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06.即興小説、お題「淡い消費者金融」

即興小説トレーニング


お題:淡い消費者金融 必須要素:直木賞 残り時間:30分


淡いってどういう意味ですか?分かりません


「お願いします!三日待ってください!」

 俺は取り立てにきたコワモテのおじさんたちに土下座をしていた、お金がないからだ。

 きっかけは風俗だった。軽い気持ちだったのだ。どんなものかなーと一回ヤったら、ハマってしまったのだ。くそ、ハメられた……いや、俺がハメたんだけどね。

「おう、兄ちゃん、おめえ、土下座程度で引き下がると思うのか?」

 おじさんがガンをつけてくる。近い近い、怖い……

 ドサリ、あまりにも怖いので思わずカバンを落としてしまった。

「あん?なんだあ?これは……」

 おっさんがカバンの中身を覗きこんだ。

「……こ、これは……!?」

「はい……小説、です」

 俺はワナビだった。何作か仕上げたことはあるけど、賞に応募したことはない。自分でも分かっているのだ。こんな小説、誰が読んでも面白くないと。だから誰にも見せたことはなかった。

「……ふむふむ」

「あの?」

 おじさんは、真剣に俺の小説を読んでいた。あまりにもすごい剣幕だったので、僕はどうしたらいいのか分からず、とりあえず土下座から正座に姿勢を変えた。

「兄ちゃん……続きは、あるかい?」

「あ、いえ……まだ書いてないです」

「他にも書いてたり、するのかい?」

「家に行けば、何作かありますけど」

「じゃあ、行ってもいいか?」

「はっ?!……あ、いえ……いいです、けど……」

 おじさんはその後、俺の家に来て、僕が前に書いた小説を読んだ。量が量なので、俺が貸し出すというと、おじさんは目をキラキラさせて、

「本当か?いやー悪いなー」

 とホクホク顔で帰っていった。


「おう兄ちゃん、また来たぜ」

「すみません、もうちょっと待ってくださいっ!」

「兄ちゃん、確かに取り立てに来たのは間違いないが、今日は別にいいんだ。ほれ、昨日借りた小説、返すぜ」

「もう読んだのですか?」

「ああ、読みやすくて面白かったぜ」

 読みやすいといった点は、ただ単に僕の語彙が少なく、難しい言い回しや比喩表現が使えなかっただけだ。面白いというのも、ただ王道の作風だったからだ。

 ……けれども、一読者から面白いという言葉を聞かされて、なんだか嬉しかった。

「……おっちゃんにもな、小説家を目指す息子がいてな」

 おじさんは煙草に火をつけると、どこか遠い目をして語り始めた。

「小説家になりたい!と息子が言ったんだが、俺はそんな将来性のないことを目指すのはやめろと反対してな、結局息子は出て行ってしまったんだ」

「そうなのですか……」

「その後、息子の書いた小説を見つけたんだ。読んでみたら、面白くてなあ……なんで頭ごなしに否定したんだろうな。応援してやればよかったんだ」

 おじさんの顔には後悔の色があった。

「だからなあ、兄ちゃんの小説を読んで、どうにも応援したくなっちまったんだよ。これ、賞に出すんだろう?頑張れよ、兄ちゃん」

 そういっておじさんは帰っていった。

「……」

 俺は、どうするべきだろう。

 おじさんは面白いと言ってくれたが、正直俺の作品は稚拙なものだ。推敲はしてないし、ほとんどその場のノリで書いている。このまま出したとしても、一次選考を突破できるかどうか……

「……よし、」

 俺は筆を執った。新しく、一から小説を書こう。

 今までの作品はなあなあなものだった。けれど、今なら書ける気がする。はじめて、俺の小説を読んで、認めてくれた読者が、俺のことを応援してくれたのだ。俺は、それに応えなければならない。

 そう思うとやる気が出てきた。インスピレーションもあふれてくる。よし、いける、行けるぞー!!


 こうして俺は直木賞を取った。なお、俺が直木賞を受賞したことで、おじさんの息子は直木賞を取りそこなった。これは、俺のせいじゃない、せいじゃないぞ……

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