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本気で野球を好きならば  作者: ふりかけ
お前にとっての野球
3/4

凄いヤツ


「おい!お前ら、一回練習中断!

とりあえず片付けろ!」


「え、でもまだメニューが…」


「いいから早く!」


「あ、ああああっす!」


蒼井は俺をマウンドに立たせるなり、

部員に片付けを要求する。


メニューを全て終えていない部員は終始戸惑っていたが、主将には素直に従い、いち早く架設ネットやマシンの片付けを始めた。


おそらく、「あああす!」とか言うのは

この部ならではの掛け声なのだろう。


俺のいた中学では「うっす!」が野球部の基本だったから、ちょっとしっくり来ないが、練習に参加してなかったぶん、すぐに慣れた。


蒼井は一通り指示を終えると、振り返り、帽子をとって一礼した。


「改めて。おれは二年六組、蒼井惣悟(アオイソウゴ)。背番号2で、普段は捕手とサードをやってる。ついでに、この野球部のキャプテンだ。お前、下の名前は?」


「…哉汰(カナタ)、です。」


状況がいまいち飲み込めないが、率直に答えると、蒼井は足元に転がってきたボールを手にとり、グローブと一緒に俺に突き出す。


「哉汰、投げてくれ。」


「は…⁉」


「大丈夫だ、お前のボールは俺が取る。」


「いや…!そういう意味じゃなくて!」


「あ?」


「そもそも、俺、全然投げてないから、鈍ってるかもしれないんスけど…!」


「受験生だったんだから仕方ないだろ、」



蒼井は冷淡に言い、

納得していない俺をよそに、防具をつけ始める。



(嘘だろ…⁉)


気づいた時には、俺と蒼井の二人しかグラウンドにはいなかった。


辺りを見回すと見学している一年生を含め、他の部員全員がベンチに座ってその様子を伺っていた。


(多分、こいつらは気づいてないんだろうな…)


そもそも、俺は野球を辞めようとしてこの学校に進学を決めたんだ。


普通なら俺みたいな選手はこんな無名の高校になんか来ない。



「おい、皆見てろ、こいつのピッチングを」


ミットを構えながら部員に向かって蒼井が言う。


すると、一気に視線が俺に集中した。


「っ…」


中学時代の頃は野球に夢中で視線なんか気にしてられなかったが、いざこういう場所で投げるとなると、一気に背筋が凍る。



「蒼井先輩、なんで哉汰くんに投げさせようとしてるんですかね?」


三嶋は、仁原先輩や他の部員に問いつつも、哉汰のピッチングを見て見たいのか、視線は俺からそらさなかった。


「わからない、

けど、もしかしたら小早川くんは凄い人なのかもしれない。」


仁原先輩もまた、視線は逸らさずにジッとその様子を見ていた。


他の一年は誰だ誰だと、俺と同じように状況が把握できないみたいだ。


こうなると根気負けするっていうか、


投げざるを得なくなるよな。



(クッソ…)


おれは渋々とミットを右手にはめて、左手にボールを持ち、つい、マウンドの砂を蹴ってしまう。


(クセって、厄介だな)


俺は苦笑いしつつ、グローブに視線を移す。


蒼井は、俺が左利きだという事を知っていたのだろうか。グローブは左利き用のモノだった。



「まずは一本、本気のストレートな!」


彼はそう指示を出し、バッターボックス付近の定位置でどっしりと構えた。


(あんな体つきで俺のストレート取るつもりなのか…?)


俺は少し不安になりつつも、深呼吸して構えに入る。


俺は両手を上に上げ、大きく振りかぶる。


(これもクセだな…)


モーションに入りながら、自分の投球を確認しつつ、肩を回して球を放つ。




ああ、忘れかけていたこの感覚、

自分の投げたボールが宙を凪いで行く音。


投げた後の、左肩の脱力感。


全部、あの頃と同じだ。



バシィイン!


と力強い音を立てながら、ボールはミットに吸い込まれるように、深く突き刺さる。


その瞬間、

時が止まったかのように、周りが静まりかえった。



「す…ごい…!」


最初に口を開いたのは三嶋で、

それにつられて他の一年も凄い凄いと言わんばかりに拍手をする。



「何だ…今の…!」


二年は明らかに動揺していた。


凄いヤツがウチに来た、と。












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