第3話:田舎に帰ろう
「れーい!ごはーん!」制服のままいつの間にか寝てしまっていた私は、母の大声で目を覚ました。
「ごめん、今作るから。」
「今日は私が作ったから早く食べちゃって。」
「えっ、お母さん作ったの?」
「今日は成功したから大丈夫!早く来てね。」そう言い残して母は部屋を出た。
正直、食べたくない。うちの母は昔から仕事熱心で、料理や掃除は苦手だった。その代わり父が家のことはたいていやっていた。…その父も私が中学に上がるときに交通事故で死んでしまった。
父の仕事を引き継いだのが私。母は前以上に仕事に一生懸命になり、私は一人で過ごすことが多くなった。珍しく今日は早いお帰りだ。
とりあえず普段着に着替えて私はリビングに向かった。
「あれ…?上手だね。」テーブルに並べられた夕食を見て私は驚いた。母にしては上出来だ。
「私だってやればできるんだから。」
「ふーん。」私は椅子に座り用意されていたご飯に手を付けた。………。
「…買ってきたでしょ。」
「あれ?ばれた?」向かいに座る母は得意げに笑った。まったくこの人は…。
「まぁ、おいしいからいいけど。そういえば何で今日早いの?」
「そんなの大事な娘に会いたかったからに決まってるじゃーん。」
「はいはい。」私はこっそりとため息をついた。何でこの人は40にもなってこんなに落ち着きがないんだろう。
「あ、大事な話があるんだった。」
「…何?」
「麗、夏休みの間おばあちゃんとこにお世話になってね。」
「何で?」私はご飯を食べながら適当に話を聞いていた。
「だって仕事で暫く帰って来れないんだもん。」
「そんなの毎度のことじゃん。」
「だって女の子一人で留守番なんて危険でしょ?」
「それに気付くならもっと早くしてほしかったんだけど。」
「たまには環境の違うところで勉強した方がはかどるんじゃない?」
「…それはいいね。」ようやく出た私のOKに母は喜んでいる様子だった。
「京都だっけ?」
「うぅん、そっちじゃない。」…え?そっちじゃない?
「お父さんの方の実家。」……それって…。
「あの電波の入らない?」
「うん。」
「コンビニまで車で1時間かかる?」
「うん。」
「電車が1日2本しか走らない?」
「うん。よく知ってるねー。」
「……。」どうやら私はとんでもない田舎に行くことになるようです。