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彼女の秘された過去

 雑魚たちの襲撃をかわし、先に進みながら、おれは周囲に立ち込める匂いに違和感を覚え始めていた。

 よく知っているような、それでいて知らないような。とても懐かしくて、同時に近寄りがたいような。そんな匂いだ。

 人間よりは利いても、おれたちほど嗅覚が強くない風巻は気づいていないようだが。かく言うおれだって、犬妖怪みたいに細かく嗅ぎ分けることはできないけれども。

「なーんか、嫌な匂いなんだよね……どっかで嗅いだことあるようなないような」

 呟くと、奥に進みながらも風巻が「妖怪か?」と尋ねてくる。

「うーん……」

 思い当たるものは、ひとつ、ある。しかし俄には信じがたいし、口にしていいものか迷うのだ。

 言葉を探していると、自身に何かが迫ってくる気配。おれは勢いよく跳び退いた。

 風巻も察したのか、立っていた場所を素早く退いている。

 直後、おれたちそれぞれがついさっきまでいたところに、束になっている糸が鈍い音を立てて落ちた。

「あー……?」

 眉を顰めてよくよく確認してみると、それは蜘蛛の糸だ。

 飛んできた方向を見遣れば、先ほど襲ってきたものの比ではない大きさの蜘蛛がいる。恐らく中位の土蜘蛛だろう。

「さっきよりは上位、か」

「人型とまではいかねぇか……」

 おれの言葉に応じるように風巻が言った。彼の方向に空気が流れていく感覚があるので、恐らく風を呼び寄せている。

 おれもいつでも技を放つことができるように、爪に妖力を込めて鋭く伸ばす。しかし、違和感を覚えた。たったこれだけのことをするのに、いつもよりほんの少し妖力がる気がするのだ。

「風巻。何となーくだけど、いつもより妖術使いにくい気、しねぇ?」

 巨体を揺らせて近づいてくる敵は、糸で攻撃してくる。半身になってよけつつ尋ねると、風巻は風で糸を散らしながら頷いた。

「あー、確かに」

 強制的にばらばらに飛ばされた糸は、緩やかな弧を描いててんで見当違いな方向へと向かっていった。おれたちを捕らえるのが目的だっただろうに。まあ、同情する気はないが。

「何か、変なとこ入っちまったのかもな」

 変なところ、には確かに違いないだろう。中心に進むにつれ、感覚がますますおかしくなっている気がする。おれの中の疑念が濃くなっていく。

「まあ今さら出ようとしても、似たようなこと起きそうだけど」

 ひとりごちて、跳び上がる。土蜘蛛の真上から技を放って、再び集合しようとしている糸をばらばらに断ち切る。すると、その切れたものも意思を持つかのように風巻の足元へ向かっていった。どうやら先ほどの血液と同じように(シュ)がかかっているらしい。

「ま、進むしかねぇだろ。ちょっとそいつ片付けたら一回こっち来い」

 だが彼は慌てず神通力で(シュ)を解除し、おれを見上げて言った。

「りょー、かい!」

 おれはもう一度爪に妖力を込め、閃爪斬を放ち土蜘蛛の巨体を真っ二つにする。

 その勢いのまま急降下し、木の枝を仲介にして再び跳び上がる。一回転の後、言われた通り風巻の隣へと着地した。

 すると彼は「じっとしてろ」という言葉を残し、何かを小声で唱えている。どうやら術をかけているようだ。だがこの局面で、しかもおれに対して何の? 首を傾げかけたが、知識を漁ってすぐに思い当たる。

 ――神通力に優れた天狗が使う術の中で最も厄介なのは、守護の術でしょうか。それをかけられた対象への攻撃を防ぐことができるので、こちらもいつも以上に攻撃へ力を割かなくてはいけないのですよ。

「守護の術? 話には聞いてたけど、流石」

 お礼を言って間もなく、何かが蠢く小さな音が耳に届いてそちらを見ると――両断されたはずの土蜘蛛が、それぞれ動き出していたのに目を見張った。

「……こりゃ、木っ端微塵にしなきゃ駄目か。つうか肉塊も動くとか、そういう気持ち悪ぃこと言わないよな?」

 自然にため息がこぼれていた。妖怪は総じて生命力が強いから有り得ない話ではないが、あれだけ体液を失っているのに動けるというのはまた妙で、作為的なものを感じる。

「そりゃ気持ち悪りぃな。……にしても、こんな悪趣味なこと誰がするかっつーとさ、」

 ずっと考えていた可能性に、此処まで来れば彼も気づいたようだ。

 おれにとって懐かしくて、でも近寄りたくない相手の匂い。そして(シュ)なんてものが使える。そのふたつを合わせ持つ存在なんて、二通りしか思い当たらない。


 それは――巫女と、法師。


 どちらがより残酷な真似、胸糞の悪い真似をするか。一概には言えないけれど。

「うーん……ふたつの可能性が浮かぶけど、多分その片方の方が濃厚かなーとは思う」

 風巻の言葉を引き継ぎつつ、両手の爪に込める妖力を倍増させて技の威力を上げる。途端に土蜘蛛の半身は木っ端微塵となった。

「だよなぁー」

 呟いた彼は、竜巻を起こして残った半身を捩じ切るように滅する。

 これで片付いた、と小さく息を吐き出した――のだが。

「うわー……予想通りだった……」

 予想通り、肉塊もぴくぴくと蠢いている。いくらなんでも慣れない光景だし、気持ち悪い。

「もうほっといて次行くぞ。どうせこれだけ細切れじゃ、守護に影響あるほどのことはできねぇよ」

 風巻はあっさりといって歩き始める。納得するしかなくて、おれはその後を追い始めた。

 一歩進むごとに全身に圧力がかかってくる気がする。日の光がますます遮られていって暗くなるが、明らかにそれだけが原因でない嫌な雰囲気を感じていた。

 その後は、植物妖怪が出てきてその妖力の源である『核』を捜して壊すのに苦労したり、下位の中の下位、低級な蛟が大量に現れて消耗戦を狙われたりと、とにもかくにも緩やかに首を絞められるような攻撃が続いた。総て風巻が風で吹き飛ばしたりおれが切り刻んだりして片付けたけれど。

 少しずつ戦法や強さが変わってきているとはいえ、こんなふうに雑魚妖怪ばかりを向けてきて何が目的なのだ?

 納得がいかない思いを抱えつつ進んでいくと、突如として人間の街に風景が様変わりした。

「……お?」

 いきなりであったからか、風巻が驚いたように声を上げる。飄々としている彼にしては珍しい。

「……匂いがしないなあ。ついさっきの蛟であんまり当てにならないけど。幻術か」

 蛟の毒気を先ほど諸に吸い込んでいたから少し鼻が馬鹿になっているけれども、繰り返し嗅いでも人間の匂いは全く感じられない。

「試してみるか?」

 言ってから風巻は手を伸ばして何事か唱えている。この状況が何によってもたらされているのかを見定めようとしているらしい。

「……上級が使う幻術だと、匂いも感触もあるから厄介なんだけどね」

 たとえば九尾の狐だとか、化け狸だとか。そういう妖怪は幻術を操る。


 ――法師や巫女も。


 風巻が調べている間にも、ヒトが家から出てきてこちらに向かってくる。

「……術っぽいな」

 彼がそう断じるのと同時、幻影たちは一気におれたちへ襲いかかってきた。その手にはすきくわ、鎌がある。刀もちらほらと見えた。

「なるほど。じゃあ突っ切っても問題ないな。……心は痛むかもしれないけど」

 ほんの少し顔が歪む。見えるのに、彼らは此処にはいない。違和感と同時に、風巻の言うところの『悪趣味』を感じた。

「それが狙いなんだろ。お人好し」

 振り返った彼は呆れ顔をしていた。そして彼の妖力がだんだんと跳ね上がっていく。

「お人好しかなあ……普通じゃない?」

「普通ね……まあ、そりゃ千差万別だろ。個人差だ、個人差」

 引っかかる言い方だから、きっと彼にとっては普通ではないのだろう。優しい、とは月読に何度も言われたけれど、お人好しは初めて言われた。

「個人差かぁ……」

 腑に落ちないが、彼がまたも何事かを唱えているのを見てそれ以上の問答はやめた。

 おれたちを囲った幻影たちは一斉に持っている武器を振り下ろしている。幻と分かっていても条件反射で防御の姿勢を取りそうになるが、「動くなよ!」という鋭い制止が聞こえて止まる。

 瞬きをしたら、今まで見えていた景色は総て掻き消え、代わりに元の不気味な森の景色が現れた。

「……流石に疲れた。お前が前行けー」

 伸びをする風巻には、確かに少し疲労の色が見える。妖力の制限で治癒力もまた制されている。溜まった疲れが取れないのだろう。

「大丈夫?」

 彼に押されるようにしたまま進む。「大がかりなのをもっかい使ったりしなきゃ平気だ」という彼の台詞を信用し、前を向いた。

 ほどなく、人型の蛟が何人かおれたちの前に立ち塞がる。

「ようやく人型のお出ましか? ……にしても、人型の蛟が何人も一緒にいるたぁ珍しいな」

 蛟は同族でさえ仲があまりよくない。妖力を高めるために他の妖怪を食うことは珍しいことではないが、蛟では同族同士においても折々あるからだ。一番手っ取り早く毒の能力を手に入れられるらしい。

 だからこそ、蛟は妖怪の中でも忌み嫌われやすい。それも種のひとつの在り方であるのだからとやかく言えたものではないと思うが、気持ちは分からないでもないし、仕方ないかもしれない。

「共食いするし、人間の獲物の奪い合いも割に多いしねえ。まあヒトに関しては猫又も人のこと言えないけど、個人個人の我が強いと思ってた」

 多分、というか確実に、(シュ)のためであるけれど。

 爪に妖力を込めながら飛んできた毒気の塊を躱し、一気に距離を詰めて切りかかる。蛟は咄嗟に反応できなかったのか、致命傷には至らないながらも肉を大きく抉った感触がした。

「血に気をつけろよー」

 言いながら風巻は風の刃を蛟に放っている。

 確かに人型ともなれば血液中の毒も威力を増しているだろう。月読と初めて会った日、下位の蛟にしてやられたことを苦々しく思い出す。だがあの時のように弱ってもいないし怪我も負っていない。

「うん大丈夫、毒食らってもすぐ治るから」

 返して、今倒し損ねた相手の腹に風穴を開ける。

 援護に回りながらの「妖力が制限されてっから言ってんだけどな……」という風巻の溜め息を遠くに聞きつつ、相手の胴を強く蹴った勢いで腕を抜いた。続いて後ろからやってきた敵を回し蹴りで沈め、そいつを足場にして跳び上がり、別な相手の首を切り裂く。

 風巻が風で毒を払ってくれているからか毒気どっけは思っていた以上におれには効果を表さず、元気に動き回れた。

 死角を狙って放られた毒気を一回転して避け、閃爪斬を飛ばすことで一気に二体を片付けた。

「あ、風巻ー! そっちに一匹行った、ごめん」

 軽く舌打ちしつつ、逃げられないうちに蹴り倒して八つ裂きにする。血飛沫が舞って返り血となりおれに襲いかかってくるが、それもひらりひらりと躱した。

「ちっとは休んだから気にすんなー」

 風巻の方をちらりと確認すると、いつの間にか手にあった小刀で的確に首を裂き、とどめに風で体を貫いている。

「流石は風巻!」

 本当に何も問題がなさそうだったので、最後の一匹の胸を両手で貫く。そしてそのまま力を込めて体をふたつに分裂させた。

「馬鹿力だなー」

 小刀の血を払って感心したように言う風巻に「父上譲り!」と笑って、おれも腕や足についた赤い液体を払う。

 父もたまにこういう戦い方をしては、母に「もう少し普通に戦えないのですか」と眉を顰められていた。今ではもう、遠い日の思い出だけれど。

「そりゃすげーな。血筋か」

 あらかたぬるぬるした感触がなくなったのを確認しながら、風巻に笑顔を返した。


 それに反応したかのように、首飾りが唐突に熱を持つ。


「……?」

 あたかも、これ以上進むな、とでも言うかのように。

 全感覚を研ぎ澄ませれば、今まで血や毒の臭いに惑わされて気づくことのなかった、特徴的すぎる匂いを悟った。心臓がどくりと脈打ち、一方向を見つめる。


 袈裟姿の男たちがこちらに向かってきていた。


「どれ、行くか――」

「風巻、ちょっと待った!」

 歩き出そうとした風巻の腕を取って引き留め、一緒に後ろに跳ぶ。今の今までいた場所から寸分の狂いもなく、法力の矢が突き刺さった。

「法師……」

 翼を出した風巻が、安全な位置までおれを連れて下がる。おれはじっと見つめて、何人がいるのか数え上げた。

「1、2……5人か。分が悪いなあ」

 舌打ちして追うように飛んできた法力の矢を技で相殺するが、続く攻撃は何かに遮られたかのように立ち消える。どうやら風巻が結界を張ってくれたらしい。

「流石に一気に集まりすぎじゃねぇか?」

 訝しげな問いの答えは、簡単だ。

「……、最初からいたんじゃない」

 法力の塊が飛んでくるが、強められた様子の結界はびくともしない。

「ま、幻術だ何だはこいつらの仕業だろうな……」

 その言葉には首肯し、気配を確認する。次から次に数は増えていき、今や完全に囲まれているのを察して、「まだ湧いてくるか……」と呟いた。

「囲まれたな、これ。いや、巫女もいるな」

 法師だけではない。白小袖に緋袴の女性は巫女だ。どうやら彼女たちも関係者らしい。

「巫女ぉ? ……確かにいるな。こんな悪趣味なことすんのは法師の方だと思ってたけどな」

 素っ頓狂な声を上げた風巻の視界にも入ったようで、意外そうに感想を述べる。

 悪い巫女もいるし、いい法師もいる。だがこれはきっとそれで一括りにはできない。何かがあるのだ。この未開の地には、やはり。

「撤退するか、って聞きたいとこだけど、これじゃあな……」

 右を見ても左を見ても、正面を見ても後ろを見ても、それなりに実力がありそうな者たちが控えている。こうしている今もなお攻撃を加えられているのだ。

 風巻は結界の範囲を広げてくれていたようだが、いつまで持つかは分からない。

 攻撃は法師に任せたのか、巫女は鏡を向けて術式を組み立てるための詠唱をしている。聞き覚えがあったので何をしようとしているかはすぐに分かった。敵の結界を解除するための術を用意しているのだ。

 月読ならば一人でできたけれど、並みの巫女は数人がかりでひとつの術を組み立てる。それぞれの力を寄り合わせて作り上げるのだし、威力は充分のはずだ。

「まあな。――隙見て撤退するっきゃねぇな、これ」

 術が完成してしまえば、ほぼ確実に結界は破壊される。それまでにどうにかしなければ。妖力が制限されている状況でこの多人数を相手にできるわけがない。

 どうする。敵がいないのは、あとは地面と――

「上……も駄目かな」

 木々の隙間から空が見え、まるで希望のように明るい。

「試してみる価値はあるな。結界があったとしても、一回くらいなら破れるかもしれねぇし」

 同じく空を見上げた風巻に頷いて、おれは地面に向き直った。

「煙幕、作る!」

 言いながら技で土を抉り、埃で目眩ましを作り上げる。彼はそれと同時に爆発的に妖力を高め、上空の結界に向かって神通力を放つ。やってきた衝撃からして、どうやら予想通り結界があったみたいだ。

「お?」

 それを知覚するかしないかの刹那、体がふわりと宙に浮いて驚いた。そしてぐんぐんと地面が遠くなる。風巻が抱え上げて飛んでいるらしい。

「止めろ!!」

 気づいた法師や巫女が力を放とうとしていたので、閃爪斬を放って飛び退かせる。

 「掴まってろよっ」という声がかかり、俵担ぎにされて完全に空を舞った。未開の地を覆っている木々が遠くなる。滞空という初めての体験に楽しさが湧くも、そうも言っていられる状況ではあまりない。

「何なんだろうな、あの場所……」

 未開の地から充分に距離を取った頃、風巻が小さく零した。

 戦法や相手は変わりながらも繰り返し『戦わせられた』状況。人里の幻影。最終的に現れた法師や巫女たち。そして月読がおれに教えてくれようとはしなかった訳。

 それらは総て一本の可能性に繋がる。

「んー……自信なかったから黙ってたんだけど、何となく法師とか巫女の気配っていうか匂いっていうか……そういうの、ずっと感じてたんだよね。結果的に現れたから確信に変わったけど」

「……あいつらが常駐してるってことか?」

 おれの言葉に素早く反応する風巻。ちらりと風巻の顔を見て、首を縦に振った。

「うん。それにずっと不思議だったことがあってさ。どんなに年若く見える法師や巫女でも、ある程度っていうか、かなりの程度の実力を持ってること、多いと思わない?」

 里を滅ぼされて以降、幾度も彼らに遭遇してきたが、途轍もなく弱いと言う相手には未だ出会ったことがない。どんな相手にもだいたいは追い詰められ、危機的な状況に追いやられた。月読ほどの力を持つことはなかろうとも、だ。

「……まあな。オレはそもそも、お前よりは法師と巫女に会ったことも少ねぇだろうが……一人でいるときに遭遇すると、どんな奴でも厄介だな」

 未開の地との距離を測っている風巻に引きずられるように、おれもそちらを振り返る。

 今までと何の違いもなく、これからもあの場所は存在し続けるのだろう。おれたちが近づくか否かに全く関わらず。

 可能性の糸の先。母親代わりのあの人が言いたがらなかったのは、そこに彼女も少なからず、いや大きな関わりがあったから。

「それはずっと、実力がある人について徐々に強くなってるからだ、って思ってた。それもなくはないんだろうけど、もしかすると……ああいうところが、巨大な訓練場になってるんじゃない? 何かまるで、段階を踏んでるみたいだって思わなかった?」

 裏切られた、とは思わない。彼女が巫女との関わりを厭った理由もきっとこういうところにあったのだろうから。

 ただ、悲しくは思う。聞いたところで嫌いはしなかったのに。

 教えて、ほしかったよ。貴女の間違った道も、後悔している過去も。

「……最初は低級から、で、最後が人型か。だとすると、人里の幻影は――人里を襲った妖怪に対応するため、とかか?」

 風巻も納得したのか言うも、とても胸糞が悪そうな表情をしている。おれもその意見におおむね賛成だ。ひとつだけ言うならば、人里の幻影が存在したのは、ヒトを操って同士討ちさせる妖怪と相対したときに迷わず対処できるように、だろう。

「うん、多分。あの場所で戦って、彼らの中にある基準を満たすことのできる人たちだけが戦場に出られる、とかね。きっとそこまでの実力がない人は、集められてどっかの守護に当てられてるのかも」

 声は自然に小さくなる。期せずして、月読の秘密を暴いてしまった気がした。

「……じゃあ、あいつらは殺されるために生かされてるってわけか」

 だいぶ距離を取ったからか、風巻は降下しておれを地面へと降ろす。

 土蜘蛛、妖狐、蛟、その他諸々の妖怪たち。彼らはただそれだけを目的として生かされ、結局命を奪われる。

「……うん。たまに行われる大規模な掃討は、」

 続きが言えない。分かっているのに、分かりきっていることなのに。

「――妖怪を調達するためってか?」

 少ししてから風巻が結局引き取ってくれる。

「うん。聞いた限りでも、おれが里を滅ぼされた後に少ししてから、蛟の掃討。その後、何年か単位で土蜘蛛、妖狐、雪女、その他にもいろいろあるけど……どれもそこそこの大きさの里とか、群れとか。見せしめのように子供が殺されるのも共通してる」

 そういうおれの里でも、女子供も容赦なく殺されたのだ。月影のように。

「……天狗がいなかったのは不可侵のおかげってことか」

「うん……あとは、天狗の場合は多くが人型だから、相手も中々殺しにくいってのもあるかもしれない。そして人に害なすことも稀だろ? 里の場所が、もしもまだ巫女にしか知られてないのなら……なおさらかも。猫又がいないのは、逆にだいぶ害なすことが多かったから、かな」

 利用する価値もない、ということ。おくびにも出さないが、それほどに憎まれているのかと思うと胸は塞いだ。

 沈黙が流れる。おれも風巻も、ただ言うべきことを探していた。

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