第22話:停電の夜に
夜の12時過ぎ。ちょうど勉強が一段落した私は布団を敷いた。今日は早く眠りにつこう。余計なことばっかり考えて、悲しくなる前に。
「雨、やまないなぁ…。」外は嵐のように雨風が吹き荒れている。さっきから何度か雷も聞こえた。雷は平気なわけじゃないけど、まだ堪えられる。それよりも怖いのは…。私は急いで布団を敷いて電気を消そうとした。
「きゃっ。」一段と大きな雷が鳴ると、電気は勝手に消えて真っ暗になった。私は泣きたくなるのを必死に堪えて携帯を探した。携帯の光があればなんとか…。そう、私は暗いところが苦手なのだ。だから寝るときは必ず豆電にしていた。停電なんて何年ぶりだろう…。私はどうしたらいいかわからずあたふたするばかりだった。焦っているせいか、携帯も見つからない。
なんでこんなめにあわなきゃいけないの?ただでさえ今辛いのに、こんな怖い思いしたくないよ!恐怖とむしゃくしゃした気持ちのせいで、涙は知らぬまに流れていた。
「麗?」いきなり眩しい光を浴びて私は顔を背けた。この声は太陽君…?
「あんた泣いてんの?」ライトを私の顔からずらし、太陽君は少しずつ近づいて来る。
「大丈夫かー?」こんなことで大泣きしている自分が恥ずかしくて、私は何も返事が出来ずにいた。
「あんた確か暗いとこ苦手だったような気がしたから、これ持ってきた。」太陽君はしゃがんで私の手にライトを持たせた。もう、行っちゃうのかな…やだよ。怖いよ。
「電気いつ回復するかわかんねぇし、とりあえずこれつけて寝とけ。」私が泣いているからか、太陽君の声はいつもより優しい。すごく安心する声のトーン。
「なんかあったら、ばあちゃんか俺んとこ来いよ?」そう言うと太陽君は立ち上がって背を向けた。歩き出そうとする太陽君の足を、私は無意識のうちに引っ張っていた。
「わっ。何だよ、あぶねぇだろ。」
「…かないで。…やだ。置い、てかない、で…」泣きながら必死に訴える私の横にに、太陽君は黙って座った。震えている私の手を太陽君がぎゅっと握る。
「これで、ちょっとは怖くねぇだろ。」ぶっきらぼうな言い方から、太陽君が照れてるのが伝わってくる。そうだよね…きっと女の子にこんなことしたことないよね。間接キスしたくらいで尻軽呼ばわれされたもんね。なんか調子のっちゃうよ…なんでこんなに優しくしてくれるの?女の子嫌いって言ってたじゃん。
「寂し…い。あた、し…ずっと、ここ、にいたい…」ひっくひっくと肩を揺らしながら必死に話す私を、太陽君はためらいがちに抱きしめた。びっくりして一瞬息が止まった。心臓が口から飛び出そうな感覚ってこんな感じ?キスをしたわけじゃない。エッチをしたわけじゃない。それなのにこんなに早く心臓は動くんだね。太陽君は右手で私の髪をゆっくりと撫でる。小さい頃よくお父さんにやってもらってたなぁ…。安心する。太陽君の一挙一動が私をドキドキさせたり、安心さすたりする。これが恋なんだね…。私今、幸せだよ?
「もう泣くなよ。ここにいんだろ。」
「だって…うれ、しくて…」
「どこがあまのじゃくだよ。…すげぇ可愛い、し…。」太陽君は雨の音に掻き消されてしまいそうな声で、そう呟いた。
「えっ…?」聞き間違えたのかと思い、太陽君の顔を見る。
「俺、あんたが初恋っぽい。」ぐっと心臓を掴まれたみたいに苦しくなった。それって私を好きってこと…?私は太陽君から目を反らせずにいた。でも、なんて言っていいのかわからなくて…ただ涙の溢れる瞳でずっと太陽君を見ていた。太陽君が私の前髪をかきあげて、そっとおでこにキスをした。恥ずかしそうに私を見る太陽君がすごく愛おしくて、可愛く思えた。おでこにキスされるだけで今びっくりするほどドキドキしてるよ。私も太陽君が初恋だよ。私の溢れる涙を親指で拭って、今度はほっぺにキスをした。テンパって何も言えない私の気持ち、もうばれちゃってるのかな。太陽君には見透かされちゃうのかな。それともこの心臓の音が聞こえてる?次に太陽君がどこにキスしようとしてるかわかるよ。太陽君と私は照れながらもずっと見つめ合っていた。
最初に目をつむったのは太陽君。それが合図だったかのように私も目をつむった。
触れたか触れないかわからないほど、優しいキスだった。
その夜、私たちは手を繋いで眠った。泣き付かれたせいなのか、よくわからなかったけど、太陽君の隣だとすぐ眠りに付けた。
間違いなく、太陽君は私の初恋でした。