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疑いを語る少年少女

 日の光は 雲に覆い隠され

 まばゆさ故に見失われていたものを取り戻す



   ● ● ●



 雪代神社のある山の傍に存在する、お洒落な雰囲気のカフェ。その窓辺の一席にて、小声の会話が成されている。

「あの人絶対に怪しいですよ……」

「んなことお前に言われるまでもなく分かってる。つーか何でここにいるんだクソ巫女の妹」

「真田先輩、今そういうことを言い争うと面倒な予感しかしないからとりあえず放置しよう?」

「クソ巫女って……姉さんのことそんな呼び名してるとかふざけてるんですか……? そしてたまたま見かけただけです」

「あぁ? いちいち癪に障るような言動しかしねぇからクソだっつってんだよ」

「何を言っちゃってるんですか? あたしでもしばらく身動き取れない程度の術はかけられるんですからね?」

「ああもう予想通りじゃんか……」

 火花を散らし合う宏基とひな子、その間に挟まれる形でため息をつく透。それぞれが制服姿で、学校帰りであるということが窺えた。

「ていうかいいの、中学生が制服でこんなところにいて」

「ばれなきゃいいんです。ばれてもテキトーに誤魔化します」

 ひな子の物言いに、一応気遣ったらしい透は「ああそう」ともはや諦めた様子。会話から察するところによれば、最初は宏基と透だけだったところに、通りがかったひな子がやってきたのだろう。

「まあ、ヒヨコの言うことも尤もだと思うよ? 真田先輩」

「だから分かってる」

「誰がヒヨコ……もういいです、とりあえず意見を聞いてもらえてるんなら」

 3人が3人とも好き勝手なことを言っているが、共通する意見がある。

「何かきな臭ぇんだよ……この間、鶫に『会った』ってことを聞かされてから。あの、水無月庸汰――とかいう奴」

 宏基がその場の雰囲気を代弁するかのように呟き、ひな子が大きく頷いた。透も何も言わないながら、その無言を以て肯定している。

「でも、姉さんも朝比奈先輩も、全く疑ってないっていうか」

 言ってから、心の中で燻っているものを忘れ去ろうとするかのように、ひな子は甘そうなホイップの載ったココアをちびちびと飲み下す。

「クソ巫女の方はどうだか知らねぇけど、あいつは昔からああだよ。今世は人見知りをするようになったからまだマシだけど、前世では、誰かを疑うことなんてほとんど考えもしないような人だった。だからこそ、その足りない部分を補ってた奴がいた。今世では何してんのかすら分かんねぇがな」

 透は少し驚いたようにして宏基を見遣る。彼はそんな視線を受け止めて、「俺は覚えてる」と小さく告げた。

 ひな子は怪訝に思ってそんな二人を見る。

「補ってた人、って……妖怪、ですか?」

「……そうだよ。久遠さまが創設した団の第一幹部。一番久遠さまとの付き合いが長くて、あの方からの信頼も得てた。だから、正直意外だったよ。寒露が、真田先輩として――久遠さまの生まれ変わりの幼なじみとして、一番近くにいたこと」

 長命な妖怪ならば、生きている可能性もあるのではないか。ひな子はそう言おうとしたに違いないが、寸前でやめたようだった。

 先ほどの宏基の言葉があったからである。「今世では何をしているか知らない」と。確信して「今世では」と言い切るのは、その人物の死を前世において見送っているからだと彼女にも分かったのだ。

 そして、宏基は透の言葉に何も反応もしない。彼自身、自分が一番近いところに生まれたという事実を長年疑問に思っているのかもしれなかった。

「まあ、今この場にいない奴の話をしたってどうしようもない。俺たちがあいつのことを護らなきゃならねぇんだよ。……妹、お前も、姉を護りたいなら――あいつからは目を離すな」

 宏基の真剣な目はひな子を僅かに畏怖させた。彼が鶫を護るためにどんなことをしたのか、彼女は知っている。いくら姉を大切に思っていても、ひな子にはあそこまでできる自信はなかった。

「……はい」

 でも傍にいて、注意していることはできる。彼女はそう結論づけ、宏基に頷いてみせた。

「雨宮。お前はあいつのこと、思い出したか」

 宏基はひな子から透に視線を移す。話を振られた彼は小さくかぶりを振った。

「中間前にも言ったけど、全く。真田先輩もでしょ?」

 彼らが庸汰に会ってから、既に3週間以上が経っていた。

 宏基も透も、テスト勉強の傍らずっと考えてきたらしい。しかし、全く以て思い出すことができなかったのである。

「何か、ほんと、きな臭ぇ……記憶もないぐらいに薄い関わりだったはずなのに、何であんなにするりと入ってこられる? 親しげにできる?」

 人差し指を唇に押し当てながら、宏基はぶつぶつとひとりごちる。透の心情も同様のようで、眉を顰め不可解な表情をしていた。

「何にしても、目を離したらいいことがない気がしますね。もう行きましょうか。朝比奈先輩は姉さんと一緒にうちへ向かったんでしょう?」

 いつの間に飲み切っていたのか、空になったグラスを置いてひな子は立ち上がった。その目に強い光を宿しながら。

「まあ、神出鬼没っぽいしな」

「ヒヨコに先に言われるってのは気に食わないけどね」

 続いて立ち上がる二人は、財布を持ってレジへと向かっていく。

「どういう意味ですかそれ……!」

 小声で叫びながら、ひな子はそれを追いかけていった。

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