第21話:どしゃぶり
「今日が最後だな。」
「…だね。てか、天気悪いね。」どんよりとした空を見上げ、私は泣きそうになるのを堪えた。昨日、太陽君に英語を教えていたときも上の空で…何を話したのか全然覚えてない。ただ、太陽君が淡々としてるのが妙に悲しかった。
「帰る前に蛍見れて良かったな。」
「毎日ここで探してたもんね。」そう。この縁側は私にとって1番幸せな場所だったよ。
「なんか話したいことねぇの?」
「えっ?」
「最後なんだし、盛り上がる話しろよ。」無茶を言う太陽君を困ったように見上げると、いつものように悪戯っぽい笑顔を向けられた。
盛り上がる話なんてないよ。私の中は悲しい気持ちでいっぱいなんだから。
「あんた寂しいんだろ?」
「ちっ、違うよ!」とっさに可愛くない返事をしてしまった自分に落ち込む。
「可愛くねぇー。」
「どうせあたしは可愛いげないよ。元カレにもそう言われ続けてるし。」
「…ふーん。それは男も悪いんじゃね?付き合ったことねぇからよくわかんねぇけど。」
「悪くないよ。自覚はあるから。あたしホントに無関心だったし、結構あまのじゃくだし。」私がそういうと太陽君は返事をしないで、ただ空を見ていた。
「雨、降ってきた。」
「…ホントだ。」まるで私の心みたいだね。今、太陽君から離れたくないって心が泣いてる。きっと部屋に戻ってしまえば、明日の朝さよならするくらいで…もう会えなくなっちゃうから。
「俺、雨嫌いなんだ。なんか暗くなる。」
「そう?あたし結構好きだよ。冷たくて気持ちいいから。」そう言うと太陽君は呆れた顔で私を見た。
「馬鹿の感想だな。」やれやれといったようにため息をつく。
「まぁ、天気のほうが気持ちいいけどね。」
「太陽があったほうがいいだろ、やっぱ。」
「うん。…太陽って名前だから雨だと元気でないのかなぁ?」
「あー、かも。」太陽君はこくこくと頷いた。本当に太陽君は暖かくて、大きくって太陽みたいな人だね。
「太陽っていい名前だね。」
「あんたもいい名前じゃん。綺麗の麗でしょ?まぁ、名前負けしてるけど。」
「…本当に失礼な人だよね。」私がムスッとしてると太陽君は横で小さく笑っていた。
「嘘だよ。俺もあまのじゃくだから。」
「へ?」びっくりしてる私を置いて、太陽君は部屋に戻った。なんだかドキドキする。でも、嬉しいことを言ってもらったのに、結局は…。さよならを言うのが怖い。こんな思いをするなら出会わないほうがよかったのかな?でも、そんな風には思いたくないんだ。この出会いが私を成長させてくれたんだって、そう思いたい。
雨は一層強さを増して、妙に悲しい音に聞こえた。