第14話:夢
夜に蛍を待つのが、私と太陽君との間で自然と日課になった。
私はその時間がとっても好きで、待ち遠しくて…顔に出てないかな?ばれてないかな?ちょっと心配。
「大学行くの?」
「ん。本当はこっから出たくねぇけど、どうしても行きたい大学あるから。」
「どこ?」私が首を傾げて尋ねると、太陽君は鼻で笑った。
「教えねぇ。」
「最低。」私が文句を言ったにも関わらず、太陽君は馬鹿にするように笑った。…こういうとこ嫌いじゃなかったりする。
「あんたは?」
「教えねぇ。」私は太陽君のまねをしてそう言った。
「最低。」太陽君も私のまねをした。なんだかくだらないけど、それが笑えた。
「あたし、保育士になりたいんだよね。生まれて初めて持った夢だし。」
「夢のない子供だったんだな。」
「まぁね。」
「否定しねぇのかよ。」私の頭を一発殴って太陽君は言った。
「いたっ。…ほんとのことだもん、否定しないよ。」私は昔っから大人びてるって言われてて、子供のくせに妙に現実的なことばっかり考えてた気がする。お父さんにもお母さんにも甘えちゃいけない気がして…だからあたしは彼氏に上手に甘えることができない。どうやったら可愛く甘えられるんだろう。逆に、どうゆうのがうざいって思われるんだろう。みんなはどうやってそれを見分けてるのかな。
「まぁ、今夢が持てたんならそれでいいんじゃね?俺も最近だし、行きたい大学見つけたの。」
「そうなの?」
「んー。今まで勉強してなかった分かなり焦ってるけど。」
「あたしもS大受かるといいけど…。」私がため息を着きながらそう言うと、太陽君は一瞬固まっていた。
「S大って、東京の?」
「うん。知ってるの?」
「…まぁ、名前くらいは。」なんだか変な感じだけど、私はあえて何も言わなかった。太陽君が『聞くなよ』って心の中で言った気がしたから。
「今日も来ねぇな。…戻るぞ、麗。」
「えっ!?」ゆっくりと立ち上がった太陽君を私は見上げる。今、私の名前呼んだ…?
「早く立てよ。」
「今、名前で呼んだ?」
「…気のせいだろ。。」太陽君はそう言って、私を一人縁側に残して帰っていった。
私はしばらくその場から動けずにいた。だって…好きな人に名前を呼ばれることが、こんなに嬉しいなんて知らなかったから。私、頑張ってもいいのかな…?