第20話:2日前
蛍を見つけてしまった私たちは、もう2人で縁側に座ることはなくなった。着々と帰る日は近づいているのに、全然実感が沸かない。
ただ1日1日、純粋にここにいる時間を楽しんだ。太陽君を避けるわけでもなく、近づこうとするわけでもなく。一定の距離を保って。
蛍を見ることがなくなった分、太陽君は勉強に時間を費やしているみたいだった。私はその姿を見る度、邪魔になるなよと自分に言い聞かせた。太陽君の夢を壊したくない。だから、迷惑になるようなことはしない。告白だってしない。その日になったらちゃんと笑顔で帰るんだ。
決して私は無理に、好きでいることを辞めようとは思わなかった。でも、あっちに帰ったら時間をかけて太陽君を忘れるつもりでいた。
それが1番だと思った。
「飯だぞ。」ノックもしないでドアを開けると、太陽君はそう言った。
「最近ノックしないよね。着替えてたらどうするの?」私は手に持っていたシャープペンの芯を縮ませ、筆箱に閉まった。
「…勉強?」
「あたしだって一応受験生ですから。」
「絶対受かれよ。」なんだか真剣に応援されて私は返事に困った。だって太陽君なら絶対『落ちろ』って言うと思ったから。
「太陽君も頑張ってよ?」
「あんたに言われなくても頑張ってるよ。」近くに来た私の頭を小突きながら、太陽君は偉そうに言った。
「絶対今回だけはあそこに入る。受かりたい理由があるし。」
「うん。」…知ってるよ。私もお父さんが死んだとき、何も出来ない自分が情けなく感じたなぁ。太陽君もきっと悔しくて情けなくて、沢山泣いたんだろうね。
そしてその気持ちから立ち直れたのは、医者になるっていう夢を見つけたからなんだよね。…応援しなくちゃ。
「…あんたさぁ、英語得意なんだよな?」前を歩いている太陽君が突然そう言った。
「うん、まぁ、一応。」
「後で教えて。あんたがここにいれんのもあと少しだし。」ずきっときた。私が目を背けてきたことを、太陽君があっさり言ったから。
ちゃんとわかってるつもりなのに…まだ、もっとって、どうしても思っちゃうよ。
太陽君はどうしてそんな平気そうな顔してんのかな。私がここからいなくなること、なんとも思ってないからだよね。
叶わない恋だってわかってても辛いよ…。