第26話:イチゴ味
着慣れないスーツを身に纏い、桜並木の下を歩く。今日は大学の入学式だ。
太陽君のことを考えない日はなかったけど、不思議と勉強ははかどった。おかげで私は無事志望校を合格することができた。ただ、悠乃と進路が違うのは寂しかった。
「麗ちゃん。おはよ。」
私の肩を叩き声をかけてきたのは、唯一同じ高校から入った恭子ちゃんだった。あまり親しくしてなかったけど、明るい人なのですぐに打ち解けられそうだ。
「おはよ。スーツ似合ってるね。」
「えー、嫌味ぃ?麗ちゃんの方がめっちゃ似合ってるよー。」
なんだかちょっと悠乃に似てるかも…。思わず私はくすりと笑った。
「えっ、何?」
「何でもない。入学式緊張するね。」
「うん。かっこいい人いるといいね!」
「えっ、そこ?」私の台詞に恭子ちゃんは八重歯を見せて笑った。
可愛い人だなぁと素直に思った。これから仲良くやっていけたらいいな。
「…ね、あの人麗ちゃんのこと見てない?一目惚れかなぁ?」にやにやと笑いながら恭子ちゃんは私の肩をつつく。
「そんなの有り得ないよ。」そう言いつつも私は恭子ちゃんの視線の先を探した。
「…。」何メートルか先の桜の木の下に見慣れた男の人が立っていた。
『もしも運命ならまたいつか会える気がするの…』
「麗ちゃん?」立ち止まる私に、恭子ちゃんは不思議そうに問い掛けた。
何でかな。こうなる気がしてた。また会える気がしてたの。なのに、体が動かないや…。
見慣れた男は静かに近づいてくる。恭子ちゃんは何かを感じたのか、私の背中を押してその場を去っていった。私たちの間に懐かしい時間が流れる。まるであの頃に戻ったみたいに。
「偶然じゃないからな。」
「へ?」太陽君の意味不明な台詞に、私は気の抜けた声を出した。せっかく再会して一言目がそれ?
「俺、元々ここが志望校で、あんたを驚かせようと思って最後まで黙ってたんだよね。まぁ、そんで言おうとしたら、あんたが訳わかんないこと言い始めたんだけど。」太陽君はあの頃と変わらない、呆れた声でそう言った。
「これでもうあんたの余計な考えはなくなんでしょ?」太陽君はそう優しく問い掛けた。
また太陽君の傍にいれるのかな…夢じゃないよね。
余計なことばっかり考えて、大切な気持ち押し殺して…そんなんじゃ幸せになんかなれないよね。
人を好きになるっていうことは簡単なことじゃない。誰もがみんなそんな想いを抱ける相手に出会えるとは限らないよね。大切な大切な出会いなんだ。
不安で当たり前。
自信がなくて当たり前。
全部完璧じゃなくていい。だって、これから2人で作っていくものだから。
「今度は正直に答えろよ。…俺のことどう思ってんの?」
「…好きっ!」涙を流しながら言う私に、太陽君は今までで1番の笑顔を見せた。
そう、まるで空に輝く太陽の様に。
その後、路上で派手な告白をした私と、そのお相手の太陽君は大学で有名なカップルになった。そりゃ、あんだけ目立てば当然の結果だけど。
ねぇ、太陽君。
あなたは私の太陽だなんて臭いことは言えないけど、ずっと私の隣で笑っていてね。
私は向日葵の様に太陽君だけ見つめてるから。
お互い初恋同士のこの恋は、なんだか回り道もしたし、複雑なことも考えちゃったし、うまくいかないことも沢山あったけど、きっといろんなことを一緒に学んでいけるね。
私の初恋が太陽君で良かったよ。
私の初恋。
甘くて酸っぱいイチゴ味。
第2作目書き終わりましたぁ!今回は自分の体験したコトの無いような恋愛だったので、書くのが大変でした。。 でも、私の知らない色んなところで色んな恋が芽生えてるんだろうなぁ…と思い、今までにない恋愛を書いてみました☆ 次回は自分の身近な人の恋愛を小説にしてみたいと思います! 読んで下さった皆様、ありがとうございました!