに月読の霊力が発する光と相手の放つ攻撃が見えてくる。どうやら北東の団の縄張りの傍にある森で戦闘は行われているらしい。
「寒露」
「はい」
みなまで言わなくとも察してくれたようで、彼は足を止めおれを見送る。
閃光がますます激しくなっている。よく見てみると、戦闘が繰り広げられている辺りだけが雨が降っていない――というよりは、雨が武器の一部として使われている。
月読の敵は、雨女だ。
「……!」
おれは息を呑んだ。
初めに見えたのは、大木へ優雅に腰をかけた女。彼女の周囲に落ちる雨粒は、指の動きに従って鋭い針へと形を変える。まず間違いなく彼女が雨女だ。
次には、雨女の使いであろう半透明の不思議なイキモノたちが目に入る。周囲に生えた少し背の高い草ほどしか大きさがなく、ぞろぞろと円を描いてはその中心にいる人物に対して飛沫を散らせている。
このような大規模な力を使えることや、感じられる妖気からしても、彼女は最上級の妖怪だろう。その中でも相当に強いと言える。
懸命に彼女の攻撃から身を護っているのは――月読。
こちらからは彼女の背中しか見えないが、大きく肩で息をしている。身に纏ったものは焼けたようにぼろぼろで、蓑などはもはや役目を果たせそうにない。
こちらに攻撃する意思がなかったとはいえ、先日おれを散々苦戦させた彼女とは思えない惨状。どういうことか訳が分からず、繰り返し目を瞬かせる。
だがすぐにその理由も分かった。周囲の雨の匂いに巻かれて気づけないでいたが、酷い臭いがする。降らせる雨水を雨女が変質させているのだ。月読は結界を張っているようだけれど、輝きがところどころ失われていて、穴だらけだということが分かる。
結界すら溶かす強力な酸の雨。呼吸も苦しくなっていくだろうし、人間の体にこれは辛いはず。戦う間に徐々にこれへと変えられていったのだとしたら察知するのが遅れるだろうし、なおさらだ。
しかし、それにしても彼女が此処まで一方的にやられるとは思い難いのだが。眉を顰めようとしたところで声が聞こえる。
「まだ妾に刃向かおうと? 今日という日に妾を敵に回すなど無謀じゃというのに」
歌うように言ってから、針の一本を口の端に咥える雨女。
そしておれに視線を遣り、
「猫又――『中央の団』とかいうものの長か。わざわざ訪れるとは、ぬし、この巫女に何か恨みがあるのかえ? つい二、三日前にも戦っていたようじゃが」
と笑んで見せる。驚いていないことからして、あちらもおれの存在に気づいていたのだろう。
瑠璃色の着物がその蒼い瞳によく映えている。右の目は長い前髪に隠されてしまってよく見えない。
向かって左を項が覗くほど短く、右に行くにつれて長くなっていくようにしている髪型は、何処か艶めかしさを感じさせる。恐らく白い首筋がよく見えるのと、ゆったりとした動きが影響しているとは思うが。
月読が驚いたように振り返った。その美しい白い肌は酸に焼かれ、爛れたり赤くなっていたりするところがある。
だがよく見ると、その手に鏡はない。彼女の苦戦の原因は確実にこれだ。
「恨みなんて、ないよ。それより、彼女の鏡をどうしたの」
ゆっくりと近づいていく。酸がおれの肌や着物を溶かすけれど、さほど気にならない。あまり長居してはおれにも毒だということは分かるが。
「それなら此処じゃえ」
ぱしんぱしんと右手で投げたり捕まえたりを繰り返されているものには見覚えがある。月読の鏡だった。
「どうして」
雨女は艶っぽく口の端を持ち上げる。切れ長の目の尻がゆるりと下がった。
「雨というのは慣れぬ者には残酷に働くものよの。手を滑らせて落としたのじゃ。『月読』としてはあるまじき失態か」
「黙りなさい!」
低い声で月読が制する。
「貴女一人ぐらい、鏡が使えなくとも倒すことはできます」
あくまで鏡は力を飛ばしやすくするための媒介。確かになくとも戦うことはできるのだろうが、それは今の状況でするとしてはまずい挑発である。
「ほう。ならば此処でこれが失われても問題ないのじゃな?」
楽しげに言ったと思ったら、雨女は先ほどまで咥えていたひときわ長い針を構え、酸を纏わせていた。軽く振りかぶったその先に何をしようとしているかなんて分かりきっている。
「やめろ!」
いち早く察知して、彼女の腕に爪閃斬を放った。躱す時、反射的に離された鏡を跳び上がって掴む。目を見張った雨女の手によって奪われないよう、勢いよく上体を倒して一回転し着地した。
「月読!」
彼女に放り投げて手渡すも、ほぼ同時に雫のイキモノたちが飛沫を舞わせる。目に入ってしまったのか視界が歪んだ。
「妖怪のくせに何故人間に味方をする――と訊きたいところだが、貴様らは『そういう』集団だったのぅ。だとすると、妾の敵じゃ。妾はヒトなど滅びればよいと思うからの」
着崩された着物から白い脚が覗く。彼女が片手を振り上げると、雨が一気に引いた。半透明の不思議なイキモノたちも消滅している。つい数瞬前まであれほどいたものたちが、初めから存在しなかったかのように。
本能が知らせる。これは、危険の前触れだ。
「月読下がれ!!」
叫んで、鏡を構えようとしていた彼女を突き飛ばす。その後自分も飛び退こうとしたが間に合わず、一気に降り注いできた酸の豪雨に体が焼かれる。流石に息も苦しい。咳き込もうとして喉の奥が焼け、ますます苦しくなる。悪循環だった。
「酸の雨に溶かされて死ね」
楽しそうな微笑みが目の前をちらついて、どうにかしなければと腕を上げようとする。そこを酸が焼く。痛い。彼女を倒さなければ、この激痛からは逃れられないのに。
「溶かされて、たまる、か!!」
腹から声を絞り出し、足に力を込めて跳び上がるのとほぼ同時。
「人間を舐めてもらっては困ります」
柔らかな光が辺りに満ち――空気が一気に清浄になる。
こういう状態には覚えがあった。
脳裏を掠めたのは、母代わりとなってくれた巫女の立ち姿。
初めて出会った時、彼女は同じようにしておれを救ってくれた。思い出して感傷に耽っている場合ではないと分かっていても、翠子の笑顔が眼裏に浮かぶ。
続けて、青色に発光する半透明の縄が、幾重にも重なって雨女を捕らえた。今まで優雅に腰かけていた枝から引きずり降ろされて宙吊りとなった彼女は、何とか腕を動かそうとしている。しかし締めつけを強くした縄はびくともしない。
月読の方を振り返りたいのをこらえ、おれは周囲を満たしたままのあたたかな光に包まれるようにしながら全力で駆け、雨女が苦し紛れに出現させた半透明のイキモノたちを八つ裂きにしていく。
その勢いのまま、彼女の胸に拳を叩き込んで貫いた。
骨が砕かれ、肉が潰れる鈍い音。脈打つ肉の感触。煮えたぎっているのかというほど熱く感じられる血。
臓物を潰されたからか、雨女は咳き込んで吐血している。
「ごめん。貴女は月読を――人を傷つけようとした。おれは、おれの意思に刃向かう奴は絶対に許さないって、誓ったから」
その血を浴びながら、小さく言った。
ヒトは殺さないと言いながら、こうして妖怪は殺すという矛盾。どちらも同じように守りたいと思っているのに。
妖怪の中には理解を決して得ることができない者もいるのだと知っているから、なんて、酷い言い訳だ。
――どっちかが許されないんなら、もう片方も許される道理はねぇさ。
いつかの義兄の言葉が否応なしに蘇る。
「女ですら容赦はせぬ、か」
掠れた声が耳元で響いた。
おれの右腕が彼女のほっそりとした体を貫いているために、計らずも抱き寄せているような状態になっている。それが耐えられなくて、静かに腕を抜いた。
「他を、踏みにじってでも、己の考えを突き通すのは……妾らと何ら変わりないと、思うのじゃがの――」
雨女が最後に見せたのは、嘲笑だった。明らかにそれ以外には取りようがない表情だった。
しかし閃光がおれの脇を通り抜け、彼女を完全に消し去ってしまう。跡形もなく。
だからせめて、彼女の血でこの右腕が染まったことを忘れないでおこうと思う。おれが自分勝手に命を奪い去ろうとしたのだということを。
「……どうして私を庇ったのですか」
右手から血を滴らせながら立ち尽くしていたおれに、後ろから声がかかった。月読だ。
「おれがそうしたいと思ったから」
振り返ると、彼女は今にも泣いてしまいそうな顔をしていた。
「意味が、分かりません」
「君に死んでほしくないと思ったから動いただけだよ。反射的だから、それしか理由は挙げられない」
少し困った顔で笑うと、ますます泣きそうにして俯いてしまう。傍に寄ろうとしても、「来ないで!!」と叫ばれてしまうし、どうしたらいいのか分からない。
「あれだけ好き勝手にやられて、しかもあなたに助けられるような失態を犯すなんて……!! もう、他の巫女に顔向けなどできません!!」
強く唇を噛みしめて、彼女は涙の滲んだ様相を隠す。降り注ぐ雨が涙のように見せていたのかもしれない。でも悔しそうなのには違いなくて、月読の抱く無念に似た感情がひしひしと伝わってきた。
「貴方が、貴方が妙なことを言ったりするから……! 頭の中がそれでいっぱいで、あの程度の敵にしてやられて……その上貴方に助けられて……」
とても強靭そうには見えない拳が近くの木の幹を叩く。血が滲み、痛々しく色を変えてもなお、彼女は何度も何度も同じ行為を繰り返した。
「……って、ます」
「え?」
「分かってます、貴方を責めても無意味で、責任転嫁をしているだけだってことぐらい! 私は強くなくてはならないのに、どうしてこんなにも弱い……!」
どすん、というひときわ大きな幹を叩く音が聞こえたと思ったら、彼女は膝から崩れ落ちる。反射的に血に濡れていない左手でそれを受け止めると、彼女は本格的に肩を震わせ始めていた。
「月読……霊力が、」
揺れる、と言いかけて、「それも分かっています」と震えた声が遮った。
「分かって、いるのにっ……」
彼女の強大な霊力が揺れているために、雑魚妖怪の気配が其処此処で感じられる。おれは強く妖気を発してそんな雑魚たちを威嚇した。
「――大丈夫。今はおれがいるから、雑魚妖怪は寄ってこないよ」
気配が一気に影を潜める。
彼女が安心して泣くことのできる状況ぐらい作ってあげたいと思った。この少女は、随分と泣くことを忘れていたようだから。
「惑ってはいけない。強く在らなくてはならない。弱みを見せたら、こうして妖怪たちが寄ってくる。そう教わってきて、私は『月読』だから……生まれた時から『月読』だから、誰よりもそれを実行しなくてはいけないのに」
紡がれる言葉と相反するように、彼女の声はますます涙に濡れていく。
迷った。でも、そうされることでどれだけ安心感が押し寄せるのかも知っていた。だから、そっと月読の背中を撫でる。
途端、体を硬くする月読。そんな反応もまたいじらしかった。
「救いになるかどうかは分からないし、無責任かもしれないけど。おれにとっては、君は一人の人間だよ」
自然とこぼれた言葉を聞き、彼女は「は……?」と呆気にとられたような表情になる。
「巫女だとか、敵だとか、そういうものの前に――期待とか、自分が背負った責任感に押し潰されそうになっている、一人の女の子にしか見えない」
彼女の漆黒の目をまっすぐに見つめた。
月読はぽかんと口を開けて呆けている。新鮮さがあってもう少し眺めていたい気もするが、そういうわけにもいかないだろう。
「君だっておれを助けてくれた」
「そ、れは、助けてもらってばかりではこちらの気が済まないから……」
「うん。それでいいんだよ」
怪訝そうにしている彼女の目にはもう、涙はなかった。
「人間だとか妖怪だとか、そういう括りを抜きにしたい。おれたちの掲げている理想はそういうことだ。そこにいる人をただの一人の存在として受け止められたら、っていう、そういう話なんだよ」
雨が弱まった。空を見上げると、晴れかかっている空から月が覗き始めている。
「寄ってきて君を殺そうとする妖怪もいるだろう。でも、君を助けたいって思ってる妖怪は間違いなく此処にいる。だから、今度は逆の存在も増えてくれたらいい。そう願って、行動してるんだ」
おれが見せる笑顔を彼女はいったいどう捉えているのだろう。読み取ることはできなかったが、二度会った時のような激情は見られなかった。
もしかすると、今なら言えるかもしれない。そんなことを思ったら胸がわずかに早鐘を打ち始める。
「一度、おれの団に来てみない? もちろん、お互いに攻撃は一切しないって条件付きだけど」
着物で血を拭い、右手を差し出す。
月読は数回おれの顔とその右手で視線を往復させ、やがて――
「……貴方はやっぱり、妙な妖怪です」
おれの手を、柔らかな手のひらが包み込んだ。




