05.即興小説、お題「うわ...私の年収、仕事」
即興小説トレーニング
お題:うわ・・・私の年収、仕事 残り時間:30分
英雄くんの年収
「うわ・・・私の年収、仕事の割に少なすぎぃ!」
私は激怒した。こんなことあってはならないと!
私は抗議するために研究所に急いだ。中に入ると博士がなにやら実験をしている。
「おお、英雄くん、ちょうどいいところに」
憤慨した私を見ても、博士は気にしていない。これは天然ではなく、わざとだ。
「博士、お話があります」
「どうしたのだい、英雄くん、お腹が痛いのかい?」
「今日、源泉徴収票を取り寄せたのですが、162円って、いったいどうなってるんですか!いまどき幼稚園児でももっとお金持ってますよ!うまい棒が14本しか買えなかったじゃないですか!」
「まあまあ落ち着きたまえ英雄くん、こう見えてもここは優良企業なんだ。いいかい?」
そういって博士は説明を始めた。
「まず、この会社は社員寮がある、しかもタダだ」
「はい、毎日の食事がパンの耳か怪しい薬ですけど」
「次に、労働保険と社会保険に加入しておる」
「ついでに国民保険と生命保険に加入させてください」
「そして時給100万円だ」
「そうです、だからこの会社に応募したんです……ですがっ!」
俺は博士に掴みかかった。
「まあまあ、よしたまえ、早まってはならん」
「……ちぃ」
そう、なんだかんだ言って、私は博士には逆らえないのだ。弱みを握られているからだ。
「時給100万円は本当の話だ、嘘ではない」
「嘘ではなかったですね」
「ただ、英雄くん、君の仕事はなんだい?」
「ヒーロー活動です」
「そうだ、君はヒーローとして働き、ヒーローとして平和を守ってきた」
「はい」
「しかしだね、ヒーローは時に悪のみではなく公共物を壊す」
「はい」
「君だってたまにポカをして怪我を負ってしまう」
「はい」
「そんな時、どこから賠償請求や治療費を、どこから得ればいい?」
「……私しか、いませんか?」
「契約書には、きちんと書いたからね」
「ミクロサイズの字を読める男はいません」
「今の君なら読めるじゃないか」
「この……外道っ!」
私は研究所を飛び出した。
「……英雄くん、君には、死ぬまで働いてもらわなければならないのだ」
ひとりのマッドサイエンティストがいた。
彼は、自身の技術を用いた最強の兵器を作ることが夢だった。
しかし、彼の兵器は普通の人間には使いこなせない。
そんな折、一人の人間を見つけた。
彼は幼少期から貧乏なせいで、小さいころから運び屋などの裏の仕事をしていたのだ。
そのせいか、妙に彼の体は丈夫だった。
この子、実験台にしたい。博士が英雄に一目ぼれだった。
金をちらつかせ、契約を結び、改造手術を施してついでに自爆装置をつけた。
強い兵器を実戦で試してみたいがちょうどいい相手がいない。
しかたなしに悪の秘密結社を立ち上げた。
最初は英雄くんでも簡単に倒せる相手にして改造人間のボディをならすことを目的とした。
ある程度扱い方が分かってきたようなので、今度は英雄くんより少しだけ強い敵を繰り出した。
新しい兵器ができれば、それを用いるためにわざと英雄くんがピンチに陥るような敵を仕向けた。
英雄くんは怪我をして、ロケットパンチを手に入れた。
後はひたすら実戦実践また実戦だ。データを集め、より強い兵器を目指す。夢ははてしない。
「さて、次はどんな兵器にしようか……ライトセイバーなんていいかもしれないな、ふふ、最初は制御がうまくいかずに自滅するかもしれないが、それも経験値として蓄積されるだろう。ああ、楽しみだ」
そんなわけで、どうしても英雄くんには動かせる金があってはいけないのだ。お金があっては万が一が起こって彼がヒーロー活動をやめてしまう。それだけは、あってはならない。
英雄くんがそれを知って真の悪を知り、真のヒーローに目覚めるのは、また別の話。