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本気で野球を好きならば  作者: ふりかけ
お前にとっての野球
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お前にとっての野球

大好きなモノを諦めるのって、


こんなに大変なんだ。


マウンドでいない自分は、


こんなにもちっぽけな存在なんだ。






放課後。


入学式からもう一週間が経った。

気がつけば、仮入部の期間が始まろうとしていて、渡り廊下には様々な部活の彩り豊かな勧誘のポスターがずらりと並んでいた。


(部活…か)


自分には無縁だ、と溜め息をつきながら掲示板に沿って歩いていると、真っ先に目に入ったそのポスターが、俺の足をその場に留めようとする。


"目指すは日本一!"


太字で堂々たる宣言を含んだ要素が書かれているそのポスターに、俺は目を奪われた。



野球部。



ああ、見なければよかった。

内心そう思いつつも、俺の視線を釘付けにするそのポスターを詳しく見てみると、端には主将からのコメントが顔写真付きで書かれていた。


蒼井(アオイ)...惣悟(ソウゴ)? 」


"初心者、熟練者問わず、野球を本気で楽しみたい方は、一度見学に来て見てください。甲子園に連れてく覚悟はできてます。"


黒髪短髪で清潔感あふれる彼の写真からは、

野球大好き!というオーラが伝わってくる。



(甲子園とか、簡単に言ってくれるね)


全国大会なんて、容易に行けるモンじゃない。軽々しく見られているようで腹が立つ。



俺はこういうヤツが嫌いなんだ。



俺が掲示板から離れようとすると、後ろから何者かによって力を加えられる。


「野球、興味あるの?」


咄嗟に振り返ると、そこには自分より細身で、少し背の低い男子がいた。さっきの野球部の蒼井とかいうヤツとはまた違い、すこし茶色の混じった癖っ毛で、野球するのには適してないと思われる体つきの彼のネクタイの色をみてみると、俺と同じ赤だった。


(一年か…)


「別に、たまたま目に入っただけ。」


じゃ、と言って去ろうとすると、彼は俺の腕を掴み、待って待って!と揺さぶる。


なんだよ!と呆れながら手を振り払うと、彼はにっこりと笑って、唐突に自分の名札を指差した。


真嶋健(マシマケン)!一年四組!君は?」


「…小早川哉汰(コハヤカワカナタ)、一年三組」


真嶋は満面の笑みを浮かべながら俺の手を取り上下にブンブン振る。


(なんだコイツうぜえ)


「小早川くん!これから予定ある?」


「…無いけど」


「じゃあ決まりだね!」


「は…?って、おい!放せ!」


真嶋は俺の手を取ったまま、一目散に廊下を駆け抜ける。放課後ということで、HRを終えた女子生徒らが賑わっている教室を他所に、そのまま昇降口まで連れて行かれる。


途中の階段では吹奏楽部がチラシを配っていたが、彼はそれすらもスルーして、ただひたすら階段を急降下した。


その結果、昇降口に着いた時には既に俺は息切れ状態だった。


(…っクソ、だいぶ鈍ったな)


中3で部活を引退してから高校に入学するまでに、筋トレはしていたが、これと言ってスポーツに関わる機会が無かった俺は、走る事すら久しぶりすぎて笑えなかった。



そもそもこの状況がおかしすぎて笑えないが。


というかそもそも笑う気もないが。


「どこ連れてくつもりだよ…!」


俺が半分睨みをきかせて靴に履き替えると、真嶋は表情を変える事なく笑顔で答えた。


「野球部!」


「はあ⁉」


「ハイ、れっつごー哉汰!」


「どさくさに紛れて下の名前呼ぶなよ!」


「えーえ、いいじゃん哉汰ぁー」


俺は今度こそしっかりと真嶋の手を振り払って怒鳴る。


「うるさい!俺は野球が嫌いなんだよ!」


すると真嶋はビクッとして、悲しそうなカオをした。


真嶋も驚いていたが、もっと驚いていたのは自分自身で、つい口を手で塞ぐ。


(キツく言い過ぎたか…?)


「っとりあえず、見学ならお前一人で行け!

じゃあな」


俺は少し後ろめたく思いながらも、今にも泣き出しそうな真嶋に背を向けて昇降口を出る。


…そもそも、俺は思い知ったんだ、

野球は続けるべきじゃないって事を。


俺が複雑な表情で、校門を通過しようとすると、後ろから大きな声で呼び止められた。


「哉汰!」


「っ…!」


まだ凝りないのか、と思いつつも、つい振り返ってしまう。


「ほんとに野球が嫌いなら、あんなカオでポスター見つめたりしないよ、」


真嶋から感じる気迫。

何故だろう。


野球部に、行かなければならない気がする。



「お願いだから、一緒に行こう?」


心が揺らぐのと同時に、彼は動揺につけいるかのように、俺を見つめた。


俺は返事に困ったが、仕方ないか、と俺は溜め息をつく。


「今日…だけだからな」



呆れたように、そっけなく俺が言うと、


彼は再び笑みを浮かべた。





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