第9話:蛍
「やる。」
「…。」夕飯の時間、今日もおかずには人参が…。案の定、太陽君は綺麗に人参だけ残し、皿を私の方に寄せてきた。
「こんなに人参ばっかりいらない。」私は皿を押し返す。
「美容のためだ。」…失礼な人だなぁ。遠回しに不細工って言いやがった。私は苛々する気持ちをどうにか抑えて、太陽君の人参に手をつけた。こっちに来てから苛々することが多くなった気がする。まぁ、100%太陽君のせいだろうけど。
「無理に食べなくてもいいんだよぉ。」おばあちゃんが心配そうに私に言った。
「大丈夫だよ。人参好きだから。」
「そうかい?」
「おばあちゃんが作ったご飯だもん、残したくないし。」私がそう言うとおばあちゃんと光代さんは嬉しそうに笑った。おばあちゃん達の笑顔があまりにもかわいくて、私も一緒ににっこり笑ってしまう。こういうところで育ったから、きっと綺麗な心なんだろうなぁ。
でも、なんで太陽君は素直じゃないんだろう。こんないい所で暮らしてるのに。私は横目でちらっと太陽君を見た。
「なんだよ。」
「別に。」
「なんか怒ってんの?」その言葉に私は首を横に振った。本当は可愛くないって言われたのが、ちょっとむかついたんだけど。
「顔に出てっけど。」
「怒ってないよ。」
「…ふぅん。スイカまだ余ってるけど…」
「食べる!」スイカに敏感に反応した私をみんなが笑った。つい、昼に食べたスイカの美味しさが蘇って…リアクション大きかったかな。私は恥ずかしくなって俯いた。
「そんなにうまかったか?」
「…うん。」私が小さく返事をすると、太陽君は今までとは違う笑顔を一瞬見せた。おばあちゃん達に似た優しくて暖かい笑顔。
いつも無愛想な顔をしてるから…思わずギャップにやられちゃうじゃん。ドキドキしてるのがばれてしまいそうで、私はおもいっきり目をそらした。
「あ?」
「ちょっと、目にゴミが入った。」私はそんな小学生レベルの嘘で、この場を乗り切ろうとした。
「食べるときは縁側で食べらい。蛍が見れるかもしれんよぉ。」
「蛍?!」おばあちゃんの言葉に私は驚いた。蛍って絶滅したんじゃないの…?
「麗ちゃんは蛍見たことないのかい?」
「うん、ないです。蛍かぁ…見てみたいなぁ。」
「運がよければな。」私がうきうきしていると、太陽君は突然口を挟んできて夢を壊した。
「きっと見れるよ…。」私がそう言って落ち込むと、太陽君は困ったように頭をかいた。
「まぁ、気長に待てば見つかるかも。」
太陽君は少し恥ずかしそうに呟いた。